試験研究成績(作成 平成5年1月)
1.課題の分類  総合農業 作業技術 農業施設-8
          北海道 農業物理 家畜
2.研究課題名  フリーストール牛舎構造と作業性に関する試験
          (寒地型フリーストール牛舎施設の合理的権造・配置に関する試験)
3.予算区分  道費
4.研究期間  平成2年〜4年
5.担当  根釧農業試験場 酪農施設科 酪農第二科 管理科
6.協力分担  なし

7.目的
 本道では成牛飼養頭数が50頭以上の農家が年々増加し、ここ数年間でつなぎ式からフリーストール・ミルキングパーラ搾乳方式に移行した農家が倍増するなど、フリーストール方式による飼養管理および搾乳作業などの省力化を望む声が極めて高くなっている。一方、これまでの農家調査などでフリーストール牛舎施設の換気構造、牛床、通路などの構造に多くの問題点が指摘されているとともに、牛舎施設の構造、フリーストールにおける乳牛行動、牛舎レイアウトと作業性、ミルキングパーラ形式と搾乳能率などフリーストール導入時に必要な諸項目の検討が強く求められている。そこで、最近建設されたフリーストール牛舎の構造、管理作業、乳牛行動、搾乳作業などの実態と作業性の調査、分析を行って問題点を明らかにし、フリーストール・ミルキングパーラ搾乳方式導入時の参考に供する。

8.試験研究方法
1)フリーストール農家事例調査網走北見を含む道東地区の農家22戸を調査した。
2)フリーストールにおける乳牛の行動根釧農試、現地農家で牛床条件並びに飼料給与と採食について
 検討した。
3)牛舎レイアウトと管理作業調査レイアウト別に牛舎管理作業時間を調査した。
4)パーラ形式と搾乳能率パーラ形式別の搾乳能率と、作業動線を調査した。
5)牛床および敷料資材の違いによる牛床汚染状況
 ゴムマット、オガクズ、乾草、火山灰について細菌数などを調査した。

9.結果の概要・要約
1)22戸のフリーストール牛舎を調査した結果、屋根形状は切妻型が多かった。環境調節方法ではカーテン
 による開口部を設けた棟開放型、あるいは南面開放型の自然換気方式が多く採用されていた。パーラと
 牛舎がL型に配置されたものが多く、飼糟に対するストールの配置は2ロー、3ローともほぼ同数であった。
 パーラ形式はサイド・パイ・サイド方式が多く、ついでヘリンボーンであった。古い牛舎を改造したフラット
 パーン(2戸)と、既存牛舎で入れ換え搾乳を行っている例も見られた。飼糟の形状は通風が良好なことと
 掃除のし易さなどからフラットが多い。バドックは設置していないところが多く、敷料はオガクズ、麦わら、
 細断麦わらがほぼ同数で用いられている。堆肥処理は10戸でほかはスラリ処理である。
2)フリーストール牛舎内の乳牛の動きは濃厚飼料自動給飼機、飲水器など付帯施設の設置場所よって制
 限されるので、設置賜所の選定が重要である。また、牛床の状態によって行動バターンが大きく変わるこ
 とが確認された。ストールの利用率を高め牛体の汚れを防ぐために、適量の敷料を投入するなど快適な
 牛床を作ることが重要である。
 飼料給与と採食行動の調査からは、飼料給与後約1.5時間から2時間経過すると採食可能範囲が食べつ
 くされ掃き寄せが必要である。適切な掃き寄せ、飼料給与回数は、1日あたりの採食可能時間を十分に
 考慮して決定する。
3)牛舎レイアウトがT型の場合は群分けが単純で入れ換え作業も短時間で可能であった。L型では1群管
 理であったので、群分けなどの諸作業の確認ができなかった。I型では、対頭式のストールを2列配置して
 いたが、群分けにより中央通路のゲート開閉が多く複雑であった。
4)サイド・パイ・サイド(8,10,12頭複列、15頭単列と自動開閉装置付の3頭複列タンデムについて搾乳能率
 と作業性を調査した。1時間当りの搾乳頭数はサイド・パイ・サイドでは8Wでは62.4頭(2名)、10Wで89.0頭(3
 名)、12Wで96.6頭(3名)、15Sで44.4頭(2名)であった。3Wタンデムでは37.0頭(2名)であった。作業動線は
 15Sが最も単純であったが作業者と乳牛の待機時間が長かった。3Wタンデムではほかの牛の影響を受
 けずに搾乳ができるが乳房間距離が最も長く、作業動線も複雑であった。ミルカ利用効率はタンデムが
 最高で75%と最も高くサイド・バイ・サイドは最高で50%程度であった。
5)ゴムマット時の牛床の汚れは後ろから90㎝に及んだ。オガクズおよび乾草では、総菌数が109個/g程度
 に増えたが細菌の構成比が異なった。火山灰ではストール後部は総菌が1010以上となった。また、どのよ
 うな敷料・資材であっても利用後すぐに細菌に汚染されるので、牛床・敷料表面を乾燥させるなどの管理
 に注意が必要である。

10.主要成果の具体的数字

表1  牛舎構造、糞尿処理方法別の農家戸数(調査農家22戸)
屋根形状 換気方式 牛舎
レイアウト
パーラ方式 飼槽柵構造 糞尿処理・貯留
切妻
片流れ
セミモニタ
 
 
14
3
5
 
 
棟+壁面開放
モニタ+壁面開放
壁面開放
窓+ベンチレータ
 
11
5
4
2
L型
I型
T型
 
 
13
6
3
 
 
ヘリンボーン
サイド・バイ・サイド
フラットバーン
タンデム(自動開閉)
既存入れ替え
8
10
2
1
1
セルフロック
パイプ
被覆ワイヤ
(未確認)
 
6
12
2
(4)
 
堆積・堆肥
スラリ+ピット
スラリ+ラグーン
 
 
10
5
7
 
 

表2  敷料別ストールの積算利用時間
スールの位置 ゴムマット オガクズ 牧草
窓側(h/週) 6.8 13.2 16.8
中央(h/週) 8.0 32.6 21.4
平均(比)*(h/週) 7.4(1.0) 22.9(3.1) 19.1(2.6)
注)調査時間:16時間×7日、平均値の比は対ゴムマットである。

表3  乳牛管理作業時間
作業内容/農家区分(レイアウト) A(T) X(T) N(I) H(L)
牛群移動(分/1搾乳) 16(2) 7(2) 32.7(1) 14.1(2)
ゲート開閉(分/1搾乳) 6(2) - 11.2(1) -
除糞作業(分/1回) 28.5(1) 25(3) 18.6(1) 23.0(1)
ストール清掃(分/1回) - 66(3) 30.8(1) 8.9(2)

表4  パーラ形式別の搾乳能率
パーラ形式 作業
者数
(人)
搾乳
頭数
(頭)
搾乳時間
(時間)
搾乳能率
(頭/時間)
移動
距離*
待機時間
の長さ*
ミルカ利用
効率**
12Wサイド・パイ・サイド 3 132 1.37 96.6
10Wサイド・バイ・サイド 3 170 1.91 89.0
8Wサイド・パイ・サイド 2 75 1.17 62.4
15Sサイド・パイ・サイド 2 83 1.87 44.4
3Wタンデム 2 42 1.14 37.0
*移動距離および待機時間は、短い:◎、長い:△、中間:○で表示。作業者は1名。
**ミルカ利用効率は最高が50%程度:○、70%以上:◎で表示。

表5  敷料中(牛床後部)の細菌数変化
敷料 採取時期 菌数(log/g)
総菌 ブドウ球菌 大腸菌群 連鎖球菌
オガクズ 投入時 5.8 4.1 4.5 <2.0
2目目 9.4 6.7 8.4 7.6
4日目 9.5 6.6 8.7 7.3
7日目 9.8 6.8 8.7 7.4
乾草 投入時 8.2 8.0 <2.0 <2.0
2日目 8.9 8.8 6.3 6.9
4日目 9.5 9.2 6.4 8.5
7日目 9.2 8.8 6.0 82
調査時期:8月27日〜9月3日、9月18日〜25日

11.成果の活用面と留意点
1)フリーストールを計画する際に必要となる乳牛の行動、管理作業、搾乳能率、敷料資材などの参考資料
 として活用できる。
2)地域の実態に応じた経済的な検討が必要である。

12.残された問題点とその対応
1)大きな開口面積を持った牛舎の外気条件と換気量の検討。
2)簡易パーラとしての入れ換え搾乳、フラットバーンパーラの作業能率と作業性の検討。
3)砂などを用いた牛床の細菌徴とその季節変動の検討。