成績概要書(作成 平成5年1月)
1.課題の分類  総合農業 経営 3-4-6
          北海道
2.研究課題名  加工用だいこん導入による農業所得の安定化機能(加工用野菜の経営的評価と産地形成)
3.予算区分  道費
4.研究期間  平成2年〜平成4年
5.担当  中央農試経営部経営科
6.協力・分担関係  なし

7.目的
 加工用野菜の経済的特徴の一つである価格の安定性が野菜の価格低下時における農業所得の低下を緩和する機能を有すること、また加工用だいこんの省力性による所得形成を検討し、加工用野菜の導入を促進するための資料とする。

8.試験研究方法
 1)道内の青果加工場の特徴
 2)加工用だいこんの経営的評価

9.結果の概要・要約
1)道内の青果加工場の特徴
 ①青果加工場は道内の各地域に分布しているが、製品出荷額をみると全道の出荷額565千万円の70%
  を網走・十勝の2地区が占め、製品出荷額では地域的な集中がみられる。
  青果加工で工場数が最も多いのは漬物業であり、零細規模の工場が圧倒的である。しかし調査対象
  企業は、零細工場ではあるが、府県の大手卸売や大手漬物メーカーを経由しての流通であり、製品
  の販路は安定している。
 ②本道の遺物業においては良質原料の安定的供給を要望しており、増産を計画している企業も認めら
  れる。しかし、加工企業においては原料供給の不安定性から工場の操業を一時的に停止する場合も
  ある。原料集荷に対する加工企業と原料供給者との間の十分な意志の疎通が求められる。
2)加工用だいこんの経営的評価
 ①秋取りの加工用だいこんの10a当り粗所得は、小麦・小豆を上回り、しかも、所得の変動は少なく、最
  も安定している。
  はくさいを基幹とする1Oha規模の野菜作経営においては、はくさいの価格変動により農業所得が大き
  く変動する。しかし、加工用だいこんを約2ha作付すると、はくさいの価格低下年ににおいても550万円
  以上の農業所得の確保が可能であり、加工用だいこんは基幹野菜の所得減少を緩和する役割を果
  している。
 ②加工用だいこんの10a当り粗所得は野菜の後作としての1O月取りはくさいの所得を上回り、また土
  地利用上でもはくさい・キャベツの年2作栽培よりも合理的である。したがって、はくさいを基幹作目と
  する野菜作経営への加工用だいこんの導入は積極的な意義を有している。
 ③加工用だいこんが基幹作目として定着する条件は、加工用だいこんの有する省力性によって生食用
  だいこん以上の部門所得を形成することである。マルチ栽培における加工用だいこんの10a当り収
  量を5,500本とする。また加工用だいこんの製品歩留まりは生食用よりも高くなり、これが1O%程高い
  場合を想定すると、生食用だいこんの市場価格が㎏当り80円以下になると、加工用の部門所得が生
  食用を上回ることになる。加工用だいこんは生食用よりも省力的(主に出荷作業)で、補完的な雇用労
  働力の利用による年2作栽培では、作付規模、所得の両面で経営の基幹作目になり得る条件を有し
  ている。

10.主要成果の具体的数字
表1  野菜価格の変化と農業所得(千円、ha)
はくさい価格 高価格年 低価格年
部門粗所得 はくさい
加工用大根
その他の作物
4,156
1,801
5,501
2,060
1,770
5,366
合  計 11,458 9,196
農業所得 7,848 5,586
耕地面積 10.3 10.3
注1)高価格年:昭62年・平3年、低価格年:平元年・2年。
  2)加工用大根(2.2ha)は、はくさい・キャベツ・小麦の後作。
  3)はくさい、(6〜7月取り)を基幹とする野菜作経営の実績を修正し作成。

表2  秋はくさいと加工用大根の10a当り所得
  秋はくさい 加工用大根
粗収入 出荷量
価  格
収  入
4,450
42.6
189,570
4,901
19.7
96,664
費用 生産資材費
流通費用
26,537
97,451
10,971
-
合  計 123,988 10,971
差引粗所得 65,582 85,693
注)秋はくさいの出荷時期は10月。

表3  加工用・生食用だいこんの10a当り粗所得と部門粗所得(試算、マルチ栽培、千円)
  加工用 生食用
kg当り価格
出荷量
粗収入
25
5,500
137.5
55
4,950
272.3
70
4,950
346.5
75
4,950
371.3
80
4,950
396.0
費用 生産資材費
雇用労働費
流通費用
28.4
8.2
-
35.9
17.4
116.6
35.9
17.4
124.7
35.9
17.4
127.5
35.9
17.4
130.2
費用合計 36.6 169.9 178.1 180.8 183.5
粗所得 100.9 102.4 168.4 190.5 212.5
作付面積(ha)
部門粗所得
2.94
2,967
1.38
1,412
1.38
2,325
1.38
2,629
1.38
2,932
注1)生食用の10a当り出荷量は加工用出荷の90%の場合。
  2)加工用のマルチ資材は会社供与。

11.成果の活用面と留意点
 野菜作経営での所得安定部門として、また、地域の生食用だいこんの所得水準との比較から加工用だいこん導入を検討する場合の参考とする。

12.残された問題とその対応
 他の加工用野菜の収益性の検討