成績概要書(作成 平成5年1月)
1.課題の分類 総合農業 作物生産 夏作物 稲VI-2 北海道 稲作 栽培 2.研究課題名 水稲湛水直播・大規模散播法に関する試験 (低コスト米品種早期開発特別対策事業−超低コスト栽培技術総台開発試験) 3.予算区分 道単 4.担当 北海道立中央農業試験場 稲作部栽培第一科/農業機械部機械科/経営部経営科 北海道立上川農業試験場 研究部水稲栽培科 5.研究期間 昭和63年〜平成4年 6.協力・分担関係 |
7.目的
ヘリコプタ、ミスト機、ブロードキャスタの散播播種様としての実用性、湛水直播栽培の空知・石狩などの地域における適応性、湛水直播栽培の収益性と導入場面について検討する。
8.試験研究方法
大規模散播法の実用化‥1988〜1992年、稲作部・東川町、湛水播種、代かき後3日乾籾10㎏/10a播種
散播栽培水稲の生育特性・収量性‥1989〜1992年、稲作部・上川農試、散播「はやまさり」と中苗移植
「きらら397」の比較、苗立ち本数に関する試験
播種時の圃場条件‥1988〜1990年、稲作部・東川町、湛水播種(3〜5㎝)と落水播種の比較
気象条件‥水田水温の推定、水田水温と苗立ち率の関係、播種後出穂まで日数の推定(DVR手法による)
地域別播種適期の策定‥空知・石狩のアメダス10地点、1983年〜1992年の10年間の平年気象値から策定
湛水直播栽培の経営的評価‥播種方式別作業時間および費用、中苗移植栽培との収益性比較
湛水直播栽培技術の導入場面
9.結果の概要、要約
(1)ヘリコプタ、ミスト機、ブロードキャスタの有効作業量は、各々681、97、64a/hで、機械条播に比べて21、
3、2倍の能率であった。播種費用はミスト機が量も低く、次いでブロードキャスタであり、ヘリコプタほ20h規
模としても10a当たり4,500円以上となりコスト高であった(表1)。
(2)播種精度はいずれの播種機も強風時を避けて播種すれば、苗立ち本数や苗立ちのバラツキなどの苗立
ち性についても実用上の問題はなく、3機種とも実用化可能と判断された(表1)。
(3)散播「はやまさり」の収量は、作況試験の「きらら397」に対比して、上川農試では96%、稲作部では90%
であった。
(4)稲作部、上川農試ともに苗立ち本数が200本/㎡未満では、収量は直線的に減少し、300本/㎡以上では
大きな差はなかった。苗立ち本数が200本/㎡を割った場合の減収要因は、穂数の減少並びに1個体当た
りの穂数の増加による穂揃い不良とそれに伴う登熟歩合の低下であった。
(5)湛水橋種(水深:3〜5㎝)は落水播種に比べて、5㎜以内の浅播きが可能で(図1)、有効な散播播種法で
あった。
(6)播種後30日間の推定水温(日平均気温、日射量、日平均風速、日平均相対湿度から推定)の平均値と
苗立ち率には有意な相関関係が認められた。同水温が16℃以上では、50%以上の苗立ち率が得られたこ
とから、16℃が得られる初日を播種早限とした(図2)。
(7)1日当たりの発育速度「DVR」の概念を導入し推定した出穂期を用い、石狩・空知管内10地点について、
播種の早限と出穂晩限までに出穂できる播種の晩限を求めた結果、空知管内の8地点については8〜28日
の有効播種期間が得られたのに対し、新篠津と恵庭島松については有効播種期間は存在しなかった(表2)。
この結果から、適地は「道央以南の良地帯」と判断された。
(8)直播栽培(ミスト機)では、移植(中苗)に比べて10a当たり38%の省力効果と11%のコスト低減効果が明らか
になった(表3)。しかし、「はやまさり」が移植の「きらら397」に比べ品質・収量性が劣ることもあって、粗収益
が減少する特徴を有し、10a当たりの良業所得が大幅に低下した。
(9)現状では、直播栽培はどの農家にも速やかに導入されるとはいい難いが、直播栽培実施農家の実態調
査では、大規模経営や集約的な転作経営において導入される可能性が高い。
10.主要成果の具体的数字
表1 散播播種期の実用性の評価
播種期 | 有効作業量 (a/h) |
播種費用(円/10a)* | 苗立ち本数** | 収量**(㎏/10a) | |||
5ha | 20ha | (本/㎡) | 変動係数(%) | 稲作部 | 東川 | ||
ヘリコプタ | 681 | 6,642 | 4,698 | 272 | 23〜59 | 507 | 484 |
ミスト機 | 97 | 522 | 228 | 249 | 17〜55 | 481 | 481 |
ブロードキャスタ | 64 | 4,634 | 1,487 | 256 | 21〜59 | 453 | - |
条播機 | 33 | 7,172 | 2,422 | - | - | - | - |
表2 地域別播種の早限および播限
地域 | 播種早限 (月.日) |
播種晩限 (月.日) |
播種期間 (日) |
上川農試 | 5.08 | 5.26 | 19 |
稲作部 | 5.16 | 6.01 | 17 |
石狩沼田 | 5.09 | 5.31 | 23 |
深川 | 5.17 | 5.24 | 8 |
滝川 | 5.16 | 5.25 | 10 |
芦別 | 5.07 | 6.02 | 27 |
月形 | 5.13 | 5.24 | 12 |
美唄 | (5.08) | 6.04 | (28) |
岩見沢 | 5.19 | 5.27 | 9 |
長沼 | 5.17 | 5.27 | 11 |
新篠津 | 5.23 | 5.04 | - |
恵庭島松 | 5.24 | - | - |
表3 米生産費用の変化(作付面積10haの場合)
費用項目(円) | 中苗移植 | 湛水直播 |
種 苗 費 | 1,480 | 4,110 |
肥 料 費 | 7,047 | 7,047 |
農 業 薬 剤 費 | 6,543 | 6,543 |
光 熱 動 力 費 | 3,044 | 1,872 |
その他の諸材料費 | 2,453 | 4,703 |
水 利 費 | 6,205 | 6,205 |
賃借料及ぴ料金 | - | - |
建物及ぴ土地改良設備費 | 4,198 | 3,625 |
農 機 具 費 | 33,283 | 27,774 |
労 働 費 | 28,700 | 17,800 |
費 用 合 計 | 92,953 | 79,679(86) |
副 産 物 価 格 | 2,075 | 1,867 |
第1次生産費 | 90,878 | 77,812(86) |
資 本 利 子 | 5,571 | 4,774 |
地 代 | 28,182 | 28,182 |
第2次生産費 | 124,631 | 110,768(89) |
10a当たり収量(kg) | 498 | 448 |
60㎏当たり費用合計 | 11,199 | 10,671(95) |
60㎏当たり第1次生産費 | 10,949 | 10,421(95) |
60㎏当たり第2次生産費 | 15,016 | 14,835(99) |
11.成果の活用面と留意点
(1)播種期の設定にあたっては、アメダス観測値と現地の気象の相違を考慮すること。
(2)出穂晩限の設定に当たって、出穂後40日間の登熟温度を750℃としたが、良質米生産にはより高い
登熟温度が必要なため、播種晩限より旱めに播種する。
(3)苗立ちの確保と生育安定のため、偏東風地帯では防風施設を導入する。
(4)「水稲湛水直播栽培暫定基準」(平成5年1月改訂)に基づいて実施する。
12.残された問題点
(1)直播向き良食味品種の育成
(2)高能率・高精度で低コストな散播播種機の開発
(3)種子量やコーティング資材の減少
(4)収量性の改善(合理的施肥法の確立)