成績概要書(作成 平成5年1月)
1.課題の分類  草地 永年草地・放牧 放牧飼養 D-4
          北海道 家畜合同
2.研究課題名  チモシー草地の合理的放牧利用技術の確立
3.予算区分  一般別枠(体外受精)
4.研究期間  (昭和63年〜平成4年)
5.担当  北農試・草地部・放牧利用研
6.協力・分担関係  なし

7.目的
 チモシー(TY)はオーチャードグラス(OG)と比較して嗜好性ならびに栄養価が高いことから、北海道ではその栽培面積が急速に拡大した。しかし従来からTYは放牧利用に適さない草種とされ、その放牧利用術は確立していない。そこでTYの生育ならびに栄養特性を合理的に活用した集約的放牧利用技術を確立して、高増体の肥育素牛を省力・低コストで生産することを目的とした。

8.試験研究方法
 北農試場内において一連の試験を行った。①放牧利用5年目のTY「ホクシュウ」とOG「キタミドリ」の単播草地の植生を調査した。②TY早措草地をN施肥量と、その配分を変えて1ヵ月毎に刈り取った。③TYとパーズフットトレフォイル(BF)、TYとアルファルファ(AL)の混播草地(各2.4ha)、OG、ペレニアルライグラス(PR)の混播草地(バッファー草地、2.2ha)にアンガス(去勢、雌)またはホルスタイン(去勢)を用いて放牧試験を5年間行った(放牧開始6月齢、各年度の供試頭数32〜39頭)。放牧方法は短期輪換放牧を行い、春の余剰草は刈取り、低水分サイレージ貯蔵し、夏期以降、供試牛に給与する平地型放牧システムを構築した。さらにTY草地の放牧利用の適用範囲を拡大するために山地型放牧システムの構築およびそのための解析的放牧試験を行った。

9.結果の概要・要約
1)TY草地の生育特性の解明
 ①放牧利用5年目のOG草地は株化して低密度草地になったが、TY草地は株化せず、OG草地より雑草
  の侵入も少なかった(表1)。
 ②春期の刈取り開始時期が遅くなるほど次の再生量が低下した。秋期量点型施肥によって季節生産性
  の変動が緩和された。
2)平地型放牧利用システムの確立
 ①6月上旬に春の余剰草を刈取り・貯蔵すると、DMD70%以上のサイレージが得られた。
 ②TYの生長速度、放牧利用率および放牧牛群の推定採食量から、放牧圧が6頭/haの条件における春
  の余剰草の適正刈取面積比率は57%と試算された。
 ③そのサイレージを放牧牛のDGが低下する夏期以降に併給するこによって、放牧草が過不足なく利用
  することが可能であった。この放牧方式(平地型システム)における増体量は刈取・貯蔵せずに短期輪換
  放牧した場合と比較して高かった(表2)。
 ④本放牧システムでホルスタイン去勢牛(放牧開始6月齢のDGは0.95kgと、既往の放牧試験成績より明ら
  かに高い数値が得られた(図1,表3)。
3)山地型放牧利用システムの確立
 OGと異なり、TYは出穣茎の採食が良好であり、6〜7月の出穂・開花したTY放牧草の消化率は低下したにもかかわらず、放牧牛のDCは低下しなかった。このTYの特性を活用して採草可能面積比率の低い山地を対象としたTY型草地の放牧利用システムを構築した。すなわち傾斜地にTY放牧専用草地を設け(全草地面積の70%)、夏期以降、放牧草が不足した時点に牛群の一部の頭数(全頭数の60%)を採草が可能なバッファー草地(全草地面積の30%)に移して、春期に刈取・貯蔵したサイレージを併給しながら放牧を行った結果、TY放牧専用草地及ぴバッファー草地いずれ高い増体量が得られた(図1、表3)。
4)TY草地を放牧利用した場合と採草利用した場合の生産力比較
 同一施肥条件のTY型草地を放牧利用した場合の1次生産力は採草利用した場合より高いことが推測され(表4)、また放牧利用を続けても植生が採草利用より悪化することはなかった(表5)。

10.成果の具体的数字
表1  利用5年目のチモシー草地とオーチャードグラス草地の植生の変化(被度%)
  植被率 チモシー オーチ
ャード
グラス
シロ
クローバ
KB シバムギ タンポポ エゾノ
ギシギシ
チモシー草地 96 92 1 5 3 6 1 1
オーチャードグラス草地 87 1 57 23 32 1 2 9
KB:ケンタッキーブルーグラス

図  地形条件に対応したチモシー草地の合理的放牧システム
*:禁牧面積比率は地域によって異なり、次式から算出
Y=(X1*X2-X3*X4*X5*X6)/(X1*X2)*100
Y;適正刈り取面積、X1;春期の刈取り適期の余剰草量、X2;放牧地の利用率
X3;放牧開始から刈取り日までの日数、X4;放牧頭数、X5;放牧牛の体重、X6;放牧牛の体重当たりの採食量

表2  春期余剰草を刈取り、サイレージにして放牧牛に夏期以降、給与した区と無刈取・短期輪換放牧した区の増体量の比較
  放牧開始
体重
(kg)
日増体量(kg/日) 増体重
(kg/ha)
牧養力
(day/500kg)
春期 夏期 秋期 全期間
サイレージ+輪換放牧区 200 0.91 0.69 0.82 0.76 734 509
輪換放牧区 190 0.94 0.29 0.86 0.65 614 477

表3  合理的放牧システムにおける家畜生産性(ホルスタイン去勢牛;放牧開始6月齢)
システム 利用草地 面積比
(%)
牧養力
(CD)
増体量
(kg/ha)
日増体量
(kg)
推定採食量
(t/ha)
推定可消化
乾物採食量
(t/ha)
平地型 チモシー草地 100 532 758 0.93 8.01 5.66
山地型 チモシー草地 70 522 785 0.94 7.87 5.10
バッファー草地 30 585 1008 0.95 10.04 7.51
草地全体 100 541 852 0.95 8.52 5.82

表4  採草利用したチモシー草地の生産性(5年間の平均)
収量(DMトン/ha) 司消化乾物収量
(DMトン/ha)
収穫率
(%)
乾物給与可能量
(DMトン/ha)
可消化乾物
給与可能量
(DMトン/ha)
7.62 5.20 83 6.30 4.30

表5  利用法の違いがチモシー草地の現存量と植生に及ぼす影響(利用5年目の6月上旬調査)
  現存量
(DMkg/10a)
TYの重量割合
(DM%)
被度(%)
TY KB WC ハルガヤ タンポポ
放牧草地 314 70 86 24 28 4 2
採草地 243 71 74 28 29 4 7
TY:チモシー、KB:ケンタッキーブルーグラス、WC:シロクローバ

11.成果の活用面と留意点
①高増体が必要な肥育素牛、乳用育成牛のための放牧利用技術として有効である。
②TYの品種はホクシュウを用いる。バッファー草地の混播草種にPRを使用したが、PRの生育が困難な地域ではPRの生育並びに栄養持性と類似した草種を混播草種に選定する。TYに混播するWCの品種はラジノ型は使用しない。

12.残された問題点とその対応
①夏期間のTYの栄養生産量の低下を改善するためにALやBFの導入を試みたが、これらのマメ科牧草の維持が難しかったので、今後、両草種の維持技術を確立する必要がある。