1.課題の分類  総合農業 経営 3-1-4
        北海道 農業経営
2.研究課題名  畑作経営の雇用労働力利用と経営計画
3.予算区分  経常
4.研究実施年度・研究期間  (平元年〜3年)
5.担当  北農試・畑作管理部・流通シス研 金岡正樹、佐々木東一
6.協力・分担関係  なし

7.目的
 十勝畑作経営で収益性の向上を図るために、野菜を中心とした集約作物を導入しよ うとする場合、労働力が制約条件として作用することが予想される。そこで畑作経営 における労動力利用の実態をふまえ、労働配分の規定要因を解明する。さらに、集約 作物を導入した畑作経営に雇用労働力を取り入れた場合における、その合理的なあり 方を収益性の視点から考察する。

8.試験研究方法
(1)雇用労働力の需要実態について、十勝畑作地域M町を対象に調査し考察を行う。
(2)畑作経営に労働果約的作物を導入した場合の、経営計画モデルを構築し、線形計画法により規範分析を行い、雇用労準カ利用の経営的評価を行う。
(3)雇用労働力の供給実態について、雇用労働カ需給調整組織登録者を対象にアンケート調査を実施し考察を行う。

9.結果の概要要均,
(1)雇用労働1カ利用の実態から、以下のことが確認された。①臨時雇が行った作業は 、除草などの裸手作業や組作業が大部分である。②農業従事者の少ない経営、経営耕 地面積の大きい経営、労働集約的作物の作付割合が高い経営ほど、雇用労働力の利用 は多い。また、雇用規模が大きくなるに従い、雇用形態は臨時雇から年雇に移行して いる。③野菜作導入農家は、非導入農家こ比較して、家族の裸手作業時間・雇用労動 時間の増加が顕著であり、家族員では経営主を除く補助労働者の労働時間の増加が相 対的に大きい。④雇用労働カの多寡からみると、雇用規模の小さい経営が多数存在す る一方、雇用労働力のシェアが高い少数の雇用依存型の経営が存在している。
(2)雇用労働力の経営的評価から、以下のことが明らかになった。①野菜作の作付に より農業所得は増加するが、作付増により労動時間は増加し、それに対応して雇用労 働力の需要も高まる。②雇用量を増加させることで、家族労働1時間当り農業所得、 10a当り農業所得は増加することから、雇用労働力の量的確保を図ることが重要であ る(表)。③そこで雇用労働力の規範的需要曲線を導出し実勢賃金率との交点から経営 合理的な雇用量の評価を行った(図)。個別経営における雇用労働力需要量の決定は、 最も雇用労動力の限界生産力の高い時期に規定されるが、経営全体の収益を高め るためには、特定時期のみの判断ではなく年間を通した雇用労働力の確保が必要であ る。
(3)アンケート結果から(回収率69%)、雇用労働力の供給実態として以下のことが 明らかになった。①雇用労働者は、総て女性で平均勤続年教は11年で平均年齢は63歳 と高齢化している。勤続年数と年齢は逆相関を示しており、相対的に若い年齢層を対 象とした協力員の確保が課題である。②農家の雇用希望に対して、秋の充足率は低下 している。つまり、秋の収穫期には、農協の集出荷施設等と労働需要が競合し、集出 荷施設の労賃が高いという理由などで協力員の3分の1程が減少するためである。農 家と農協の間で、労働需要が競合するという矛盾が生じており、組織的な調整を行う ことが重要な課題として指摘される。

10.成果の具体的数字
表 野菜導入農家における雇用規模の効果
雇用規模雇用無し秋雇用無基本型雇用2人
期待農業所得8341,0591,1781,441
家族1ha当所得(千円/hr)3.13.84.24.9
10a当所得(千円/hr)33.542.447.157.6
労働時間(hr)2,6503,1703,8474,815
 内家族100.088.573.760.8
内雇用11.526.339.2
期別雇用労働植え付け期(hr)213212382
管理期(hr)131232402
収穫期(hr)195681,102
作付割合(%)コムギ38.130.322.315.6
加工用スイートコーン6.73.7
テンサイ11.324.524.022.2
バレイショ26.425.526.027.8
マメ類11.311.219.616.3
カボチャ加工用5.7
ゴボウ4.30.53.75.1
ナガイモ1.94.34.47.3


 図 個別経営における雇用労働力の規範的需要曲線(6月中旬から下旬)
注1)基本モデルは、25ha、家族労働力2人、雇用制約限は期間単位最大1人/日。
 2)最適雇用量の決定(点B):雇用労働力の制約量をパラメータとし、雇用労働力を1単位増加させた場合の限界生産力の奇跡を導出する。これは個別経営における雇用労働力の規範的需要曲線と解釈され、実勢賃金率との交点から求められる。

11.成果の活用面と留意点
 大規模畑作経営に野菜作を導入した場合の、経営合理的な雇用量及ぴ支払可能賃金 率算出の基礎資科として活用が可能である。但し、新規導入作物と既存作物の収量変 動及ぴ価格変動については、分析モデルに組み込まれていないので留意されたい。

12.残された問題とその対応
 これからの経営展開にあたり、雇用確保が重要な問題として提起される。その場合 、個別農家では労務管理手法が、地域レベルでは労働力の組織的調整の方策を明らか にすることが今後の課題として残されている。