7.目的
　たまねぎ栽培の省力化のため、直播栽培法の改善技術について検討し、導入する際の資料を得る。

8.試験研究方法
1)機械化技術
　(1)目土施用技術の開発：目土施用装置を開発し、施用量と効果を調査。供試品種「レオ」
　　供試目土資材:未熟火山性土栽植密度27㎝×9㎝
　(2)液体クラスト防止剤の検討：散布方法(Tジェットノズル)全面散布、帯状散布。供試品種「レオ」
　(3)簡易被覆資材の利用：供試簡易被覆資材PP90、供試品種「レオ」
2)栽培技術
　(1)品種の直播適応性：１２品種を供試。耕種法は移植栽培に準ずる。以下同様。
　(2)栽植密度：畦間30㎝、27㎝、25㎝、株問10㎝、9㎝、8㎝
　　　　　　　　2条植え(30㎝×8㎝x15cm)の6水準、供試品種:「レオ」
　(3)雑草防除：直播用除草剤の検索(1989年)として10薬剤を供試。
　　　　　　　　体系処理効果の検討(1990〜1992年)として3薬剤を供試。
3)経済的評価
　(1)直播栽培および移植栽培事例の経営実態調査。直播事例1戸、移植事例2戸(テープ式)
　　労働投下時間、資本投下額、生産費用に関する聞き取り調査。
　(2)直播栽培経営モデル作成と試算分析。
　　直播栽培経営と移植栽培経営の事例調査に基づくモデルの作成と試算分析。

9.結果の概要・要約
1)機械化技術
　(1)目土施用技術
　　　目土施用装置を開発し、目土施用量について検討した結果、出芽率は目土施用によって向上し、収量
　　も増加した。目土処理量80〜100L/aで最大の効果が得られた。
　　クラストの影響を受け易い圃場では、目土施用により出芽を安定させることができ、生育・収量を向上さ
　　せる効果が得られる。
　(2)液体クラスト防止剤の検討
　　　液体クラスト防止剤の散布方法、散布量について検討した結果、全面散布では散布量が多いほどクラ
　　ストの生成程度は軽減され、出芽率も向上した。
　　施用量を節減するため、播種畦上に、幅10㎝の帯状散布を行うと、標準施用量の約1/3で済み、出芽率
　　向上効果も得られた。
　(3)簡易被覆資材の利用
　　　簡易被覆資材の利用により、地温が上昇し、土壌水分もやや高めに推移した。このため出芽率は無
　　被覆にくらべて向上し、資材によるクラスト生成防止、保温・保湿効果が確認された。しかし、雑草の生育
　　も旺盛になるので初期除草を早めに行う必要がある。
2)栽培技術
　(1)品種の直播適応性
　　　早生種は肥大性が劣り、晩生種は青立など生育が不安定であった。「レオ」「ひぐま」など中生種が安
　　定した収量を示した。
　(2)栽植密度
　　　栽植株数が多くなると総収量が高くなるが、一球重力紙下した。圃場の出芽率を考慮した4,000粒/a
　　程度の播種量が球肥大性などから良好な結果を示した。
　(3)雑草防除土壌処理剤(ペンディメタリン乳剤)、茎葉処理剤(アイオキシニル乳剤、セトキシジム乳剤)の
　　体系処理によって、生育初期からの除草が可能と思われる。なお、いずれも直播用としての登録はない
　　が、アイオキシニル乳剤については、現在、直播用除草剤として登録のための試験を実施中でである。
3)経済的評価
　(1)省力的性絡を持つ直播栽培技術は家族労働主体の労働力構成で約9haの作付が可能である。
　(2)直播栽培の10a当り所得は移植栽培よりも少ないが、9ha規模では農機具の効率的利用により償却費
　　が低下し、㎏当り生産資は移植栽培よりも低い。
　(3)この結果、1戸当り所得は作付面積拡大の制約を強く受ける移植栽培を上回る。

10.成果の具体的数字
表1　　目土施用量とその効果　(中央農試場内)

目土処理量		5月21日		6月26日			9月24日
(L/a)	(cc/m)	出芽率 (％)	クラスト硬度(N)	出芽率(％)	葉数	草丈(㎝)	苗立率(％)	腐敗率(％)	規格内収量(kg/a)	規格内率(％)	総収量(kg/a)	平均一球重(g)	L球以上比率(％)
0	0	0	23.3	72.0	2.7	8.8	51	5.1	122	60	203	96	30
20	54	14.0	3.9	---	---	---	59	3.2	186	70	267	111	37
40	108	35.4	1.9	93.4	3.6	15.1	62	1.1	227	77	297	116	41
60	162	41.3	0.5	84.0	3.1	11.7	66	0.7	263	77	341	126	54
80	216	52.3	0.4	91.0	3.5	13.1	78	2.7	365	79	495	142	49
100	270	69.4	0.3	89.2	3.3	14.1	84	4.5	281	76	369	105	35
120	324	30.6	0.2	68.3	3.5	15.8	43	5.1	151	67	224	131	50

注)6/26の調査は出芽率の推移を見るために行った。

表2　　液体クラスト防止剤の効果

散布法	散布量		クラスト 硬度 (N)	出芽率 (％)
	(L/㎡)	(L/a)
全面散布	2	200	5.3	75.0
	1	100	6.1	43.0
	0.5	50	15.3	0.0
帯状散布	2	74	---	46.7
	1	38	---	43.3
	0.5	18	---	15.0
無散布	0	0	15.5	7.0

表3　　簡易被覆資材の効果

	出芽率 (％)	クラスト 硬度 5/21 (N)	規格内重 (㎏/a)	規格内品率 (％)	総収量 (kg/a)	平均一球重 (g)	L球以上 比率(％)
被覆区	42	0	134	62	216	153	54
無被覆区	0	23.3	122	60	203	96	30

注)出芽率　5月21日調査。

表4　　異なる栽植密度における収量性　(1990年〜1992年の３カ年平均)

処理区	欠株率 (％)	腐敗率 (％)	草丈 (㎝)	肥大期 (月日)	倒伏期 (月日)	規格内 球重 (kg/a)	同左比 (％)	移植と の比率 (％)	総収量 (kg/a)	平均 一球重 (g)	球形 指数	L球 以上の 比率(％)
30×10	28.9	3.2	45.8	7.31	9.3	262	100	65.7	328	150	88.0	59.5
30×8	23.2	1.9	45.6	7.31	9.2	316	121	78.8	392	131	90.4	47.4
25×10	26.7	2.1	47.3	7.31	9.1	307	117	78.8	381	138	88.9	52.8
25×8	21.3	4.4	46.9	7.31	9.1	326	124	80.8	440	125	89.9	43.4
27×9	29.7	4.2	31.1	8.16	9.22	218	118	71.9	272	115	97.8	40.0
２条植	22.8	-	44.8	7.30	8.30	304	116	75.3	368	119	-	35.2

注)27㎝x9㎝は1992年のみ。移植との比率:移植の30㎝×10㎝との比率。

表5　　直播栽培の生産性と収益性

		直播栽培経営	移植栽培経営
経 営 規 模	作付面積(ha)	9.3	6.8
	機械施設資本投下額(千円)	29,168	31,765
	家族労働時間(h)	2,400	2,122
	雇用労働時間(h)	124	1,185
生 産 性	家族1人当り作付面積(ha)	3.1	2.3
	家族1人当り生産量(t)	124.2	113.6
	kg当り生産費(円)	32.3	39.4
収 益 性	10a当り農業所得(千円)	101.4	105.7
	時間当り農業所得(千円)	3.9	3.4
	家族1人当り農業所得(千円)	3,143	2,396
	1戸当り農業所得(千円)	9,429	7,188

11.成果の活用面と留意点
　たまねぎ栽培こおける省力化のため、直播栽培法を導入する際の資料として活用。なお、生育遅延等による収量変動が移植栽培より大きいので圃場条件、気象条件を考慮して活用する必要がある。

12.残された問題点とその対応
　施肥量の検討。
　直播用除草剤の登録。黒穂病、立枯病など生育初期に発生する病害虫の防除法の検討。