成績概要書(作成 平成5年1月)
1.課題の分類  総合農業 作業技術 移植、野菜-2
          北海道
2.研究課題名  野菜のセル成型苗生産供給システムと経済評価
3.予算区分  道単
4.研究期間  (平2年〜4年)
5.担当  中央農試経営部経営科 農業機械部機械科 園芸部野菜花き一科
6.協力・分担関係  なし

7.目的
 野菜生産の省力化を進めるため、セル成型苗の生産技術と経済性について検討しセル成型苗の導入上の参考とする。

8.試験研究方法
1)土詰播種機6機種(吸引、目皿、ロール)と移植機4機種(自動2、半自動2)の特性調査
2)播種、育苗、定植に関する試験成績の体系化及びシステムの異なる苗質の比較
3)キャベツ作経営を対象とする経営実態調査およぴモデルプラントの構築と経済試算

9.結果の概要・要約
1)機械化技術
 (1)セル苗を対象とした全自動土詰播種機の作業人員は3人で、播種機構と使用種子の違いにより処
  理能力が異なった。吸引式で裸種子を使用する機種は毎時77〜147箱、コート種子の目皿式は
  70〜155箱、ロール式は196箱の能率を示した。土詰部、覆土潅水部は共通した機構を有し用土は専
  用土を用いる。使用トレイは1トレイ当たり128〜220セルで、1粒播の割合が94〜100%であった。
 (2)セル成型苗移植機の能力は、全自動式1条植えで毎時3〜4a、半自動式乗用型2条植で毎時16aの
  能力を示した。全自動式は専用苗を用いるが、半自動式はセルの大きさが25〜50㎜まで可能で、弱
  小苗や葉部と土付部の重量バランスが悪いと転倒苗となる。また、セルの引抜が容易で根鉢の発育
  が十分な苗は作業能率が高まり、活着が良好であった。
2)栽培技術
 (1)育苗条件の違いによる苗生育の差を検討するため、標準育苗区、管理不良区(徒長育苗区、直置
  育苗区)を設けた。標準育苗区に比べ、管理不良区の苗は草丈が高く、薬は細長く、葉色も薄く、根
  重/全重比が低かった(図1)。また直置育苗区では根がトレイから地下に伸び、根鉢の形成が悪かっ
  た。さらに圃場生育、収量においても管理不良区は劣った。
 (2)6システムのセル成型苗を調査した。アンケートではトレイ、用土、育苗管理が各社で異なっており、
  これらが苗の形態(表1)やその後の生育経過に影響したと考えられ、外見上大きな苗が必ずしも良苗
  とは言えないことが示唆された。
3)経済評価
 (1)セル成型苗の生産費はポリポットやペーパーポット苗と同程度の水準であり、生産費は既存の苗と
  遜色がない。セル成型苗の播種作業は省力化されているが管理労働を含めた労働時間は既存苗と
  同等である。セル成型苗の機械利用による移植作業時間は、ポリポット手移植の48%に節減される。
  このため移植作業費用は手移植の費用を下回る。
 (2)1OOha規模のキャベツ作団地を想定して、セル成型苗を供給するモデルプラントの経済試算を行
  なった。その結果、苗1本当り生産費用は苗供給を各時期に平準化できるプラント:7.1O円、供給が特
  定時期に集中するプラント:9.19円であり、生産費はプラントの固定費に規定されることが認められた。
  苗の供給が特定時期に集中する場合、小規模プラントの生産費は6.97円であり、費用形成面からは
  固定費負担の少ない小規模プラントが有であると考えられた。

10.成果の具体的数字
表1  土詰播種機と移植機の特徴及び能率
土詰播種機 移植機
システム 播種部 鎮圧 灌水 セル数
(本/箱)
能率
(箱/h)
方式 移植 苗形状 能率
(a/h)
毎時株数(
株/h)
KU 目皿 突起ロール シャワー1本 128・242 155 IS 自動 専用苗 4.3 2,687
IS 目皿 ダブルローラ シャワー2本 144・200 70 HY 自動 セル苗 3.0 1,668
HY 吸引 突起2列 シャワー4本 128・200 147 KU 半自動 セル苗 3.7 1,850
DI 吸引 突起全面 ノズル6個 200 77 HY 半自動 セル苗 16.1 6713
(2,238)
IW 吸引 ダブルローラ ノズル2個 200 110          
KA ロール 突起1列 手動 220 196          

図1  育苗管理の良否と苗生育(平成4年度)
注)標準育苗区:エアーブルーニング設置、標準管理
 徒長育苗区:エアーブルーニング設置、高夜温、多灌水
 直置育苗区:地面設置、多灌水
 耕種概要:200セルトレイ、市販用土使用、キャベツ「アーリーボール」6月2日播種

表2  供試育苗システムの苗質及び初期生育(平成4年度)
供試システム 草丈
(cm)
胚軸長
(cm)
葉数 葉長
(cm)
GM値 生草重
(g)
T/R 初期生育
葉長(cm) 葉数
A 8.5 1.6 1.6 6.8 42.7 1.52 3.0 18.5 8.1
B 7.5 1.3 2.0 5.8 41.9 1.36 7.0 19.7 8.3
C 10.3 1.4 2.2 8.0 34.0 1.52 7.0 17.7 8.5
D 9.7 1.7 2.1 7.2 29.3 1.34 2.5 14.3 7.6
E 12.8 1.6 2.2 10.1 30.2 2.52 4.0 16.3 7.6
F 6.6 1.0 1.5 5.3 29.7 0.50 1.0 11.8 6.2
注)供試作物(品種):キャベツ「アーリーボール」、6月1日(Aは6月4日)播種、
 各システムの育苗場所にて育苗後、6月23日中央農試に搬入、
 育苗ハウス内で管理し、6月26日苗質調査、GM値:ミノルタSPAD502による最大葉の葉色測定値、
 初期生育:7月15日調査

表3  播種パターンとプラント規模を相違させたキャベツ苗1本当り費用試算(千円、円)
  平準型 集中型
大規模プラント 大規模プラント 小規模プラント



機械施設償却費 13,660(7,011) 23,976(12,350) 1,952
借入金利子・内部金利 7,504(3,984) 13,051(6,988) 499
修理費・粗税公課 3,312(2,858) 5,760(4,979) 427
労働費 3,125 3,125 1,125






固定費 5.52(3.40) 9.08(5.49) 3.23
臨時雇用(播種) 0.23 0.23 0.27
種子・用土・トレイ費 2.95 2.95 2.95
農薬・液肥費 0.05 0.05 0.05
ビニール・電気・水道料 0.47 0.47 0.47
合計 9.22(7.10) 12.88(9.19) 6.97
注1)括弧内は50%の補助金の場合。
  2)平準型は播種時期が各月とも平準化し、集中型は特定月に全体の50%が集中している場合。
  3)大規模プラントは、キャベツ作付面積100ha、小規模は25haのプラント。

11.成果の活用面と留意点
 1)セル成型育苗及ぴ移植システムの導入・利用上の資料とする。
 2)野菜生産の状況に対応したセル成型育苗システム導入時の施設計画の参考とする。

12.残された問題とその対応
 1)各育苗システムに対応した自動移植機(多条化)の開発。
 2)定植時の圃場条件の基準設定については、さらに検討を要する。
 3)セル成型苗利用による省力的野菜生産技術体系の評価。