1.課題の分類 総合農業 生産環境 病害虫 病害 北海道 病理昆虫 病害 テンサイ 2.研究課題名 弱毒ウイルスを利用したてんさいそう根病の生物防除 3.予算区分 道費・共同 4.研究実施年度・研究期間 平成元年〜4年 5.担当 中央農試生物工学部遺伝子工学科 日本甜菜製糖株式会社総合研究所 6.協力・分担関係 |
7.目的
てん菜そう根病は、被害が大きく、防除が困難な土壌病害である。そのため、バイオテクノロジーを利用した弱毒ウイルスの作出とそれを用いた生物防除法の開発を行う。
8.試験研究方法
1)供試ウイルス系統
A型弱毒ウイルス(RNA-1+2)、B型弱毒ウイルス(RNA-1+2+4)
C型弱毒ウイルス(RNA-1+2+3c+4)、D型弱毒ウイルス(RNA-1+2+3d+4)
普通強毒ウイルスS-34、T(RNA-1+2+3+4)
2)ウイルスの増殖と接種:試験管育苗、恒温培養器(25℃、16hr照明)、温室
3)ウイルスとRNAの検定:生物検定、エライザ法、ゲル電気泳動、ノーザンブロッティング法
4)温室試験:中央農試生物工学部温室
5)圃場試験:日甜総合研究所 発病枠圃場、発病圃場、健全圃場
9.結果の概要・要約
1)てんさいそう根病の病原ウイルス(BNYVV)には、4〜5種のRNA遺伝子が存在し、そのうちRNA-3が病原性、
RNA-4が、Polymxa betae菌の伝搬性に関与していることを明らかにした。
2)病原性遺伝子RNA-3の全塩基配列を決定し、この遺伝子にコードされている25kダルトンのタンパク質の
発現がそう根症状に深く関与していることを明らかにした。
3)遺伝子解析結果から、。RNA-3を取り除くと弱毒ウイルスになることを見つけた。さらにRNA-3にコードさ
れている25kタンパク質の一部を除いた内部欠失遺伝子RNA-3も同様に、弱毒ウイルスになることを発見
した。
4)汁液による弱毒ウイルスの機械的接種は困難であった。
5)媒介者P.betae菌を用いた弱毒ウイルス接種法を考案した。すなわち、RNA-4がP.betae菌による伝搬率
を向上させることに着目し、RNA-4を含む弱毒ウイルスB型(RNA-1+2+4)とRNA-4とRNA-3の内部欠失変
異を含む弱毒ウイルスC型およびD型(RNA-1+2+欠失3+4)をそれぞれ作成し、P.betae菌に保有させた。
6)C型およびD型弱毒ウイルスは、B型より安定してP.betae菌によって伝搬され、休眠胞子で長期間保存
できた。
7)各種弱毒ウイルスを接種したてんさい苗を発病圃場へ移植し、検定した結果、欠失RNA-3を含むC型お
よびD型弱毒ウイルスは、干渉効果が認められたが、B型弱毒ウイルスの干渉効果は不十分であった。
8)根におけるウイルスとRNAの検定結果、欠失RNA-3が存在すると、明らかに正常RNA-3の感染、増殖が
抑えられることが示された。
9)てんさいの紙筒育苗中に、弱毒ウイルス保有P.betae菌の遊走子を含む液を散布することによって、高
率に弱毒ウイルスを接種させることができた。
10)弱毒ウイルスのてんさいに対する影響を詳細に調べた結果、根中糖分と品質には全く影響しなかった
が、品種や栽培条件によって根重がわずか低下する傾向があった。
11)一般発病圃場に弱毒ウイルス接種苗を定植した結果、明らかに防除効果が認められた。
12)弱毒ウイルスの持続効果(残存効果)として、もし弱毒ウイルスを積極的に使用すると、処理圃場の病
原性が低下する可能性が示された。
10.成果の具体的数字
表1 C型弱毒ウイルスの防除効果
品種 | 接種 | 根重 t/10a(比) |
根中糖分 %(比) |
糖量 kg/10a(比) |
モノミドリ | 接種 | 6.22(133) | 15.24(104) | 947(138) |
無接種 | 4.69(100) | 14.66(100) | 687(100) | |
エマ | 接種 | 5.24(103) | 16.29(103) | 854(107) |
無接種 | 5.07(100) | 15.768100) | 799(100) |
11.成果の活用面と留意点
1)欠失遺伝子を利用した新しい弱毒ウイルスの作出法を開発した。
2)この手法で開発したBNYVVの弱毒ウイルスは、そう根病に対して防除効果を示した。
3)弱毒ウイルスの接種は、てんさい紙筒育苗中に行い、その接種苗の使用は発病圃場に限定する。
4)供給体制はまだ確立されていないが、当面試験用としての使用は可能である。
5)研究成果の一部は、特許共同出願した。
12.残された問題とその対応
1)発病程度の異なる圃場での実証試験
2)弱毒ウイルスの効率的増殖法と接種法
3)処理跡地での追跡調査