1.課題の分類 畜産 肉用牛 栄養飼料 北農試 北海道 家畜・草地合同 2.研究課題名 ルーメンバランスおよび血液性状からみたアンモニア処理わらの飼料特性 (低・未利用資源の活用による肉用牛生産システムの確立 ④低・ 未利用資源の高度活用技術の開発) 3.予算区分 経常 4.研究期間 (平成4年〜平成6年) 5.担当 北農試 企画連絡室 総研第3チーム 6.協力・分担 なし |
7.目的
新アンモニア処理システム「ほくのう・S」で調製したアンモニア処理わらを粗飼料源とした給与方法を確立するため、第一胃液性状および血液性状から検討を加え、その飼料特性を明らかにする。
8.試験研究方法
【アンモニア処理材料の調製】
ロールペール(直径120㎝以上)にした麦稈・稲わらを、ラッピング後に液化アンモニアを注入して調製した。アンモニア注入量は乾物当たり3%で、一部、比較のために注入量を変えた。なお、処理飼料は、処理後2ヶ月以上経過してから給与試験に供した。
【給与試験】
(1)アンモニア注入量・材料水分の異なるアンモニア処理麦稈および稲わらをコリデール種成めん羊に単
一給与した場合の第一胃液性状・血液性状に及ぼす影響を調べた。
(2)アンモニア処理わらと窒素質飼料(魚粉・大豆粕・フィッシュサイレージ・尿素)とエネルギー飼料(トウモ
ロコシ・大麦・小麦・ポテトデンプン粕・籾)並びにビートパルプを併給した場合のめん羊の第一胃液性状
・血液性状を調べた。サフォーク種育成めん羊では4ヶ月間の発育試験を行った。
(3)アンモニア処理麦稈および稲わらを粗飼料としてそれぞれ育成牛(褐毛和種・ホルスタイン去勢牛)、肥
育牛に4ヶ月以上にわたって給与し、その間の発育・増体並びに、第一胃液性状・血液性状を調べた。
9.結果の概要・要約
(1)アンモニア処理した麦稈、稲わらをそれぞれ単一給与した成めん羊の第一胃液のpH、VFAモル比、血
液性状は正常値の範囲内であったが、アンモニアの添加量が増えると第一胃液中のアンモニア濃度が
上昇した。
(2)アンモニア添加量が同じでも材料の水分が増えると水溶性アンモニア量が多くなり、血液中の尿素窒素
(BUN)濃度が上昇した。
(3)アンモニア処理わら単一給与しためん羊の血中アンモニア濃度は最大値で100〜200μg/dlと低く、異常
値ではなかった。
(4)アンモニア処理麦稈にエネルギー飼料とタンパク質飼料を併給することにより、処理麦稈の消化率や摂
取量並びに増体量が改善され、第一胃液性状、血液性状にも異常は認められなかった。
(5)アンモニア処理麦稈および稲わらを唯一の粗飼料源とした長期給与で育成牛・肥育牛は正常に発育・
増体し、第一胃液および血液性状にも異常は認められなかった。
以上の結果から、材料水分が15〜25%の3%アンモニア処理わらのめん年および育成牛に対する多給は、発育や第一胃発酵、血液性状に悪影響はなく、タンパク質飼料やエネルギー飼料の併給によりアンモニア処理わらを粗飼料源とした飼養が可能であると結論された。
10.結果の概要・要約
表1 小麦稈・稲わらおよぴ豆殻におけるアンモニア添加レベルによる第一胃液性状の変化
pH | NH3-N (mg/dl) |
総VFA量 (mM/dl) |
VFAモル比(%) | ||||||||
C2 | C3 | iC4 | nC4 | iC5 | nC5 | nC6 | |||||
無処理 | 小麦稈 | 6.6 | 4.9 | 7.4 | 75.0 | 17.6 | 0.5 | 5.9 | 0.5 | 0.4 | 0.1 |
稲わら | 7.0 | 4.7 | 6.3 | 74.1 | 18.1 | 0.5 | 6.0 | 0.9 | 0.3 | 0.1 | |
稲わら+尿素 | 7.2 | 34.8 | 7.1 | 72.4 | 18.8 | 0.6 | 6.3 | 0.8 | 0.7 | 0.4 | |
小豆殻 | 6.9 | 4.4 | 6.6 | 76.5 | 15.6 | 0.7 | 5.5 | 1.0 | 0.5 | 0.2 | |
1%NH3処理 | 小麦稈 | 6.6 | 14.6 | 9.0 | 77.4 | 16.6 | 0.4 | 4.7 | 0.4 | 0.4 | 0.1 |
2%NH3処理 | 小麦稈 | 6.7 | 21.8 | 8.0 | 75.9 | 18.0 | 0.3 | 5.0 | 0.3 | 0.4 | 0.1 |
3%NH3処理 | 小麦稈 | 6.6 | 24.0 | 8.6 | 77.3 | 16.7 | 0.3 | 5.1 | 0.3 | 0.3 | 0.2 |
稲わら | 7.2 | 30.7 | 7.5 | 73.8 | 19.4 | 0.7 | 4.5 | 0.9 | 0.6 | 0.1 | |
小豆殻 | 6.9 | 20.1 | 6.8 | 77.0 | 15.2 | 0.9 | 5.2 | 0.8 | 0.6 | 0.3 |
表2 アンモニア処理小麦稈摂取における第一胃液性状に及ぼす併給エネルギー資飼料の影響
(サフォーク種めん羊)
pH | NH3-N (mg/dl) |
総VFA量 (mM/dl) |
VFAモル比(%) | |||||
C2 | C3 | C4(i+n) | C5(i+n) | C6 | ||||
乾草区 | 6.8 | 18.1 | 10.2 | 75.5 | 15.6 | 7.7 | 1.0 | 0.2 |
トウモロコシ区 | 6.8 | 20.2 | 11.0 | 75.4 | 15.2 | 8.3 | 1.0 | 0.1 |
トウモロコシ区+魚粉 | 6.7 | 22.3 | 11.8 | 74.8 | 16.1 | 8.2 | 0.8 | 0.1 |
ビートパルプ区 | 6.8 | 23.4 | 12.1 | 75.0 | 16.2 | 7.9 | 0.8 | 0.1 |
ポテト粕区 | 6.9 | 21.0 | 11.5 | 75.9 | 15.9 | 7.1 | 0.9 | 0.2 |
表3 褐毛和種育成牛の血液成分に及ぼすアンモニア処理わらの影響
BUN | 総 蛋白質 |
グル コース |
T-コレス テロール |
TG | NEFA | β- リボ蛋白 |
Na | K | Ca | I-P | Mg | Cl | ||
(mg/dl) | (g/dl) | ・・・・(mg/dl)・・・・ | (μEq/l) | (mg/dl) | ・・(mEq/l)・・ | ・・(mg/dl)・・ | (mEq/l) | |||||||
稲 わ ら 区 |
給与開始時 | 18.1 | 6.4 | 76 | 85 | 11 | 165 | 52 | 139 | 4.6 | 9.7 | 7.8 | 2.3 | 98 |
給与100日後 | 20.4 | 6.4 | 81 | 94 | 10 | 93 | 70 | 141 | 4.6 | 10.0 | 8.0 | 2.3 | 102 | |
麦 稈 区 |
給与開始時 | 10.8 | 6.4 | 76 | 78 | 12 | 141 | 47 | 139 | 4.6 | 9.6 | 7.8 | 2.0 | 96 |
給与100日後 | 14.8 | 6.0 | 84 | 89 | 10 | 130 | 52 | 140 | 4.6 | 10.1 | 7.3 | 2.0 | 99 |
注) | 稲わら | (アンモニア3%添加) | : | 水分含量57%、 | 生わらからのN摂取量154±28(g/日) |
麦稈 | ( 〃 ) | : | 〃 23%、 | 〃 67±15(g/日) |
表4 麦稈および稲わらの摂取量に及ぼすタンパク質飼料の効果(g/日/頭)
試験区 | 小麦稈 | えん麦稈 | 稲わら | |
無処理わら | +尿素 | 441 | 485 | 486 |
3%NH3処理わら | +尿素 | 528 | 600* | 557 |
+フィッシュサイレージ | 586* | 676* | 589 | |
+魚粉(FM) | 604* | 657* | 564 | |
+大豆粕(SBM) | 597* | 649* | 573 |
11.成果の活用面と留意点
①アンモニア処理わらはめん羊、育成牛、肥育牛の粗飼料源として活用できる。
②水分の多いアンモニア処理わらの給与に際してはNの過剰摂取に留意する。
③牧草・青刈り作物へのアンモニア処理は、当面行わないこととする。
12.残された問題とその対応
①アンモニア処理表稈・稲わらの肉用種繁殖雌牛への給与の影響について未解明である。