【指導参考事項】
試験研究成績                       (作成平成4年1月)
1.課題の分類  畜産 乳牛 飼養−根釧農試
          北海道
2.研究課題名  放牧期における養分摂取量の把握と乳成分低下要因の解明
         (集約的な放牧方式における乳牛の飼養法確立に関する試験)
         (草地型酪農における無脂固形分向上に関する試験)
3.予算区分  道単
4.研究期間  (平元年〜2年)
5.担当  根釧農試 酪農第一科・酪農第二科
6.協力・分担関係  なし

7.目的
放牧期における放牧草からの養分摂取量と乳生産との関係を検討し、制限放牧飼養における併給飼料の給与基準を策定するとともに、放牧主体飼養における乳成分の低下要因について検討する。

8.試験研究方法
試験1 制限放牧時における乳牛の飼料給与基準の策定
  1)3時間制限放牧における養分摂取量と乳生産
  供試牛:経産牛10頭 放牧時間:3時間(5:30-8:30)放牧密度:3.8頭/ha
  併給飼料:牧草サイレージ(1番草、自由採食)+濃厚飼料(泌乳前、中、後期:6.8、5.1、3.4㎏DM/日)
  2)6時間制限放牧における養分摂取と乳生産
  供試牛:経産牛10頭 放牧時間:3時間×2回(5:30-:8:30,15:30-18:30)放牧密度:3.6頭/ha
  併給飼料:牧草サイレージ(1番草、自由採食)+濃厚飼料(泌乳前、中、後期:6.8、5.1、3.4㎏DM/日)
試験2 放牧主体飯島における乳成分の低下要因の解明
  昼夜放牧区 供試牛 泌乳前期牛4頭 15時間放牧,濃厚飼料(6.8㎏DM/日)
  制限放牧区 供試牛 泌乳前期牛4頭 3時間放牧,濃厚飼料(同上)+牧草サイレージ(1番草、自由採食)

9.結果の概要・要約
試験1
1)3時間放牧における放牧草の乾物摂取量の季節変動は小さく、試験期間の平均値は5.0㎏/日であった。一方、6時間放牧における放牧草の乾物摂取量は、放牧草の栄養価等の影響を受けるものの、牧草サイレージを併給することにより、放牧期間における養分摂取量の変動は小さく、安定的な乳生産が可能であることを示した。
2)制限放牧時における分娩後日数とFCM量との関係式を求め、3および6時間放牧における1乳期の乳生産量を推定した結果、いずれの放牧時間においても濃厚飼料給与量1.6tで1乳期約8000㎏の乳生産が可能であることが示された。
3)制限放牧時における併給飼料のTDN給与基準を策定した。
試験2
1)昼夜放牧区では春季から夏季にかけて放牧草の摂取量は減少し、夏季ではTDN充足率は86〜92%となった。また、制限放牧に比べ昼夜放牧区では、摂取飼料中の繊維質含量、TDM摂取量/CP摂取量の比が低かった。
2)制限放牧区に比べ昼夜放牧区の乳脂肪率は試験期間中低い値で推移し、また、TDN充足率が100%以下になった夏季では、乳蛋白質率も昼夜放牧区で低い値を示す傾向がみられた。
3)乳蛋白質生産に対する飼料蛋白質の利用効率は、制限放牧区よりも昼夜放牧区のほうが低かった。昼夜放牧区では、血中尿素態窒素濃度(BUN)とTDM摂取量/CP摂取量の比との間に負の相関がみられ、TDN摂取量/CP摂取量の比が4.0以下になった夏季間、BUNは基準値(14.9㎎/dl)を大きく上回った。このことから、放牧主体飼養では尿中への窒素損失が多く、飼料蛋白質の利用効率を向上させるためにはTDM摂取量/CP摂取量の比を改善する必要性が示された。
4)これらのことから、昼夜放牧区における乳成分の低下要因として摂取飼料の繊維質不足およびエネルギーの不足によるTDNと蛋白質摂取量の不均衡が示された。

10.成果の具体的数字
表1 制限放牧における1乳期乳生産量の推定(試験1)
  推定日乳量(乳脂率4%) 305日
乳量
放牧
密度
放牧草によ
る乳生産量
放牧地から
の乳生産量
1-100 101-200 201-305
kg/d kg 頭/ha kg kg/ha
3時間放牧 33.3 27.3 21.1 8276 3.8 1812 3363
6時間放牧 32.7 26.7 20.4 8082 3.6 2473 4374
注)濃厚飼料の乾物給与量は、両区とも1626kg/1乳期

表2 3および6時間放牧におけるTDN給与基準(試験1)1)
FCM量(kg/d) 春季(6月) 夏季(8月)
33 27 21 33 27 21
TDN必要量(kg/d) 17.2 14.7 12.3 17.2 14.7 12.3
3時間放牧
 放牧草からのTDN摂取量(kg/d) 3.7 3.7 3.7 3.4 3.4 3.4
 併給飼料から給与すべきTDN量(kg/d) 13.5 11.0 8.6 13.8 11.3 8.9
6時間放牧
 放牧草からのTDN摂取量(kg/d) 9.0 8.7 8.5 6.2 6.0 5.7
 併給飼料から給与すべきTDN量(kg/d) 8.2 6.0 3.8 11.0 8.7 6.6
1)体重650kgとして計算

表3 昼夜放牧と制限放牧の飼料摂取量および乳生産の比較(試験2)
試験期間 6.13-6.27 6.28-7.18 7.19-8.08 8.09-8.29 全期間
放牧草乾物
摂取量(kg/d)
昼夜 20.2 18.1 13.2 13.2 16.2
制限 5.4 4.8 4.9 4.8 5.0
全飼料乾物
摂取量(kg/d)
昼夜 27.0 24.9 20.0 20.0 23.0
制限 22.8 23.5 23.4 21.2 22.7
ADF含量(%) 昼夜 24.1 22.9 22.5 22.0 23.0
制限 27.6 28.9 29.0 27.4 28.2
TDN摂取量
/CP摂取量
昼夜 4.9 3.9 3.2 3.4 3.9
制限 4.7 4.6 4.3 4.4 4.5
FCM量(㎏/d) 昼夜 30.5 31.0 28.9 27.2 30.0
制限 33.1 33.2 32.7 28.6 31.9
乳脂肪率(%) 昼夜 3.23 3.57 3.52 3.50 3.46
制限 3.96 4.04 4.23 3.78 4.00
乳蛋白質率
(%)
昼夜 3.02 2.84 2.90 2.90 2.91
制限 2.95 2.92 2.92 3.08 2.97
TDN充足率
(%)
昼夜 138.6 124.5 85.9 91.5 110.1
制限 104.0 106.6 104.8 106.8 105.6
血中尿素態
窒素(㎎/dl)
昼夜 10.8 13.8 23.7 21.6 17.5
制限 16.7 10.4 12.4 14.0 13.4

11.成果の活用と留意点
1)本成績は、TDN含量が65%以上の良質な牧草サイレージを供試して得られたものである。
2)本成績を利用して飼料設計を行なう場合、摂取飼料のTDN含量/CP含量の比は4.0以上になるように留意すること。

12.残された問題点とその対応
1)放牧主体飼養における安定的な乳生産を維持するための飼養基準の策定(現在、試験実施中)
2)放牧地からの牛乳生産量向上のための草地管理および乳牛の飼養管理方法