1.課題の分類 畜産 乳牛 飼養 根釧農試 北海道 2.研究課題名 乳牛における分娩前後の養分充足と脂肪肝に関する試験 3.予算区分 道単 4.研究期間 (平4年) 5.担当 根釧農試 研究部 酪農第二科 6.協力分担 なし |
7.目的
牧草サイレージ主体の飼養試験に供された経産牛を用いて、分娩前後の養分充足と肝臓の脂肪沈着および血液成分との関連を明らかにするとともに、脂肪肝が肝機能および生産病に及ぼす影響を検討した。
8.試験研究方法
1)供試牛:ホルスタイン種の経産牛42頭
2)試験期間:分娩前4週〜分娩後8週
3)給与飼料:組飼料;牧草サイレージ自由採食
濃厚飼料;分娩前2過〜分娩まで2.6㎏、分娩後は9.1±2.4㎏(乾物中)
4)分析項目:肝臓の脂肪沈着割合、肝臓の異物排泄能試験(BSP試験)、血液成分
養分摂取量、乳量・乳成分、体重、受胎日数、疾病発生状況
9.結果の概要・要約
供試牛を分娩後2週の肝騒の脂肪沈着割合をもとに、以下のように群分けし比較検討した。
【A群;20%以上(7頭)、B群;10〜19%(6頭)、C群;9%以下(29頭)】
1)肝臓の脂肪沈着は、分娩前には各群ともほとんどみられなかった。しかし、分娩後2週には脂肪沈着が
20%を超えたA群では、乾物摂取量、TDN摂取量がC群に比べ少なく、TDN充足率が67%となり、著しい血清
遊離脂肪酸の上昇と体重の大きな減少がみられた。これらから、本試験での脂肪肝の主たる要因は、泌
乳初期の摂取エネルギーの不足により、体脂肪が遊離脂肪酸として肝騒に過剰動員されたことによるもの
と考えられた。(表1,3,4)
2)肝機能検査の1つであるBSP試験では、A群の分娩後2週に停滞率(30分値)が21%と著しい高値がみられ、
肝機能の低下が明らかであった(表2)。また、A群では分娩後に遊離脂肪酸、総ケトン体の著しい上昇と、
血糖の低下がみられ、摂取エネルギーの不足を反映していた(表3)。しかし、G0T・γ-GTP、総ビリルビン
では軽度の上昇がみられたに過ぎなかった。
3)受胎日数では、A群は131日とC群に比ぺ34日長く、中等度の脂肪肝でも繁殖性に影響を与えることが
示唆された。また、A群では生産病の発生率も86%と高い傾向にあった(表5)。
4)泌乳成績では、乳量は各群間に差がみられなかったが、A群の分娩後2過では4%補正乳量が39.7㎏、乳
脂肪率が4.76%と他群より高くなった。このように泌乳初期に乳脂肪率が高くなったのは、体脂肪由来の
長鎖脂肪酸の増加によるものと推察された(表6)。
5)分娩前2週から分娩後4週までの体重の減少は、A,B,C群各々121,94,77㎏とA群で大きく、ボディコンデイ
ションスコアーで1以上の低下があったものと推察された(表4)。
10.成果の具体的数字
表1 肝臓の脂肪沈着割合(%)
群 | 頭数 | 分娩前2週 | 分娩後2週 | 分娩後4週 |
A | 7 | 1< | 27.1±5.9 | 20.0±11.8 |
B | 6 | 1< | 14.2±2.3 | 7.4±7.3 |
C | 29 | 1< | 3.2±2.8 | 0.9±1.8 |
表2 分娩後2週のBSP試験
群 | 停滞率(%) | 半減時間(分) |
A | 21.1±9.2A | 10.3±3.5Aa |
B | 6.7±3.3B | 6.5±2.0b |
C | 4.5±2.9B | 5.3±1.6B |
表3 血液成分
群 | 遊離脂肪酸 μEq/L |
ケトン体 μmol/L |
血糖 mg/dl |
|
分娩前2週 | A | 165a | 507 | 62.1 |
B | 372b | 504 | 64.7 | |
C | 263 | 553 | 62.3 | |
分娩後2週 | A | 1306Aa | 1562A | 51.7Aa |
B | 712b | 905 | 58.7b | |
C | 543B | 770B | 60.4B | |
分娩後4週 | A | 649A | 2076A | 55.7a |
B | 629A | 887 | 65.2b | |
C | 344B | 658B | 62.2b |
表4 養分摂取状況と体重
群 | 乾物摂取量 kg |
TDN摂取量 kg |
TDN充足率 % |
体重 kg |
|
分娩前2週 | A | 13.5a | 9.2 | 131 | 756a |
B | 12.3b | 7.6 | 110 | 720 | |
C | 127 | 8.0 | 116 | 693b | |
分娩後2週 | A | 16.8 | 13.0 | 67Aa | 653 |
B | 17.6 | 13.9 | 79b | 627 | |
C | 18.6 | 14.7 | 84B | 621 | |
分娩後4週 | A | 18.8 | 14.7 | 76Aa | 635 |
B | 19.2 | 15.3 | 86b | 626 | |
C | 20.1 | 15.9 | 90B | 616 |
表5 受胎日数と生産病の発生
A群 | B群 | C群 | |
受胎日数 | 131a | 82b | 97b |
……頭(%)…… | |||
繁殖障害 | 3(43) | 0(0) | 7(24) |
胎盤停滞 | 1(14) | 1(17) | 1(3) |
起立不能症 | 1(14) | 0(0) | 1(3) |
ケトージス | 1(14) | 0(0) | 0(0) |
計 | 6(86) | 1(17) | 9(31) |
表6 泌乳成績
群 | 乳量 ㎏ |
補正乳量 ㎏ |
乳脂肪率 % |
乳蛋白率 % |
|
分娩後2週 | A | 36.1 | 39.7a | 4.76A | 3.17 |
B | 35.9 | 35.7 | 3.90B | 2.98 | |
C | 34.9 | 35.4b | 4.09B | 3.07 | |
分娩後4週 | A | 37.9 | 38 | 4.19Aa | 2.77 |
B | 37.5 | 36.2 | 3.74B | 2.85 | |
C | 36.3 | 35.3 | 3.82b | 2.87 |
11.成果の活用面と留意点
1)脂肪肝の主たる要因は、泌乳初期の摂取エネルギーの不足と考えられ、その予防には乾乳後期から
泌乳前期(特に分娩前1週〜分娩後2週)にバランスのとれた飼料給与により乾物摂取量を高め、ボディ
コンディションの低下をできる限り少なくすることが大切である。
2)高泌乳牛では脂肪肝(脂肪沈着20%以上)に陥りやすく、肝機能の低下が生産病や繁殖性の低下を招くこ
とから特に注意を要する。
12.残された問題とその対応
1)脂肪肝と生産病、特に繁殖機能との因果関係を解明する必要がある。
2)脂肪肝牛で総コレステロールとリン脂質の低下がみられたことから、脂肪肝とリポ蛋白質代謝との関連
性を検討する必要がある。
3)野外で脂肪肝の危険性を判断するためボディコンディションの客観的評価基準が必要である。