1.課題の分類 総合農業 生産環境 土壌肥料 3-1-1-a 北海道 302020 2.研究課題名 褐色低地土水田における有機物の長期連用効果(土壌環境基礎調査・基準点調査) 3.予算区分 補助(土壌保全) 4.研究期間 昭和50年〜 5.担当 上川農業試験場 土壌肥料科 中央農試 環境化学部 土壌資源科 6.協力・分担関係 中央農試 稲作部 栽培第一科 |
7.目的
褐色低地土における有機物の長期連用が土壌及ぴ水稲に与える影響とその効果発現についてグライ土水田と比較しながら解析し、もって有機物の長期連用に対する指導上の参考に資する。
8.試験研究方法
1)供試土壌
①褐色低地土 旭川市永山 上川農試圃場 31ヶ年連用
②グライ土 岩見沢市上幌向 中央農試稲作部圃場 17ヶ年連用
2)供試品種と耕種ゆきひかり他、中苗マット苗
①27.8株/㎡−4本植
②25株/㎡−2本植
3)試験区
①無N、対照(N8.0㎏/10a)、N増(N10㎏/10a)、堆肥(800㎏/10a)、
春わら(稲わら400㎏春散布春鋤込み)
秋わら(稲わら400㎏秋散布秋鋤込み)
②無N、対照(N7.0㎏/10a)、堆肥(1000㎏/10a)
秋わら(稲わら500㎏秋散布秋鋤込み)
9.結果の概要・要約
1)31ヶ年の有機物長期連用による増収効果は対照100に比較して堆肥110、秋わら109であり、グライ土の
103よりも明らかに高かった。この増収効果は稔実籾数の増加によるものであった。
2)有機物の長期連用は出穂期における乾物生産量が高く、成熟期におけるN、P205、K20、MgO、CaO、
SiO2の吸収量も対照よりもはるかに多かった。これらのことが稔実籾数の増加に影響したものと思われる。
3)グライ土壌に比較して乾田タイプの透水性の良好な褐色低地土では有機物長期連用により、耐水性団粒、
土塊分布、液性・塑性限界などの土壌物理性がさらに改善された。これによって透水性は湛水、非湛水
期間を問わず良好となった。
4)交換性MgO、CaOは透水性の良好な褐色低地土水田の有機物長期連用によって明らかに流出、低下して
いた。交換性K20は有機物から多量に供給されたが流出も多く微増となっていた。有機物(稲わら)中に保有
されているケイ酸は可給態ケイ酸の増加に結びつかなかった。
5)土壌窒素の供給は生育期間の前半、後半ともに増加していた。また、幼穂形成期の可給態りん酸量は
有機物長期連用で明らかに多かった。
6)根重及び根活性は有機物連用(堆肥)で対照より高かった。
7)有機物長期連用(堆肥、秋わら)では窒素の吸収量が増加しても品質・食味に対照との差が認められな
かった。
8)以上のことから、褐色低地土水田における有機物施用は土壌の理化学性にとって化学肥料にはみられ
ない改善効果があり、長期連用の重要性が認められた。
10.成果の具体的数字
表1 有機物の長期連用効果
項 目 | 対照 | 堆肥 | 秋わら | ||
収量 | 玄米収量 | 459 | 506 | 500 | |
稔実籾数Ⅹ100粒/㎡ | 277 | 314 | 306 | ||
品質 | 検査等級 | 1 | 1 | 1 | |
食味特性 | アミロース% | 19.5 | 19.5 | 19.6 | |
蛋白% | 6.2 | 6.6 | 6.8 | ||
養分吸収 | 出穂期乾物重㎏/10a | 449 | 495 | 510 | |
成熟期養分吸収㎏/10a | N | 8.5 | 10.6 | 10.9 | |
P205 | 5.41 | 5.63 | 5.83 | ||
K2O | 12.3 | 15.1 | 15.2 | ||
MgO | 1.97 | 2.5 | 2.39 | ||
CaO | 2.4 | 2.9 | 3.28 | ||
SiO2 | 57.4 | 65.8 | 74.2 | ||
土壌化学性 | PH(H2O) | 5.83 | 5.65 | 5.67 | |
交換性塩基 | K2O | 15.6 | 15.2 | 17.0 | |
CaO | 239 | 202 | 191 | ||
MgO | 29.5 | 23.2 | 21.6 | ||
乾土効果 | 6.11 | 8.42 | 9.85 | ||
幼形期ブレイりん酸 | 30.5 | 42.6 | 52.7 | ||
土壌物理性 | 容積重g/100ml | 99.4 | 96.7 | 92.0 | |
土塊(H3.H4)20mm以上% | 45.1 | 24.5 | 8.9 | ||
耐水性団粒1mm以上% | 40.8 | 55.1 | 59.3 | ||
塑性限界% | 43.2 | 46.4 | 46.2 | ||
透水性 | 減水深 (mm/日)6月23−24日 |
6.0 | 7.0 | 14.0 | |
インテクレート圃場侵入能 (mm/日)10月20日 |
25 | 43 | - | ||
根 | 根重㎏/10a(成熟期) | 52.4 | 60.5 | 52.3 | |
根活性Rb吸収量6月 | 2.23 | 2.56 | 1.88 | ||
〃 成熟期 | 15.56 | 17.69 | 14.58 |
表2 有機物長期連用に対する評価
収量 | ○ | |
品質・食味 | △ | |
養分吸収 | ○ | |
土壌化学性 | NH4-N | ○ |
P2O5,K2O,SiO2 | △〜○ | |
CaO,MgO | × | |
物理性 | 土壌20mm以上 | ◎ |
耐水性団粒 | ◎ | |
透水性 | ○ | |
根活性 | △〜○ |
11.成果の活用面と留意点
(1)褐色低地土における31ケ年の有機物長期連用は、米の品質・食味を維持しながら9〜10%の増収となるこ
とから、この土壌型水田にたいする有機物長期連用の有効性が認められた。
(2)この効果は当該水田の縦浸透に依存すると考えられ、有機物施用効果を高めるためにも透水性向上技
術の励行が重要と思われた。
(3)稲わら及びその堆肥連用は土壌中におけるPH4.0酢酸抽出法による有効態ケイ酸量の増加に結びつ
かなかった。
(4)透水性の良い水田での有機物長期連用は交換性MgO;CaOの流失が認められ、土壌診断を実施しこれ
らの補給につとめる。
(5)なお、本試験における有機物は稲わら及びその堆肥であり、施用量はそれぞれ400㎏/10a、800kg/10a
である。
12.残された問題点とその対応
(1)水田における有機物分解に伴う土壌溶液中のH2CO3濃度と塩類の溶解、流出の関係についての把握
(2)主要土壌型における透水性と有機物施用効果の関係
(3)流出塩類の集積、流亡の追跡と養分収支の解明