1.課題の分類 総合農業 生産環境 病害虫 虫害 Ⅲ-4-d 農業環境 環境生物 昆虫 特性利用 3-3-2 北海道 病理昆虫 虫害 畑作 2.研究課題名 アブラムシ類殺虫細菌の探索とその効果 (アブラムシ類殺虫細菌の探索とその実用化に関する試験) 3.予算区分 道費 4・研究期間 (昭和63年〜平成4年) 5.担当 中央農試病虫部害虫科/十勝農試研究部病虫科 6.協力分担 |
7.目的
微生物防除法をアブラムシ類防除に導入するために、アブラムシ類に寄生する細菌を収集しその中から微生物殺虫剤として有用な細菌を探索するほか、その培養法と感染メカニズムを解明し、アブフムシ類に対する防除効果の確認を行い、且つ実用化を図る。
8.試験研究方法
(1)細菌の分離および収集 (2)有用細菌の選抜 (3)有用細菌の同定 (4)殺虫機作の解明
(5)殺虫効果の促進
9.結果の概要・要約
(1)細菌の分離および収集
①617個体のホストから1100株の細菌を分離した。
(2)有用細菌の選抜
①細菌の接種のために噴霧接種法と経口接種法を考案し、アブラムシに対して病原性を示す細菌のス
クリーニングに用いた。
②582菌株の中から室内での噴霧接種によってジャガイモヒゲナガアブラムシに殺虫効果を示す9菌株を
選抜した。
③上記9菌株の中から温室、ハウス、露地での噴霧接種によってジャガイモヒゲナガアブラムシ、モモア
カアブラムシ、ワタアブラムシ、ムギクレアブラムシに殺虫効果を示すF2株を有用菌株として選抜した。
④518菌株の中から室内での経口接種によってジャガイモヒゲナガアブラムシに殺虫効果を示す10菌株を
選抜した。
⑤上記10菌株は温室、ハウス、露地での噴霧接種によって殺虫効果を示さなかったので、室内の経口接
種で高い殺虫効果を示したK3株を有用菌株として選抜した。
(3)有用細菌の同定
①F2株はPseudomonas fluorescensと同定された。P.fluorescensのアブラムシに対する病原性は報告され
ていない。
②K3株は腸内細菌科に属したが、報告のある昆虫病原性腸内細菌種には属さなかった。
(4)発病機作の解明
①F2株とK3株の培養上清と沈澱をそれぞれ噴霧接種と経口接種すると、F2株上清の噴霧接種、F2株沈
澱の経口接種、K3株沈澱の経口接種において高い死虫率を示した。
②F2株上清の経時的噴霧接種の結果、ジャガイモヒゲナガアブラムシ成虫に対しては培養20時間後、幼
虫に対しては培養16時間後の上清から殺虫活性を示した。
③K3株の経口接種の場合、虫体内接種菌濃度は接種菌液濃度が濃いほど、また接種時間が長いほど
高い値を示し、虫体内接種菌濃度が濃いほど死亡までの日数が短かったが、最高死虫率は接種菌液
濃度にかかわらず高い値を示した。
④また、上記接種試験で、死亡時の体内細菌濃度は死亡までの日数にかかわらずほぼ一定であり、成
虫が死亡するまでに産んだ幼虫(死亡個体)からも接種細菌が再分離された。
(5)殺虫効果の促進
①K3株の培養液の噴霧接種は、モモアカアブラムシに対して殺虫効果が認められなかったが、培養液に
庶糖を添加して噴霧接種すると高い殺虫効果が認められた。
10.成果の具体的数字
表3 F選抜菌株の温室・ハウス・露地での噴霧接種試験
アブラムシ 種 類 |
接種場所 寄生作物 |
F選抜菌株 No. | ||||||||
F1 | F2 | F3 | F4 | F5 | F6 | F7 | F8 | F9 | ||
ジャガイモヒゲナガ アブラムシ |
霧 バレイショ | - | △ | ○ | - | ◎ | - | - | - | - |
霧 アズキ | - | ◎ | ◎ | ◎ | - | - | - | - | - | |
霧 ダイズ | - | △ | ○ | × | - | - | - | - | - | |
モモアカ アブラムシ |
温 キャベツ | - | ○ | ○ | △ | △ | △ | ○ | ◎ | ○ |
ハ トマト | - | ◎ | ◎ | - | × | - | - | - | - | |
ハ ダイコン | - | - | ○ | - | ◎ | - | - | - | - | |
露 バレイショ | - | ◎ | ◎ | △ | - | - | - | - | - | |
露 ルタバガ | - | ◎ | ○ | - | ◎ | - | - | - | - | |
ワタアブラムシ | 温 バレイショ | - | ◎ | ◎ | - | × | - | - | - | - |
ハ キュウリ | ◎ | ◎ | ◎ | ○ | ◎ | ◎ | ◎ | ○ | ◎ | |
ハ アジウリ | - | - | ◎ | - | ◎ | - | - | - | - | |
露 キュウリ | - | - | △ | - | △ | - | - | - | - | |
ムギクビレ アブラムシ |
露 エンパク | - | ◎ | ◎ | - | ◎ | - | - | - | - |
露 コーン | - | ◎ | ○ | ◎ | - | - | - | - | - | |
露 コムギ | - | - | ◎ | - | - | - | - | - | - | |
ムギヒゲナガ | 露 コムギ | - | ○ | × | ○ | - | - | - | - | - |
コンドウヒゲ | 露 アルファルファ | △ | △ | △ | - | - | - | - | - | - |
表7 K3株の噴霧接種における殺虫効果促進試験
【温室、キャベツ、モモアカアブラムシ】
接種液種類 | 1株寄生数(補正密度指数) | |||||
接種前 | 2日後 | 5日後 | 8日後 | 11日後 | 13日後 | |
B | 38 | 48(126) × |
55(78) × |
80(75) △ |
160(73) △ |
226(68) △ |
B+T | 36 | 37(103) × |
69(104) × |
97(96) × |
198(95) × |
330(105) × |
B+S | 45 | 34(76) × |
40(48) ○ |
95(75) △ |
145(56) △ |
186(47) ○ |
B+T+S | 66 | 18(27) ○ |
21(17) ◎ |
39(21) ◎ |
48(13) ◎ |
77(13) ◎ |
T+S | 25 | 25 | 46 | 70 | 145 | 219 |
11.成果の活用面と留意点
①細菌1100株から選抜したF2株とK3株はアブラムシに病原性があり高い殺虫効果を示した。F2株は
Pseudomonas fluorescensであり、K3株は腸内細菌科に属する菌種であった。K3株培養液に庶糖を添
加して接種すると殺虫効果が促進された。
②F2株が産生する物質はアブラムシに対して強い殺虫活性を示した。
12.残された問題とその対応
①殺アブラムシ活性物質の同定(他の研究機機関との共同研究が望ましい)
②殺虫細菌の種の同定
③微生物殺虫剤としての登録(現在、国が微生物殺虫剤登録のガイドラインを作成中)