【指導参考事項】
成績概要書                     (作成平成4年1月)
1.課題の分類  畜産 めん羊 衛生
          北海道 畜産
2.研究課題名  めん羊のコリネバクテリウム感染症の防除に関する試験
3.予算区分  共同道単
4.担当  滝川畜試 研究部 衛生科
5.研究期間  (平成元年〜平成3年)
6.協力・分担関係  酪農学園大学

7.目的
めん羊の乾酪性リンパ節炎はCorynebacerium pseudotuberculosis(以下C.p)が原因で起こり肺、肺の周囲のリンパ節を主に、体表リンパ節、内臓リンパ節および内臓諸器官に膿瘍を形成する疾患であり、近年その多発傾向が注目されている。本症に罹患すると繁殖雌羊では繁殖成績の低下や、淘汰の原因となったり、また肥育羊では内臓諸器官への著しい膿瘍形成は、食品としての価値を失うことになる。1988年には酪農大による本症の抗体調査の結果、平均39.3%のめん羊がC.pに対する抗体を有しておリ本症は広く道内の羊に浸潤していると思われる。
そこで、本症の原因菌であるC.pの生息場所や感染経路及び感染時期など感染発症に関与する要因を解明し、その予防対策を確立することを目的に研究を実施した。

8.試験方法
(1)膿瘍罹患の疫学調査
死亡あるいは淘汰羊について病理解剖を行い、膿瘍の形成部位、大きさ、数などについて調査。さらに、膿瘍材料から分離されたC.pについて薬剤感受性試験を実施。
(2)C.Pの生息場所の検索
C.pの選択培地を用いて2才以上のめん羊の身体の各部から材料を採取し、C.pの分離。また、死亡・淘汰羊の気道部からC.pの分離。
(3)抗体調査による感染時期の推定
剪毛前(4月)、剪毛後3ヵ月(7月)、終牧時(11月)に雌羊から採血を行い、ELISA法による抗体の測定。
(4)C.P感染症予防試験
剪毛時の外傷を感染の機会のひとつと考え、剪毛の際に生じた創傷部に希ヨードチンキ塗布、又はペニシリンを全身投与し、抗体陽転率から感染阻止効果を検討。
自家トキソイドワクチンを作成しその効果について検討。

9.結果の概要
(1)膿瘍の保有状況を死亡あるいは淘汰羊について年齢別に見ると、当才羊では8.7%、2才羊で61.5%、3〜9才羊では60〜90%と年令の高いもので保有率が高くなっていた(図1)。
膿瘍の出現部位としては肺で64.6%と高く、他のリンパ節、肺付属リンパ節が次いで多かった。
膿瘍81例中C.pが分離されたものは70例(86.4%)てあり、膿瘍の大部分がC.pによることが明らかとなった。
分離C.Pの薬剤感受性試験では、エリスロマイシン、ペニシリンG、アミノベンジルペニシリンに高い感受性を示した。
静脈内に菌接種したところ、9例中7例で肺に膿瘍の形成が確認できた。また、ELISA法による抗体測定では、膿瘍を認めたもの7例中6例で、膿瘍を認められなかった2例中1例で抗体陽性となった。
(2)一般健康羊の身体の各部位からは菌は分離されなかった。
剖検時に肺に膿瘍を認めた実験感染及び淘汰しためん羊6頭(第2群)の気道スワブを培養したところ気管支、気管、咽喉頭、鼻道でそれぞれ5例、5例、3例、1例からC.pが分離された(表1)。
(3)当才羊では抗体陽性率が5.0%と低かったが、2才羊では51.9%まで上昇し、それ以上の年令でも50〜90%と高く、膿瘍の年齢別保有率と一致した(図2)。
剪毛前(4月)、剪毛後(7月)、放牧終了後(11月)に採血し、ELISA法で抗体を測定したところ、剪毛後において抗体陽性率に著明な上昇がみられた。また、剪毛後の抗体陽転率も35〜55%と高い値を示し、剪毛時の創傷が主たる感染の機会であると推察された(図3)。
(4)剪毛時に受けた外傷に希ヨードチンキを塗布した群では30頭中7頭(23.3%)が抗体陽性となり、無処置群の30頭中17頭(56.7%)に比べて抗体の陽転率が低く、希ヨードチンキの塗布による感染阻止効果が認められた(表2)。
剪毛時にペニシリンを全身投与したところ、投与群では56頭中7頭(12.5%)が抗体陽性となった。非投与群では41頭中3頭(7.3%)が陽性となり両者の間で有意差は認められなかった。トキソイドワクチンを接種した群では非接種群に比べ膿瘍の形成部位が限局していたり、数が少ないなど効果のある傾向を示した。

10.主要成果の具体的数字


図1 死亡・淘汰羊の年齢別膿瘍保有率


図2 一般健康羊の年齢別抗体陽性率

表1 第2群で胚に膿瘍の認められためん羊からの
    C.pseudotuberculosisの分離部位及び分離頭数
羊No. 分離部位
気管支 気管 咽喉頭 鼻道 体表
1(実験感染) - - - - -
2(実験感染) - - -
3(実験感染) - - -
4(実験感染) - -
5(実験感染) - -
6(自然感染 -
6 5 5 3 1 0


図3 出生年別の抗体推移

表2 希ヨードチンキ塗布試験
供試
頭数
外傷 希ヨード
チンキ
3ヵ月後のC.P抗体
陽性 陰性
30 塗布 7(23.3%) 23(76.7%)A
30 無処置 17(56.7%) 13(43.3%)B
13 無処置 1(7.7%) 12(92.3%)AC
異文字間に有意差あり(P<0.01)

11.成果の活用面と留意点
(1)感染防除のために剪毛は若令の群から行なうこととし、傷ついた際には傷の大小に関係なく希ヨードチンキを塗布する。
(2)気道から菌の排出による環境汚染が考えられることから、畜舎の消毒等の衛生管理を行なう。
(3)老齢群は罹患率が高く、感染源となることが考えられるので罹患率の低い若令群とは一緒に飼養しないことが望ましい。

12.残された問題とその対応
(1)抗性物質による予防での投与薬剤、用法の検討。
(2)ワクチンによる予防の検討。