完了試験研究成績(作成 平成4年1月)
1.課題の分類  畜産 乳牛 経営 2-2-9
          北海道
2.研究課題名  草地型酪農における粗飼料の受委託生産の方向と成立条件
          −草地型酪農地帯における地域営農システム化の展開方向と実現手順−
3.予算区分  道費
4.研究期間  (平成元〜平成3年)
5.担当  根釧農試 経営科
6.協力・分担関係  なし

7.目的
 草地型酪農地帯では粗飼料生産の個別化が一段と進行するなかで、個別経営の労働力不足や機械装備を補完するために粗飼料生産の受委託が増加する傾向にある。この地域の粗飼料生産は作業適期の制約が強いため費用負担と継続性の両面から受委託のあり方が課題となっている。ここでは受委託の経済性を検討するとともに、受委託が安定的に継続しうるための組織化の方向と条件を解明する。

8.試験研究方法
①酪農展開の動向より、粗飼料の受委託生産が発生する背景を解明する。
②粗飼料生産の委託農家の実態調査を行い、委託の特徴と収益性を明らかにする。
③粗飼料生産の受託組織に関する実態調査を行い、受託の特徴と収益性を明らかにする。
④以上より受委託が安定的に成立しうる組織化の方向と条件を明らかにする。
⑤調査対象:根室管内別海町、釧路管内浜中町

9.結果の概要・要約
1)粗飼料の受委託生産が発生する背景として、以下の3点があげられる。①近年規模拡大が急速にすす
 み、粗飼料生産時期の労働競合のため労働力の補完を必要とする経営が増加する。②個体価格下落
 等により酪農収益が悪化する傾向にあるため、機械利用組織の解散等に伴う犠械導入に際してはより
 効率的な機械利用を図る必要がある。③事故などのため、労働カの補完を必要とする経営は今後とも発
 生することが予想される。
2)委託農家は、委託前提の多頭化指向型、機械投資軽減型、緊急対応型、労働負担軽減型の4つに類型
 化できる。前2類型(恒常的な委託)より代表的事例を選定して委託の経済性を検討した。多頭化指向型
 の例では搾乳牛を増頭できるため、所得は約2.4倍に増加可能である(表1)。機械投資軽減型の例では機
 械所有を伴う自家生産に対して、全面委託では粗飼料生産資用が約40%低く、所得は高い(表2)。また負
 担可能な委託料金の上限を試算すると、前者では5.7万円/ha、後者では5.0万円/haである。委託の主な
 問題点として、受託組織が将来も作業を続ける保障がない、刈取時期が制約されるなどがあげられて
 いる。
3)受託組織は、農協(直営)、農協介在型企業、企業、農家の4つに類型化できる。受託を開始した動機は、
 農協直営では負債農家の投資節約、企業では草地造成等の減少による収益減の補完である。サイレー
 ジの収穫作業体系はいずれもダイレクト方式で、バンカーサイロを基本としている。ハーベスタはほとんど
 が牽引式であるが、1社のみ自走式を利用している。1日当り処理面積は前者で7.5ha、後者で15haであ
 る。農協介在型企業を選定して受託の収益性と作業コストを検討した。この企業の損益分岐点は
 約240haであり、平成2年度は赤字であったが平成3年は収支均衡の見通しである。適期内最大処理面
 積360ha)におけるha当り費用は約4.0万円/haである。受託側の課題は、年間操業と安定的な委託の
 確保である。
4)受託側の作業経費と委託側の負担可能料金との対比により適正な受委託料金を検討した。対象事例に
 ついてみると、最大処理面積を基礎として料金を設定した場合には多頭化指向型、機械投資軽減型とも
 委託の有利性がある。しかし受託面積の実績(平均230ha)を基礎とすると5.0万円強/haとなり、機械投資
 軽減型が委託する有利性はなくなるので、これ以上の受託両積を安定的に確保する必要がある。(図1)
5)受委託の安定的な継続のためには、天候不順や企業の撤退等に対応しうるバックアップ体制を地域とし
 て整備し、受託組織の年間操業を支援する等のため組織化が必要である。この受委託組織の運営に
 は、地域全体の利益に配慮し得る主体があたることが望ましい。

10.主要成果の具体的数字

表1  多頭化指向型の委託効果
項目 現状 規模拡大後
搾乳牛頭数 (頭)
経産牛頭数 ( 〃 )
出荷乳量 (t)
耕地面積 (ha)
 ・ウチ委託 (ha)
委託料 (千円)
労働力 (人)
82
92
797
75
17
680
2+1.6
135
152
1,317
101
55
1,540
5+パート
農業粗収入 (千円)
農業経営費 (千円)
農業所得 (千円)
粗飼料TDNt当たり
 ・費用 (千円)
73,810
61,913
11,897
 
57
120,070
91,095
28,975
 
47
 H3年から業者かわり料金変更。試算は日3年料金による。
「現状」をH3年料金で補正すると委託料は476千円。

表2  機械投資・費用軽減型の委託効果−酪農部門のみ−
項目 全面委託 全面自家調整
機械所有 トラクタ(飼育
部門のみ)
トラクタ(2台)
モアコン、テッダ
レーキ、ハーベスタ
ラッピングワゴン
ダンプ(各1)他
飼料作用機械
〃 償却費 (千円)
〃 修理費 (千円)
委託料 (千円)
労働力
 
 
 
3,118
2+0.8
 
5,611
1,108
 
2+0.8
農業粗収入 (千円)
農業経営費 (千円)
農業所得 (千円)
粗飼料TDNt当たり
 ・費用(千円)
31,369
22,083
9,286
 
37
31,369
25,988
5,381
 
61
経産牛;39頭、耕地面積;55ha、出荷乳量;290t、他に肉牛部門(預託)あり

図1  受委託の適正料金水準の検討−自走式ハーベスタの場合−
1)受託側ha当り費用=(機械償却費+見積修理費+車庫費+固定的人権費)÷受託面積+(燃料費/ha
 +臨時労賃/ha+消耗品等/ha)
2)委託側負担可能料金上限
 ①機械投資軽減型;機械自家所有・自家作業と対比
  委託料金上限=(機械償却費+見積修理費+車庫費)÷委託面積+(燃料費/ha+家族労賃/ha)
 ②多頭化指向型:目標とする経営者労働報酬と対比
  委託料金上限=経営者労働報酬÷経営者労働時間
  経営者労働報酬=粗収益−(経営費−委託料−委託分燃料費−支払利子)−所有地地代−資本利子
   −経営主以外家族労賃+受託者負担燃料費

11.成果の活用面と留意点
 ここでは刈取から鎮圧までを1工程として委託料金水準を検討したが、他の作業の組合せや個々の作業を対象とする場合もここでの考え方・方法を用いて検討することができる。生産物価格、購入資材価格が変化した場合も同様である。

12.残された問題点とその対応
 受委託組織の機構と運営体制についてのより詳細な分析。