1.課題の分類 農業工学 農業施設 環境 Ⅳ-2 北海道 農業物理 農業施設 2.研究課題名 畜舎からの排気熱利用による軒下堆積雪の融雪技術 3.予算区分 経常 4.研究期間 (昭62〜平4年) 5.担当 北農試 農地農業施設研究室 6.協カ・分担関係 道立滝川畜産試験場 |
7.目的
畜舎では厳寒期でも舎内環境を良好に保持するために換気を行う必要がある。一般的に、畜舎からの排気熱は利用されずに大気中に放散される。本課題では、畜舎からの排気熱を利用して、屋根から落ちて軒下に堆積した雪を融雪する技術を検討した。
8.試験研究方法
検討した融言方法の篠要を図1に示す。換気扇(羽根径30㎝、47W、スライダックにより風量を調節)からの排気を縦ダクトによって地表面付近まで下げ、軒下に設置した融雪ダクト)側壁から約80㎝のところに棟方向に設置)に導入・排出して融雪を行った。実験を行った畜舎(滝川畜試内)は、温風曖房機が設置されていて、舎内気温が約20℃の分娩豚舎と無曖房で舎内気温が約10℃の成雌豚舎である。融雪ダクトに用いた材科は、ポリチューブ(外径29㎝、ポリエチレン製、厚さ0.1mm、10㎝ごとに10φの孔を2箇所ずつあけたもの)、コンクリートブロック(19×9×39㎝、空洞内に排気を導入)、有孔プラスチックヒューム管(外径23㎝)の3種類である。1実験区のダクト長を約12mとした。設定した換気扇風量による総換気量のほとんどは米国の普及機関(Midwest Plan Service)が推奨する寒冷期の必要最低換気量を上回らない量である(表1参照)。排気温度を連続測定し、排気量、堆積雪深、堆積雪の密度は1〜3週間ごとに測定した。降水量に関しては滝川畜産試験場気象観測露場のデータを使用した。排気熱による融雪量は、自然融雪量を差し引くため、測定期間中の対照区および実験区の堆積雪量の変化の差異から求めた。また、融雪量に対する排気の湿度の影響をみるために、実験室内の気温を約16℃に保ち、加湿して融雪した場合と無加湿で融雪した場合を比較した。
9.結果の概要・要約
図2に測定期間中の側壁付近の堆積雪深の推移を例示する。いずれの実験区でも融雪による堆積雪の低減効果は明瞭に認められた.融雪ダクトの材料に関しては、コンクリートブロックがほかの2つの材料よりも融雪量が大きかった。この理由は、ブロックがほかの融雪タクト材料よりも帽が広いことと、面で地面と接しているためブロック付近の地温が上昇することであると考えられる。本技術を他の畜舎に適用する場合、事前に融雪可能量を推定するためには熱利用効率(融雪に用いられる熱量/排出熱量)の定量化が必要である。熟利用効率に最も大きく影響するのは、とかすぺき雪の量(軒下に堆積する雪)と排出熱量との比であると考え、雪量・排出熱量比と熱利用効率との関係を検討した。その結果、いずれの材科でも熱利用効率は雪量・排出熱量比の関数で表すことができた。この結果をもとに、岩見沢の平年降水量を前提として、表2に示したような条件を仮定し、融雪ダクトとしてコンクリートブロックを用いた場合の側壁付近の堆積雪深をシミュレーションによって推定した。その結果、融雪を行わない場合には、2月初旬に堆積雪と屋根雪とが連結するものと推定された。融雪を行った場合には、排気温度が10℃の場合でも平均堆積雪深は70㎝未満であり、15℃、20℃の場合には50㎝を越えないという結果であった(図3参照)。実験室内を湿度約60%に加湿した場合の融雪量は無加湿の場合(湿度約30%)の1.5〜2.2倍であった。これは、排気中の水蒸気が融雪ダクト内面、あるいは雪面において凝結し、凝結時の発熱が融雪に用いられるためである。排気量と排気温度が同一の場合には、排気湿度が高いほど融雪量は大きくなると考えられる。縦ダクトおよび融雪ダクトの材科費を表3に示した。
10.主要成果の具体的数字
表1 実験区の概要と設計条件
実験区No. | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
設置豚舎 | 分娩 | 分娩 | 分娩 | 分娩 | 分娩 | 分娩 | 成雌 | 成雌 | 成雌 |
ダクト材料 | チューブ | ブロック | ヒューム 管 |
チューブ | ブロック | ヒューム 管 |
チューブ | ブロック | ヒューム 管 |
ダクト長さ(m) | 11.7 | 11.7 | 12.0 | 11.7 | 11.9 | 11.9 | 12.3 | 11.7 | 12.0 |
設計舎内気温(℃) | 20℃ | 20℃ | 20℃ | 20℃ | 20℃ | 20℃ | 10℃ | 10℃ | 10℃ |
設計風量(m3/h)① | 100 | 100 | 100 | 200 | 200 | 200 | 400 | 400 | 400 |
設計風量(m3/h)② | 150 | 150 | 150 | 400 | 400 | 400 | 200 | 200 | 200 |
表2 堆積雪深推定のシミュレーションで仮定した条件
項目 | 仮 定 し た 条 件 |
畜舎諸元 | 間口10m、奥行50m、軒高2.4m、南北棟 |
換気量 | 2400m3/h(成雌豚120頭飼養、MWPS推奨値) |
舎内気温 | 10、15、20℃ |
落雪条件 | 期間内に全て側壁から1.2m以内に滑落 |
自然融雪量 | 軒下堆積雪が1日に2.6cm減少する(滝川における12〜2月の南北棟の実測値) |
堆積雪密度 | 0.35g/cm3 |
降水量 | 岩見沢の旬別平年値を使用 |
表3 縦ダクトおよび融雪ダクトの材料費
縦ダクト | 融雪ダクト | |||
ヒューム管 | 合板自作 | ポリチューブ | ブロック | ヒューム管 |
30,000 (円/本) |
7,000 (円/本) |
6001) (円/m) |
1,000 (円/m) |
2,000 (円/m) |
11.成果の活用面と留意点
(1)機械による除雪の困難な畜舎での利用が有効である。
(2)軒下に蓋付きの排水溝が配置されている畜舎では、排水溝を融雪ダクトとして利用することができる。
(3)換気量が確保されている。
12.残された問題とその対応
ダクト材料費の低減。