【指導参考事項】
成績概要書                   (作成 平成4年1月)
1.課題の分類  草地 飼料生産・利用 土壌肥料 B-4
          総合農業 生産環境 土壌肥料 3-3-1
          北海道 家草合同
2.研究課題名  チモシー基幹草地の早刈りによる植生変化とその対策
          (早刈りによる高栄養粗飼料生産草地の維持管理法)
3.予算区分  道単
4.研究期間  昭和63年〜平成3年
5.担当  根釧農試 土壌肥料科
6.協力分担関係  なし

7.目的
チモシー(早生種)を基幹とする草地について、良好な草種構成を維持しつつ、高栄養粗飼料を安定生産するための早刈り管理法を明らかにする。

8.試験研究方法
試験1.早刈り草地の刈取り管理(1987〜1989年)
 供試草地:植生区分1,4 供試土壌:黒色火山性土
 刈取り処理No.1〜7
試験2.早刈り草地の草地構成悪化要因(1990年)
 圃場での相対照度調査、ポットを用いた遮光試験
試験3.早刈り草地の施肥管理(1989〜1990年)
 供試草地:植生区分1,4 刈取り処理No.:1〜4
 施肥処理:N用量試験
試験4.現地実証試験(1990〜1991年)
 供試草地:植生区分3 供試土壌:未熟火山性土、厚層黒色火山性土 刈取り処理No.:1〜4

  刈取り日
処理No. 1番草 2番草 3番草
出穂期刈り 1 7/1 8/31  
穂ばらみ
期刈り
2 6/12 7/25 10/2
3 6/12 8/11 10/2
4 6/12 8/11  
出穂始め
期刈り
5 6/22 8/6 10/2
6 6/22 8/21 10/2
7 6/22 8/21  

9.結果の概要・要約
試験1.早刈り草地の刈取り管理
1.植生区分1の草地を早刈りすると、乾物収量は出穂期刈りよりも低下したが、TDN収量は増加する傾向を示した。また、アカクローバは減少するが、ラジノクローパ(LC)が優占し、チモシー(TY)の茎数が減少した。LC優占化の程度は2番草生育期間が短い区で著しかった(図1)。当草地の収量と草種構成は翌年出穂期刈りに戻すことによって回復した(図2)。
2.当草地から得られた牧草のTDN含有率はいずれの番草でも出穂期刈りよりも高く、良好であった。しかし2番草以降ではLC混生割合が増大したため、CP含有率は高く、NDF合有率は低かった(表1)。この傾向はTY・RC・LC混播草地でもTY・RC・LC混播草地でも同様であった。
3.植生区分4の草地を早刈りすると収量は低下する傾向を示したが(図3)、TY茎数は減少しなかった。また、早刈りの継続によってLCおよび地下茎型イネ科草混生割合が増大する傾向が認められた(図4)。
4.当草地から得られた牧草の栄養価は1,3番草では良好であったが、2番草で高いTDN含有率を得るためには生育期間を43〜45日程度とする必要があった。
試験2.早刈り草地の草種構成悪化要因
5.植生区分1の草胞を早刈りした場合にLCが優占する主な要因は、この時期のLC生育が旺盛であり、再生の遅いTYを遮光することにあると考えられた。
試験3.早刈り草地の施肥管理
6.いずれの植生区分においても、収量の低下やLCの優占化をN施肥で防止することほ困難であった。
試験4.現地実証試験
7.未熟火山性士および厚層黒色火山性土において、植生区分3の草地を早刈りした場合の収量および草種構成の変化は、場内(黒色火山性土)における植生区分4の草地の場合と同様であった。また、早刈りがLCの回復に有効であることが指摘された(図5)。
以上の結果、植生区分1,2草地では前年早刈りしていないこと、また、植生区分3,4草地では地下茎型イネ科草が10%以上認められないことが前提であり、これを満たす場合次の管理が適当である。
植生区分1,2草地:1番草は穂ばらみ〜出穂始め期に刈り、2番草生育期間は出穂期刈り(50〜55日)よりも長い55〜60日とする。3番草は必要に応じて刈る。翌年は出穂期刈りに戻す。
植生区分3,4草地:1番草は穂ばらみ〜出穂始め期に刈り、2番草の生育期間は40〜45日とする。3番草は1,2番草の低収を補うために刈る。早刈りによってLC混生割合が増大し植生区分1,2に回復した場合、および地下茎型イネ科草の侵入が10%以上認められた場合には、翌年出穂期刈りに戻す。それ以外の場合には早刈りを継続できる。
なお、施肥管理は北海道施肥標準に準ずる。

10.主要成果の具体的数字


図1 早刈りがTY・RC・LC混播草地の
  年間合計乾物収量におよぼす影響(3カ年平均)


図2 前年早刈りをしたTY・LC混播草地を出穂期刈りに
  戻した場合の収量、LC混生割合の変化

表1 TY・LC混播草地における可消化養分総量(TDN)*、粗蛋白質(CP)、
    中性デタージェント繊維(NDF)含有率(%)および栄養比(NR)
処理No. 1番草 2番草 3番草
TDN CP NDF NR TDN CP NDF NR TDN CP NDF NR
1 62.6 13.0 59.3 6.1 62.9 14.4 58.8 5.9        
2 70.2 23.7 36.4 2.7 68.3 25.3 34.8 2.3 69.2 23.5 26.3 2.7
3 68.8 20.3 41.5 3.4 68.2 24.8 37.2 2.4 68.8 24.4 29.8 2.5
4 68.8 18.2 47.6 4.0 67.6 22.4 42.7 2.9        
5 67.0 15.7 50.3 4.9 67.7 24.3 33.5 2.5 70.5 23.9 26.9 2.7
6 65.6 14.3 52.3 5.6 65.6 25.8 35.8 2.2 69.6 24.9 28.0 2.5
7 64.5 12.3 58.5 7.0 68.7 23.1 37.9 2.8        
*:TDNは酵素法(古谷ら、道立農試集報47,23-30(1982))で測定した


図3 早刈りがTY単播草地の乾物収量におよぼす影響(3カ年平均)


図4 TY単播草地における草種構成割合


図5 早刈りと窒素施肥量が乾物収量とマメ科草混生割合におよぼす影響

11.成果の活用面と留意点
1.早刈りした混播草地の2,3番草では栄養価のバランスに留意する。
2.天北など夏期早魃となる地帯を除く。

12.残された問題点とその対応
早刈り草地の増収対策、中・晩生のチモシーに対する早刈り管理法