1.課題の分類  北海道 畑作 ばれいしょ −
2.場所名  北海道立中央、上川、十勝、根釧、北見農業試験場、農林水産省北海道農業試験場
3.輸入品名  種ばれいしょ輸入品種「F891」

4.来歴及び試験経過
(1)ばれいしょ輸入品種「F891」は、スウェーデンのSvalof社が「P134」を母、「P117」を父として交配し、以降選
 抜を加え、同社から「Matilda」の名で公開されたものである。
(2)系譜

(3)導入と試験経過
①ホクレン農業協同組合連合会は、スウェーデンSvalof社から昭和60年に「Mati1da」の塊茎を取りよせ、検
 疫輸入した。
②昭和61年、同会は検疫を終了した塊茎を使用し、同会の農場で試験用種いもの増殖を開始した。
③昭和63年、同会では同品種に「H8601」の名を付し、輸入品種検定予備試験を行なった。
④平成元年から平成4年まで、同品種に「F891」の名を付し、北海道立中央、上川、十勝、根釧、北見農業
 試験場において輸入品種等選定試験、並びに北海道農業試験場において生産力検定試験を行った。
⑤更に平成3年から平成4年まで、同品種を道内各地における現地試験に供試するとともに、中央農試にお
 いてウイルス病抵抗性検定試験、十勝農試において塊茎腐敗低抗性検定試験及び栽培特性検定試験、根
 釧農試においてそうか病抵抗性検定試験、北海道農業試験場において品質検定試験及び疫病抵抗性検
 定試験を実施した。

5.特性
【1.形態的特性】
 そう性は中間型で、茎長は「農林1号」並からやや長い。分枝数は中で、茎は緑色、一部に赤紫色を帯びる。葉色は淡緑、小葉の大きさは中である。花色は白、花はやや大きく、花数は中、自然結果は少から中程度認められる。
 塊茎は卵形で、揃いが良い。皮色は黄、表皮はやや粗い。目は浅く、外観は良い。肉色は黄白である。
【2.生態的特性】
 萌芽期及び開花期は「男爵薯」よりやや遅い。枯凋期は中晩生に属し、「農林1号」並からやや遅い。
 上いも重は「男爵薯」より優り、「農林1号」並からやや劣る。「男爵薯」に比べて上いも数は多く、上いも平均一個重は小さい。中以上いも重は「男爵薯」並で「農林1号」より劣る。でん粉価は「男爵薯」並からやや高い。
 施肥量及び栽植密度に対する反応は、「男爵薯」に比べて多肥による中以上いも重の増収効果がやや高いが、でん粉価の低下割合は小さい。疎植による株当たり上いも数の増加程度は「男爵薯」よりやや高く、中以上いも重の増加割合がやや高い。
 疫病抵抗性遺伝子はRxを保有していると推定され、さらに、疫病に対する圃場抵抗性が強い。疫病菌による塊茎腐敗の発生は少ない。
 ジャガイモYウイルスの汁液接種により、エソ反応が強く現れ、罹病株の判定は容易である。
 ジャガイモシストセンチュウ抵抗性遺伝子は保有していない。
 そうか病には、既存品種と同程度に罹病し、抵抗性は認められない。
 褐色心腐及ぴ中心空洞はほとんどみられないが、二次生長が発生することがある。
【3.加工適性及び食味】
 肉質は、「男爵薯」よりやや粘質で、煮くずれは少なく、舌ざわりはやや滑らかであるが、でん粉価が高い場合は、やや粉質となり、煮くずれが増加し、舌ざわりはやや粗となることがある。調理後黒変はほとんどみられず、剥皮褐変は「男爵薯」より少ない。
 剥皮歩留り及び作業性は、目が浅く、形が良いため「男爵薯」より優る。蒸しいも及び加工品の食味は、年次間差、個人差があるが、総じて良好である。
 用途は、生食用及び油加工以外の加工食品用である。

6.試験成績
①農業試験場における試験成績
試験場 品種名 枯凋期(月.日) 上いも平均
一個重(g)
上いも重
(㎏/10a)
対標準比(%) でん粉価(%)
中央農試 F891 9.26 65 4,100 121 15.1
男爵薯 8.25 81 3,381 100 15.3
農林1号 9.18 94 4,487 133 16.2
上川農試 F891 (10.2)2 66 4,309 131 17.8
男爵薯 9.4 94 3,279 100 16.4
農林1号 10.2 110 3,987 122 18.4
十勝農試 F891 (9.24)3 67 4,679 120 15.9
男爵薯 8.27 86 3,900 100 15.8
農林1号 9.21 100 4,585 118 16.3
根釧農試 F891 (10.6)3 77 4,022 119 16.3
男爵薯 9.15 101 3,391 100 14.0
農林1号 (10.8)3 130 4,526 133 17.1
北見農試 F891 (9.23)2 73 4,884 123 14.6
男爵薯 9.1 113 3,959 100 14.3
農林1号 (9.28)3 133 4,530 114 16.0
北海道農試 F891 (9.28)2 71 3,934 113 15.2
男爵薯 9.4 85 3,474 100 15.3
農林1号 (9.28)2 128 4,432 128 16.6
注1)平成元年〜4年の4か年平均である.
  2)枯凋期の括弧書きは霜枯凋年及び未枯凋年を除いた平均で,肩の数字は平均した年数を
  示す(以下同様)
  3)標準品種:「男爵薯」(以下同様)

②現地における試験成績
試験場 品種名 枯凋期(月.日) 上いも平均
一個重(g)
上いも重
(㎏/10a)
対標準比(%) でん粉価(%)
富良野市 F891 未枯凋 69 4,746 96 18.8
男爵薯 8.27 114 4,937 100 14.2
旭川市 F891 9.19 78 5,145 109 15.9
男爵薯 8.16 86 4,720 100 14.8
留寿都村 F891 (9.5)1 60 4,235 106 15.5
男爵薯 8.22 77 3,987 100 15.5
士幌町 F891 9.29 60 3,986 118 17.1
男爵薯 8.30 90 3,379 100 16.0
更別村 F891 9.17 62 4,547 125 18.1
男爵薯 8.21 71 3,636 100 15.9
北見市 F891 9.8 81 4,423 128 14.4
男爵薯 8.9 100 3,466 100 14.3
網走市 F891 9.18 87 4,992 135 14.4
男爵薯 8.13 79 3,704 100 12.5
小清水町 F891 9.14 77 5,301 119 16.9
男爵薯 8.25 94 4,447 100 18.6
斜里町 F891 9.20 69 5,085 139 15.8
男爵薯 8.20 75 3,655 100 14.8
美深町 F891 (9.24)1 81 4,790 110 17.8
男爵薯 8.28 98 4,358 100 14.9
注1)小清水町は平成3年,旭川市及び斜里町は平成4年,他7か所は平成3年及び4年の平均値である

7.配布しうる種苗量‥300㎏(農林水産省種苗管理センター北海道中央農場)

8.普及対象地域及び普及見込み面積‥北海道一円 150ha

9.栽培上の注意
(1)疫病の圃場低抗性がかなり強いので、防除回数は軽減できる。
(2)小粒完熟塊茎の生産を主な目的とするので、窒素の多用および疎植を避ける。
(3)ジャガイモシストセンチュウ抵抗性をもたないので、同センチュウの棲息圃場には作付しない。
(4)そうか病には既存品種並に罹病するので、同病の発生圃場には作付しない。