成績概要書(作成 平成4年12月)
1.課題の分類  総合農業 生産環境 土壌肥料 3-2-1-b
          北海道 土肥・環
2.研究課題名  十勝の浅礫土地帯における主要畑作物の土壌水分反応
3.予算区分  土地改良
4.研究期間  (平成2〜5年)
5.担当  北海道農試 畑作管理 畑土壌研
6.協カ分担  なし

7.目的
 およそ20年前に、降水確率上、十勝の畑地かんがいは500年に一度の必要性であると結論づけられているが、降水変動の顕在化とともに降水量の少ない気象条件の出現頻度が高まっていることおよび農家での畑地かんがいが実施段階入ろうとしていることを背景に、十勝地域における主要畑作物の土壌水分変動に対する反応特性を解析し、畑地かんがいを実施する場合のめやすを得るべく、必要かん水量を検討した。気象変動により、本道の降水不足が恒常化した場合のモデルも想定した。
 なお、十勝における収量構成要素あるいは収量へ影響すると思われる5月から8月までの平均降水量は約3mmであり、その条件下での気温と降雨タイミングに多収条件があると想定され、それを満たす最低限のかん水条件を探ることに狙いをおいた。

8.試験研究方法
圃   場 畑作管理部A 3圃場。土壌は乾性火山性土で、礫深度約50㎝、TRAMは制限土層を表層15㎝
として約30㎜、10㎝として20㎜である。
栽培方法 雨よけビニールハウス内にて、1区=3m×6m、区間=1m、反復無しで、標準的耕種基準に従っ
て栽培した。
対象作物 小豆、ばれいしょ、秋播小麦、てん菜(1年1作栽培)
処   理 少かん水区:1mm/日(途中の一定期間、多量かん水)
※左記基準で間断日数を
7日とし、作物により若干の
参考処理を併置した。
    中かん水区:2mm/日(途中の一定期間、無かん水)
    多かん水区:3mm/日(途中の一定期間、無かん水)
 間断日教7日なので、1回のかん水量は少かん水区=7mm/中かん水区=14mm/多かん水区=21mmとなる。

9.結果の概要・要約
(1)小豆の収量は、日平均かん水量で、1mm<<2mm≦3㎜の傾向であり、生育途中の無かん水処理によ
 る影響は生育中期で大きかった(表1)。
(2)ばれいしょの収量は、日平均かん水量で、1mm≒2mm<3㎜であり、生育中期の無かん水による減収が
 顕著であった(表1)。ぱれいしょの場合、ハウス内の高温障害の傾向が伺われ、多量・多回かん水による
 いも数増、そうか病被害軽減の傾向がみられた(表2)。
(3)秋播小麦の収量は、日平均かん水量で、1mm<2mm≒3mmの傾向が伺われ、この場合も生育中期の
 無かん水による減収は顕著で、多回かん水の増収が大きかった(表1)。なお、参考に設けた春播小麦の
 孤立栽培のモデル的結果であるが、春播小麦の収量に対する、生育初〜中期の無かん水による影響は
 秋播小麦より顕著であった。
(4)てん菜の収量は、日平均かん水量で、1mm<2mm≦3mmの傾向(12区も含め)であったが生育前半の無
 かん水による収量および糖分の低下の影響が大きかった(表1)。
(5)以上を総合して、十勝の主要畑作物の日平均かん水量は小豆、秋播小麦で2mm、てん菜、ばれいしょ
 で3mmの水補給があれば標準的な収量が得られるものと推察した。この結果から、上記の必要水補給量
 から降水量を控除した7日間断かん水計画が妥当と思われた。なお、主要畑作物の土壌水分反応は生育
 初期から中期で強く、かん水時の土壌水分条件をみると(図1)、測定部位10cmで、生育初期から中期では
 pF2.5、中期から後期ではpF2.7であった。

10.成果の具体的数字
表1  かん水量と作物収量
時期別かん水量  小豆  ばれいしょ 秋播小麦 春播小麦  てん菜 
区(No.) mm/日
初-中-後-晩
1 1-1-1-1 66 88 99 84 84
2 1-3-1-1 54 89 91 93 82
3 1-1-3-1 52 82 93 77 -
4 1-1-1-3 - 91 87 - 84
5 2-2-2-2 93 83 106 93 106
6 2-0-2-2 56 70 78 65 76
7 2-2-0-2 108 81 85 99 79
8 2-2-2-0 - 99 103 - 93
9 3-3-3-3 100
(245)
100
(4874)
100
(471)
100
(844)
100
(813)
10 3-0-3-3 94 86 85 65 89
11 3-3-0-3 82 103 96 92 93
12 3-3-3-0 - 85 98 - 107
13 1-2-3-4 - 101 99 101 -
14 4-3-2-1 103 84 95 104 91
注.( )内数字は9区の実収量・g/㎡、但し、小豆、小麦は15%水分子実重、ばれいしょ(食用)は生いも重、てん菜は糖分収量で示した。9区が十勝地域の5月〜8月の日平均降水量。日かん水量の数字は目標であり、実際には作物により若干異なる。(特に小豆5〜12区の無かん水は目標の1mm減水である。)小豆、小麦はかん水処理を3期に分け、晩期処理はない。以上はハウス内の結果である。但し、付表5のてん菜の区No.13にデータが記載されているが、6月29日にかん水チューブが外れて多量かん水をしたことになったので、本成績から除いた。

 

表2  いも数、粒重、そうか病被害度
区(No.) いも数(個/㎡) 粒重(g/個) そうか病被害度
1 46 116 34 33 33
9 69 90 84 16 0
13 53 117 55 33 12
14 52 82 95 5 0
15 77 91 97 3 0
16 65 105 53 40 7
そうか病被害度:いも数(%)
 微:よく探すと異常が分かる
 中:近くで見ると異常が分かる
 大:遠くからでも異常が分かる

11.成果の活用面と留意点
(1)本成果は大幅な気象変動(寡雨、長期無降雨期間)が生じた場面を想定した土壌水分供給モデルである。
 実場面での畑地かんがい導入はこれに準拠して、その地点の土壌水分特性と作物の土壌水分反応特
 性を考慮する必要がある。
(2)十勝地域のかん水の必要場面としては、礫の出現の浅い土壌を想定している。
(3)ぱれいしょはハウス内の多量かん水処理区で疫病が多発傾向にあり、防除に留意する。

12.残された問題点とその対応
(1)下層からの水供給能の評価。
(2)土壌水分特性値に基づいた圃場水分状況の推定、かん水予報および水分制御システムの開発。