完了試験研究成績(作成 平成4年1月)
1.課題の分類  総合農業 経営 2-5-1
          北海道 農業経営
2.研究課題名  目標計画法を中核とした地域計画システムの開発
3.予算区分  経常
4.研究期間  (昭63〜平3年)
5.担当  北農試・農村計画・地域計画研 樋口昭則
6.協力・分担関係  なし

7.目的
 目標計画法は、複数の目標を持つ計画問題を好く手法である。従来は、単一目標の最大化あるいは最小化を目的とした線形計画法が地域計画の手法として着用されてきたが、現実の世界は単一の目標より複数の目標を持つ問題が一般的である。地域は複数の目標を持つ多様な農家によって構成されており、これら農家から受け入れられる実践的な計画案の策定が要請されている。本研究では、まず寒地農家の合理的な経営計画モデルを開発し、ついで地域全体の効率性と農家の行動とを調整する地域計画モデルの開発を試みる。さらに、地域計画を立案する際に欠くことのできない動向予測の手法として、目標計画法を用いたマルコフ過程や回帰分析のモデルを開発し、これらのモデルを統合して地域計画システムモデルを開発する。

8.試験研究方法、
①目標計画法を用いて寒地農家の経営計画モデルと、個と集団の調整問題を扱う地域計画モデルを開
 発する。
②同様にしてマルコフ推移確率行列と回帰係数を推計する方法を開発する。
③これらモデルを統合して地域計画システムモデルを試作する。

9.結果の概要・要約
(1)寒地農家の経営計画で最大の問題は収益の変動である。そのため、農家に「所得は変動するが、最
 低でどのくらいの所得があれば良いか」と質問して得た数値を最低所得目標とする経営計画モデルを開
 発した。従来の目標計画法の単体表に制約付きゲームのモデルを組み込むことにより、最悪の事態が
 発生した時の所得を把握できる。この方法は、収益安定化を目標とする農家の経営計画法として有効
 である。
(2)個と集団の調整問題を扱う地域計画モデルとして、地域資源を地域全体で効率的に利用し、個別農家
 は自らの目標を達成させようと行動する時の姿を計画案として得るため、全員モデルにバーレイとトーレ
 イの方法を取り入れた計画モデルを構築した(表1)。具体的には、野菜産地の一集落を対象に各営農類
 型の望ましい経営形態を求めた。得られた計画案を目安に土地や雇用等の地域資源を斡旋することが
 考えられ、個別農家よりも地域レベルの計画主体にとって有益な計画方法である。
(3)目標計画法を用いて時系列データからマルコフ推移確率行列を推計する方法は、基底水準値からの
 偏差(誤差)の絶対値の和の最小化を目的とする点で線形計画法と同じであるが、最小化すべき誤差に
 ウェートと優先順位を付けることができる。具体的には水田利用の将来予測に適用したが、データの大
 小に応じてウェートを付けることにより誤差の相対的な大きさを調整でき、過去のデータのうち現在に近
 いものに高い優先順位を与えることにより、近い将来をより正確に予測できた。
(4)回帰係数の推計では、目標計画法の計算結果が全て非負の値であるため、負の係数の計算ではその
 変数の技術係数に全てマイナスを付け、採用されない変数については全て0にして求めた。この方法を
 用いれば、正確なデータと曖昧なデータがあ
る時、それらに優先順位やウェートを付けることにより質の違いを考慮した関数の推計が可能となる。また、作物の生育モデルや需要関数等・変数によって正負がハッキリしている場合の関数も求めることができる。

10.成果の具体的教字

表1  地域計画モデル(目標計画法の単体表初期解実働変数部分の抜粋)



C1 プロセス番号 1 33 34 63 64 91
C1            
基底 Ⅰ類型農家(3戸) Ⅱ類型農家(7戸) Ⅲ類型農家(4戸)
水稲 9月
下旬
雇用
玉葱
(水田)
11月
雇用
水稲
(収穫
委託)
9月
下旬
雇用
  水準 関係 単位 10a 10a 10a
1  


水田面積 902
55

10a
10a
3.0
 
  7.0
 
  4.0
 
 
2   畑面積
3   雇用
制約
4・5月 960
960
960




 

 
 
3.0
 

 
 
7.0
 

 
 
4.0
4   6・7月
5   8〜11月
6  




 
3
労働
制約
4月中旬 160

176


時間

時間
3.7

3.7






25   10月下旬
26   バラ
ンス
制約
田秋小麦

10a

10a
 

-1.0






30   田人参
31   固定費制約 3000 千円            
32 1.25P2
所得 8000
4000

千円
千円
75.3
 
-7.0
-7.0
       
33 2.5P1 最低所得
34   収益
の発
生型
昭和54年

千円

千円
-84.4

-92.5






43   昭和63年
44  

労働 4月下旬 160

 


時間

千円


2.3

-415.3




82   発生 昭和63年
83  

労働 4月下旬 280

 


時間

千円




2.5

-30.9


115   発生 昭和63年
注1)…印は省略したことを、係数値は小数点以下2桁を四捨五入して表示している。
 2)目的式は、z=P1(2.5y-33+1.25y-71+2.5y-105)+P2(1.25y-22+2.5y-72+1.25y-104)の最小化である。ただし、Pkは優先順位を、y-1は不足差異変数を表す。

11.成果の活用面と留意点
 農業経営計画、地域計画、マルコフ過程、回帰分析のための計画モデルを開発したが、ユーザーフレンドリーなパソコンソフトの作成までは至っていない。
1)樋口昭則:「今後の水田営農の方向」
 北農試農業経営研究資料第58号、pp.169-203、北海道農業試験場、1989年。
2)樋口昭則:「目標計画法によるマルコフ推移確率行列の推計手法」
 平成元年度北海道地域主要研究成果情報、pp.125-128、北海道農業試験場、1990年。

12.残された問題とその対応
 計画モデルを統合した地域計画システムモデルの開発は、新規課題に引き継ぐ。