成績概要書(作成 平成5年1月)
1.課題の分類  総合農業 生産環境 土壌肥料 1-2-1
          北海道 土肥・環
2.研究課題名  畑地における土壌・作物の違いに対応したかん水指針
          (土壌の水分供給能並びに作物水分生理に関する試験)
3.予算区分  道単
4.研究期間  昭和62年〜平成4年
5.担当  北見農試研究部土壌肥料科
6.協力・分担関係  中央農試農業土木部

7.目的
 畑地かんがい用水の有効利用を図るため、作物の水分反応特性や土壌の水分特性を考慮した総合的なかん水技術の確立が必要となっている。この一環として本試験では管内の主要畑作物に対する具体的かつ合理的なかん水指針を提示しようとした。

8.試験研究方法
(1)作物のかん水適期の解明に関する試験
  雨よけハウスにおいて、作物の生育時期をいくつかに分け、かん水のあるなしの処理を組み合わせた。
 かん水はホース散水で原則として毎日かん水した。
 ・供試作物:春播小麦、馬鈴しょ、てん菜、タマネギ
 ・試験地:農試、北見、小清水
(2)作物のかん水開始点の解明に関する試験
  雨よけ栽培条件で畦上株間にテンシオメータを設置し、その測定値(pF)を目安に断続的にかん水を行い
 収量に対する影響を調査した。
 ・供試作物:1)と同じ
 ・試験条件:雨よけ枠、雨よけハウス
(3)総迅速有効水分量(TRAM)の把握に関する試験
  雨よけ栽培条件で作物の均一栽培を行い、生育時期毎に多量かん水後の土壌水分の乾燥過程を深さ
 別に測定し土壌水分消費型を求め、この値と土壌の有効孔隙量からTRAMを算出した。
 ・水分測定法:採土熱乾法、テンシオメータ法
 ・供試作物:1)と同じ
 ・試験地:農試(枠、ハウス)、北見、小清水

9.結果の概要・要約
(1)作物の生育・収量・品質に及ぼす水分供給時期の影響は異なっていた。作物別には以下の期間におけ
 る水分供給が効果的であった。
  ①春播小麦は、分げつ始め期から出穂期まで。
  ②馬鈴しょは、萌芽から7月末まで(特に着蕾期までが重要)。
  ③てん菜は、移植から茎葉繁茂期半ばの7月前半まで。
  ④タマネギは、移植から外葉伸長期の6月下旬まで(特に移植後約10日間は重要)。
 ※従って作物にとってこの時期は土壌を乾燥させてはいけない時期(かん水適期間)であると考え
 られた。(表1)
(2)作物のかん水適期間において、以下の土壌水分ポテンシャル値(pFで表示)より乾燥状態に至らしめる
 と収量が低下した。
  ①春播小麦はpF2.5、②馬鈴しょはpF2.5、③てん菜はpF2.7、④タマネギはpF2.3
 ※従って、この土壌水分ポテンシャルの値をかん水開始点と考えた。(表2)
(3)1回当たりのかん水量を設定するに当たり、総迅速有効水分量(TRAM)の概念を用いたが、TRAMの測
 定値は土壌条件によって異なった。この要因としては土壌の保水性、透水性、下層からの水分供給の多
 少が影響していると思われた。
(4)TRAMに影響を与えるこれらの特徴を考慮して、管内に分布する主たる土壌を土壌水分給能別のに3区
 分した。またこの区分母にTRAMを整理し、土壌水分供給能区分別の1回当たりかん水量を設定した。
(5)以上の結果を基に、春播小麦、馬鈴しょ、てん菜、タマネギを対象とした土壌水分供給能区分別の合理
 的なかん水指針を策定した。(表3)

10.成果の具体的数字
表1  水分供給時期が春播小麦の収量性に及ぼす影響(枠およびハウス試験)
試験年次 かん水処理区分 乾物重(g/㎡) 有効穂数(本/㎡) 千粒重(g)
子実 総重
S63 無かん水 368 870 407 37.5
出芽〜乳熟 506 1243 573 37.7
出芽〜出穂 518 1223 567 36.9
H1 無かん水 322 801 370 34.6
出芽〜乳熟 511 1240 552 32.7
出芽〜分始 375 928 398 34.6
分始〜止葉 441 1064 509 31.8
止葉〜出穂 423 1069 516 31.9
分始=分げつ始め

 

表2  かん水開始点の違いが春播小麦の収重性に及ぼす影響(枠試験)
土壌 処理 かん水回数 乾物重(g/㎡) 有効穂数(本/㎡) 千粒重(g)
子実 総重
褐色森林土 pF2.3 8.3 580 2204 608 40.6
pF2.5 5.3 582 2202 618 40.6
pF2.7 3.0 470 1751 552 39.7
黒ボク土 pF2.3 5.0 552 2203 599 38.8
pF2.5 4.3 530 2167 569 38.5
pF2.7 3.0 467 1856 551 37.6
開始点処理は播種から7月末まで。
かん水回数=処理期間中の延べ回数平均。

 

表3  作物別・土壌水分供給能区分別の合理的なかん水指針
作物 かん水適期間 かん水開始点 1回当たりかん水量(㎜)
土壌水分供給能区分
春播小麦 分げつ始め期(5月下)〜出穂期(7月上) pF2.5 20 15 10
馬鈴しょ 萌芽(5月下)〜(培土前)(培土後)〜7月末 pF2.5 20 15 10
(培土後)〜7月末 25 20 15
てん菜 移植(5月上)〜茎葉繁茂期半ば(7月前半) PF2.7 25 20 15
タマネギ 移植(5月上)〜外葉伸長期(6月下) pF2.3 20 15 10
土壌水分供給能区分
 大:黒ボク土、多湿黒ボク土(高地下水位)
 中:黒ボク土(火山放出物未熟土相当)、多湿黒ボク土(下層台地)、褐色森林土、灰色台地土(透水性良)、
   造成台地土、褐色低地土、灰色低地土・泥炭土(排水改良済み)
 小:灰色台地土(透水性不良)、褐色低地土(礫層30㎝以内)、灰色低地土(礫層30㎝以内)、砂丘未熟土

11.成果の活用面と留意点
(1)土壌水分の測定方法は、かん水を行おうとする作物毎に、圃場の代表地点の畦上株間の深さ10〜15㎝
 (培土した場合は15〜20㎝)ヘテンシオメータ(またはイロメータ等)を設置してpF値を読み取ること。
(2)かん水方法はスプリンクラー、レインガン、散水チューブを基本とし、圃場に滞水しない程度のかん水強
 度で行うこと。
(3)本成績の活用は、当面網走管内を対象とする。

12.残された問題点とその対応
(1)土壌水分供給能区分毎、作物毎に露地におけるかん水実証試験。
(2)下層からの水分供給量の定量的把握。
(3)土壌の乾燥程度の予測手法の開発。