成績概要書(作成 平成5年1月)
1.課題の分類  家草合同 家畜飼養 放牧 天北農試
          北海道
2.課題名  季節繁殖・集約放牧組合せにおける乳牛の飼養技術とそのモデル化
3.予算区分  道費
4.研究期間  (平成2〜4年度)
5.担当  天北農試研究部草地飼料科
6.協力・分担関係  なし

7.目的
 北海道天北地城におけるペレニアルライグラス車地を利用した季節繁殖・果約放牧組合せ乳牛飼養技術について精査・解析し、ゆとりのある豊かな酪良経営の確立を図る。

8.試験研究方法
 現地における季節繁殖・集約放牧酪農家1戸を対象にして育成牛および乳牛の飼養技術およびその成果並びに労動時間について精査・解析するとともに,通年繁殖・通年貯蔵粗飼科給与酪農家2戸および通年繁殖・放牧組合せ酪農家1戸について労騎時間を慨査した。

9.結果の概要・要約
(1)経営概況
 季節繁殖・集約放牧酪農家の草地面積は52.5ha、経童牛頭数は37.3頭、出荷乳量は301tであり、対照の概査酪農家とほぼ同程度の経営規模であった。
(2)集約放牧技術
 季節繁殖・集約放牧酪農家における放牧地および兼用地の実利用面積は、それぞれ18.7、13.2haであり、牧区数はそれぞれ29.14であった.放牧地はすべてペレニアルライグラス主体草地であり、経産牛における年間利用回数は12.7回、休枚日数は14日、滞牧日数は0.5日であった。入牧時草丈は22cmであり、年間掃除刈回数は1.5回であった。
(3)早期放牧育成とその成果
 生後3〜4か月で3週間の馴致をしたのち6月に放牧を開始し、濃厚飼料無給与で育成した。冬期間は牧草サイレージ主体で屋外で飼育した。育成2年目の放牧期も濃厚飼料は無給与とした。1年目の冬期間に育成牛の体重はホル協下限値を下回ったが、育成2年目の放牧期に著しく増体し標準値に達した(図1)。繁殖成績は良好であり、初産の乳量は宗谷管内平均に比べて著しく多かった(表1)。
(4)乳牛の季節繁殖・集約放牧組合せ飼養とその成果
 分娩時期を1〜3月に果中し。4月下旬〜5月上旬に放牧を開始し11月上旬まで昼夜放牧した。放牧草の年間摂取量は乾物で2.57t,TDNで1.81tであり、全粗飼料に占める割合は乾物で52%、TDNで57%、また全飼料に占める割合はそれぞれ35%、36%であった。濃厚飼料の給与量は乾物で2.3tであり、乳量は宗谷管内平均に比べて著しく多く、牛乳の脂肪率は僅かに低かったが無脂固形分率および蛋白質率では差異がなく、体細胞数は少なかった。繁殖成績は良好であり、疾病の発症率は低かった(表2)。
(5)労働時間
 基幹従事者1人当たり、および1戸当たりの年間労動時間は、季節繁殖・集約放牧酪農家が通年繁殖・通年貯蔵粗飼料給与酪農家に比べて少なかった(表3)。
(6)経営成果
 放牧草、乾草および牧草サイレージのTDN1㎏当たり生産費は、それぞれ17.9、45.3、44.2円と低く、所得率は49.6%、所得率は1,532万円と高く、経営成果は極めて良好であった。
(7)以上の成果を基にして集約放牧技術、早期放牧育成技術および乳牛の季節繁殖・集約放牧組合せ飼養技術のモデルを作成した(表4)。
 以上、ペレニアルライグラス主体草地を利用した早期放牧育成および乳牛の季節酪殖・集約放牧組合せ飼養はゆとりのある豊かな酪農経営を達成するために極めて効果的な技術であることが認められた。

10.成果の具体的数字

表1  早期放牧育成牛の繁殖性および初産乳量
  最終授精月齢 受胎要授精回数 305日間乳量
平成2年 16 1.6 7,168
3年 16 1.1 7,658
4年 17 1.1 -
平均 16 1.3 7,378
(宗谷管内平均、乳検成績) 6,416

表2  季節繁殖・集約放牧経産牛の飼養成績(平成3年)
飼料給与量(乾物、kg/年) 乳量(kg) 分娩間隔(日)
放牧草 乾草 牧草サイレージ 濃厚飼料
2,572 1,653 752 2,306 8,788 372
(宗谷管内平均、乳検成績) 7,209 400

表3  酪農家の年間労働時間(平成3年)
  1人当たり 1戸当たり
合計 経産牛飼養 子牛・育成牛飼養 粗飼料生産 その他 合計
季節繁殖・集約放牧 1777.6 3426.1 466.3 500.5 56.5 4449.4
通年繁殖・通年貯蔵粗飼料 2684.6 4485.3 714.8 353.8 133.0 5686.9

表4  季節繁殖・集約放牧組合せにおける経産牛の飼料給与モデル
項目\月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 計・平均
体重(kg) 640 655 565 565 565 565 575 585 595 605 615 625  
乳量(kg) 0 0 31.2 32.4 33.3 33.5 32.7 30.9 27.8 23.9 19 13.4 8,500
乳脂率(%) - - 3.64 3.70 3.53 3.5 3.56 3.62 3.61 3.85 4.07 4.20 3.68
飼料
摂取量
(乾物kg)
放牧草 0 0 0 0 8.2 14.0 14.0 13.0 12.0 10.0 2.0 0 2,241
乾草 11.4 9.0 1.0 1.0 1.0 1.5 1.5 1.5 1.5 1.5 1.0 2.0 1,019
牧草サイレージ 0 1.0 9.0 9.0 3.7 0 0 0 0 0 8.5 10.0 1,257
ビートパルプ 0 0 1.5 1.5 2.5 1.5 1.5 1.5 1.5 1.5 1.5 1.5 490
配合飼料(CP14%) 0 1.0 0 0 6.0 5.0 5.0 5.0 5.0 5.0 3.5 1.5 1,131
配合飼料(CP18%) 0 0 8.0 9.0 0 0 0 0 0 0 0 0 518
合計 11.4 11.0 19.5 20.5 21.4 22.0 22.0 21.0 20.0 18.0 16.5 15.0 6,656
養分
充足率
(%)
粗蛋白質 121 126 108 110 123 130 132 131 137 136 120 121 125
TDN 101 101 93 95 100 100 101 100 103 101 103 105 100
注1)乾草の乾物量を牧草サイレロジで給与してもよい。
  2)本モデルのTDN自給率は63.1%である。
  3)5月の放牧時には繊維成分が不足しがちなので、その補給に留意する。

11.成果の活用面と留意点
(1)ペレニアルライグラス主体放牧草地を利用する酪農家に適用できる。
(2)早期放牧育成においては特に放牧馴致を十分に行う。

12.残された問題とその対応
(1)通年繁殖における放牧を主体とする高泌乳牛飼美技術の確立
(2)早期放牧育成における発育基準の設定
(3)放牧主体飼養における低コスト生産・省力管理のための畜舎・搾乳システムの検討