1.課題の分類 生物資源 細胞育種 培養法 北海道 稲作 2.研究課題名 水稲の効率的葯培養技術の開発 (先端技術による育種法の開発、水稲葯培養技術利用による育種技術の確立) 3.予算区分 道単 4.研究期間 昭和62年〜平成4年 5.担当 中央農試 生物工学部 細胞育種科 6.協力・分担関係 上川農試 水稲育種科 |
7.目的
水稲の半数体育種法の効率化のための浮遊培養法および二層培養法の確立を図る。
8.試験研究方法
(1)供試材料
☆キタアケ等北海道品種およびF1の1核期の花粉を含む幼穂(葉耳間長をめやすに採取)を10℃で低温処
理し葯培養に供した。
(2)浮遊培養法
☆カルス形成培地‥N6 30g/1 シュクロース、オーキシン単独、また、2,4-D,NAA、カイネチン,BAPを組
合せた液体培地
☆増殖培地‥上記に3g/1 カザミノ酸、89/1 寒天を添加。
☆再分化培地‥N6 50g/1 シュクロース、3g/1 カサミノ酸、1mg/1 NAA、2㎎/1 カイネチン,8g/1 寒天(R2)。
他にホルモンとして0.5mg/1 IAA+2㎎/1 カイネチンを用いた培地、R2に10g/1 でんぷんを添加した培
地を用いた。
☆培養方法‥カルス誘導は6㎝プラスチックシャーレに3〜4mlのカルス形成培地をいれ、葯を浮遊させ25
℃暗黒下で培養した。1か月後にカルス形成率を調査し、形成されたカルスを増殖培地で生育させ再分
化培地に置床し(16時間日長)、1か月後に再分化率を調査した。
☆処理‥カルス形成培地の条件(ホルモンの濃度及び組合わせ、糖の種類、滅菌方法、フィコールの
添加)、再分化培地、再分化時の容器、培養条件(期間、温度)であった。
(3)二層培養法
☆上記の増殖培地上にカルス形成培地を5ml添加した二層培地を用いて葯の浮遊培養を行った。その後
の培養方法および調査方法は上記の浮遊培養法と同じである。
9.結果の概要・要約
(1)葯を液体のカルス形成培地に浮遊培養することによって寒天培養に比べてカルス形成率を5〜10倍に高
めることができた。
(2)その結果、葯当たりの緑色個体の再分化率も3〜6倍に高まった。
(3)カルス形成培地のホルモンとしては葯当たりの緑色個体再分化率の高い2、4-Dが適当であった。
(4)カルス形成培地に加える糖は、品種によって最適の種類は異なったが、カルス形成率はマルトースで
高く(200%程度)、再分化率はシュクロース、グルコースで高い傾向にあった。実用的にはシュクロースが適
当と思われた。
(5)浮遊培養では緑色個体の再分化率を上げるために、カルスを再分化培地に移植する前に、前処理として
一旦増殖培地に移植し、増殖する必要がある。そこで、この移植操作を省略するため、固体の増殖培地の
上に液体のカルス形成培地をのせた二層培地を新たに考案し、これを用いた葯の浮遊培養法(二層培養
法)を開発した。
(6)二層培養法のカルス形成率は慣行の寒天培養法に比べて10倍、置床葯当たりの緑色個体率でも6倍
と効率が高かった。
(7)二層培養法では、増殖培地へ移植するプロセスが不要であり、現在の慣行法に比べて培養手順における
操作上の効率を落とさずに済むので、実用的葯培養技術として活用が期待される。
(8)二層培養法を含む浮遊培養法の再分化個体の倍数性は寒天培養法のそれと大差ないと思われた。
(9)再分化培地はN6培地を基本として、50g/1 シュクロース、3g/1 カサミノ酸、1㎎/1 NAA、2㎎/1 カイネチン、
8g/1 寒天が適当であった。また、再分化用の培養容器はシャーレよりも試験管が適していた。
(10)以上の知見を総合し、葯の浮遊培養法と二層培養法のプロトコールを作成した。
10.主要成果の具体的数字
11.成果の活用面と留意点
1)葯培養法の一手段として活用する。
2)培養器がシャーレであるため操作はクリーンベンチで行う。
12.残された問題とその対応
1)液体カルス形成培地の糖濃度の検討
2)増殖培地の組成の検討