1.課題の分類 総合農業 生産環境 土壌肥料 3-2-4 北海道 土肥・環 2.研究課題名 土壌凍結地帯の侵食と圃場管理 3.予算区分 特研・経常 4.研究期間 昭和62年〜平成2年 5.担当 北海道農試 畑作管理 畑土壌研 6.協力・分担関係 |
7.目的
農地における土壌侵食は、基本的には不可避的なものであるが、土地利用型農業の持続性の観点から、侵食状況のモニタリングを怠ることはできない。こうした観点から、今日の機械化が高度に発展した状況下での侵食と圃場管理の関連について、特に融雪時を中心に、その実態を調査し、圃場管理上の留意点を検討した。
8.試験研究方法
十勝管内、1市11町、44地点の圃場を1987、1988の3月下旬〜4月上旬および多雨後を中心に調査した。調査内容は、侵食の程度、土壌特性、地形、圃場管理条件とし、地形図上の位置確認、侵食状況のスケッチ、水の流れの観察・写真撮影をした。なお、侵食軽減対策については、発生圃場における対策試験の実施が困難であったので、調査結果を基に地形に応じた表面流去水分散の可能性を考察した。
9.結果の概要・要約
1)各地で大小さまざまな土壌侵食が観察され、特に土壌源緒により内部排水が無い条件下の融雪時(表1)
や内部排水が追いつかない多雨時にはかなり大きな侵食が十勝管内全域で多発していると推察された。
2)融雪時に観察された最大のガリは幅4m以上、深さで40㎝以上であり、これは土地利用型農業の持続上、
無視できないものと判断した。
3)侵食の主要因は、土壌特性としては難透水層、礫層が浅く出現する黒色火山性土および台地土、地形と
しては急傾斜や大きなうねりの集水地形、圃場の管理状況としては秋小麦畑、不耕起越冬の裸地畑、
秋反転耕起後のロータリー砕土畑などがあげられる。他に、管理作業によるトラクターのタイヤ跡、反転
耕起時の鋤溝、圃場の端の道路・明渠・防風林ぞいの鋤溝や凹部、道路除雪による圃場内集雪、道路を
流れる融雪水の圃場内流入、土砂堆積明渠からの流入水などであった(表2)。
4)特に、融雪時の侵食が大きい場面は、秋小麦畑のような凍結した平滑面での融雪水流去にはじまり、
凹部に沿った小規模のリルに、さらに集水して秋小麦の畦を切断するようなガリに発達するパターンで
あった(図1)。逆に秋反転圃場では、表面の凸凹が表面流去を弱め、侵食を軽減した。
5)なお融雪後の侵食が大きい場面は、多雨時に農道が水路となり、圃場の側溝を潰したトラクター出入
口がその流去水を圃場内へ誘導するパターンであった。この場合、土壌の表層が攪拌されていない秋小
麦、あるいは不耕起・簡易耕のような圃場では侵食が軽減された。
6)以上のことから、基盤整備事業などにおいて、「水の流れを把握し、特に水の流れの分散を配慮した排
水施設の整備」が重要である。なお、地域全体を対象とした排水システムの充実が、十勝農業の持続性
にとっても基礎条件である.(図2−①)
7)土壌侵食対策としては、トラクター出入口の改善、明渠や、圃場周囲の側溝の整備をはじめとして、被害
者にならないためには傾斜最上部での圃場外からの水の流入を遮断し、加害者にならないためには下
部での圃場内水の流出遮断を基本に、圃場内での等高線・鋤溝配置による圃場流下水の側溝への誘
導が有効である。(図2−①・②)
10.成果の具体的数字
表1 土壌侵食度合
\侵食度合 | 無 | 微 | 小 | 中 | 大 | 計 |
1987年件数 | 2 | 3 | 3 | 8 | 9 | 25 |
1988年件数 | 9 | 10 | 5 | 7 | 6 | 37 |
表2 土壌侵食発生要因事例(1987.3〜4)数字は事例数
土壌 浸食 度合 |
土壌の特性 | 地形の特徴 | 管理状況 | ||||||||||||||||
火山性土 | 台 地 土 |
低 地 土 |
難透 水層 |
礫 層 |
斜 度 |
端の 凹部 |
明渠 逆流 |
うねり | 秋 小 麦 |
新播 牧草 |
不耕 裸地 |
秋砕 裸地 |
秋耕 裸地 |
タイ ヤ跡 |
|||||
乾性 | 湿性 | 平坦 | 微・小 | 緩・中 | 大 | ||||||||||||||
大 | 2 | 4 | 2 | 1 | 4 | 4 | 5 | 3 | 1 | 1 | 1 | 1 | 5 | 6 | 1 | 5 | 1 | 1 | 1 |
中 | 3 | 0 | 2 | 3 | 2 | 2 | 3 | 2 | 0 | 0 | 2 | 1 | 4 | 3 | 1 | 3 | 2 | 0 | 0 |
小 | 2 | 1 | 2 | 0 | 0 | 1 | 1 | 1 | 0 | 1 | 2 | 1 | 1 | 5 | 0 | 1 | 0 | 0 | 2 |
11.成果の活用面と留意点
(1)沢等を埋め立てたような圃場では融雪時に古い沢が蘇り、うねりのある集水地形を形成し、大きな侵食
を起こす。(図2−③)こうした圃場では、鋤溝配置による浸食軽減は期待できず、逆に土壌侵食を助長す
る可能性の大きい事例が視察された。このような圃場では、再区画や均平化をふくめた再基盤整備の必
要性があると判断された。
(2)圃場面積拡大による低コスト化を追求する場合など、斜面長の延長による侵食エネルギーの増大を考
慮し、その流れによる被害あるいはその流れの分散に要する経費をコスト計算に入れることが必要である。
12.残された問題とその対応
(1)地形、農法、作物配置などに対応した総合的な水制御システムの整備。
(2)防風林もふくめた、土壌保全的圃場管理システムの開発。
(3)リッジティレッジの検討。
(4)不耕起越冬圃場における融凍時の除雪効果の評価