試験研究成績(作成 平成5年1月)
1.課題の分類  畜産 乳牛 繁殖 根釧農試
          北海道 家畜
2.研究課題名  乳牛の超音波画像解析による繁殖機能と栄養状況に関する試験
         (放牧期分娩牛の飼養法改善による繁殖性改善に関する試験)
3.予算区分  道単
4.研究期間  (平1〜4年)
5.担当  根釧農試研究部酪農第二科
6.協力・分担

7.目的
 超音波断層装置による生殖器の診断精度を検討し、分娩後の子宮の経時的な修復状況や卵胞の発育状況を詳細に観察するとともに、泌乳初期の栄養充足状態が繁殖犠能におよぼす影響について検討した。

8.試験研究方法
1)超音波断層装置による診断精度の検討
 ①子宮の修復状況
 ②卵胞や黄体の性状、大きさ、数などの観察
2)泌乳初期の栄養充足状況と繁殖犠能との関係

9.結果の概要・要約
1)超音波断層装置は乳牛に苦痛を与えず、小型卵胞を含めた卵胞数や内部構造および子宮の修復経過を詳細に観察することができた。
 ①卵胞の大きさが2mm程度まで判別でき、10mm以上では摘出した卵巣を直接観察した結果とほとんど差
  がなかった(表1)。
 ②黄体は周囲の卵巣実質よりエコーレベルの低い台形の面像として得られた。
 ③子宮は内側および外側の2本の輪郭線に囲まれたエコーレベルの低い円筒形あるいは楕円形として描
  出された。外側輪郭線は子宮の血管層を、内側輪郭線は子宮の内膜を表した(図1)。
2)泌乳初期のTDN充足状態と卵巣機屋には大きな関係がみられた。
 ①TDN充足率は主に飼料摂取量の変化により毎日変動し、分娩後減少するが1週目頃から増加し、10〜
  20日目に80%を越え、一旦減少するが30〜40日目に100%を越えるⅠ型(図2)29頭、減少期間が2〜3週と
  長く、その後75〜80%の小ピークを形成するⅡ型5頭、臨床型乳房炎などで減少が50%以下となり、その
  後の回復により20日頃に小ピークを形成するⅢ型8頭および65〜80%の範囲で変動するⅣ型(図3)5頭の
  4つのパターンに大別した。しかし、残りの13頭はいずれの型にも分類できなかった。
 ②TDN充足率と繁殖成績では、初回排卵までの日数がⅠ型で15.9日と最も短く、Ⅳ型で47.7日と最も長か
  った。初回排卵までの最大卵胞数が多いほど、排卵までの日数が長く、特に初回排卵の遅延したⅣ型
  では最大卵胞数が3.3個と多かった。最終的にⅠ型およびⅡ型では、ほとんど受胎したが、Ⅲ型および
  Ⅳ型では受胎率が、それぞれ50.0%、60.0%と不受胎が多く、また、Ⅳ型では受胎までの日数が120.0日
  と長かった。(表2)

10.主要成果の具体的数字

表1  卵胞数と最大卵胞の直径
卵胞の直径 処理
生体 摘出 薄切
  ……卵胞数……
2〜4mm 14.5 16.0 16.0
5〜9mm 4.0 4.0 3.8
10〜14mm 0.8 1.3 1.0
15〜mm 1.0 1.0 1.0
  …最大卵胞直径(㎜)…
16.8 13.3 16.3

表2  TDN充足率で4型に分けた初回排卵前の最大卵胞数とその後の繁殖性
TDN
充足率型
例数 受胎頭数 受胎率 受胎牛の成績
受胎日数 最大卵胞数 排卵日数
初回 第2回
29 28 96.6 90.2 1.1 15.9 39.3
5 5 100 74.8 2.2 26.8 47.8
8 4 50 75.5 2.3 36.3 58.1
5 3 60 120 3.3 47.7 84.7

11.成果の活用面と留意点
1)TDN充足率の回復が早い牛は受胎性も高いが、TDN充足率の回復が遅い牛は受胎性が悪いので、TDN
 摂取量を大きくする工夫が必要である。
2)分娩時、難産や起立不能など異常がある場合、あるいは乳房炎や蹄病に罹患した場合など、栄養以外
 のストレスなどの要因も分娩後の繁殖機能に影響する。

12.残された問題とその対応
1)繁殖機能に関与する栄養的要因としては、エネルギーや蛋白質の他に、βカロチン、脂溶性ビタミンおよ
 びミネラルなどの影響するので、今後これらの検討が必要である。
2)分娩後、子宮や卵巣機能が速やかに回復するよう、とりわけ、食い込み悪い牛について適切な栄養充
 足率となる飼養技術が必要である。