成績概要書(作成 平成5年1月)
1.課題の分類  総合農業 経営 3-4-13
          北海道 経営
          北海道 家草合同
2.研究課題名  新アンモニア処理システムの経営的評価
          (低・未利用資源の活用による肉用牛生産システムの確立
           ③低・未利用資源の畜産的利用の評価)
3.予算区分  経常
4.研究期間  (平成2年〜4年)
5.担当  北農試・企画連絡室・総研3
6.協力・分担関係  なし

7.目的
 低コス畜産を実現する方策の1つである低・未利用資源を活用した生産方式を明らかにするために、①わら類の資源量②肉用牛経営における新アンモニア処理システムの評価③酪農経営における新アンモニア処理システ払の評価④新アンモニア処理システムの展開条件⑤低・未利用責源を活用した肉用牛生産方式モデルを検討した。

8.試験研究方法
 ①は統計資料、⑤は統計資料及ぴいくつかの現地調査に基づき検討した。②と③は新アンモニア処理システムの先進的音及地域で畑作限界地に位置する紋別郡白滝村と畑作専業地帯である帯広市川西地区に削ナる裏側調査により分析し、④は水田地帯を含むいくつかの地域の実態調査等に基づき検討した。

9.結果の概要・要約
①北海道でアンモニア処理の対象になり得るわら類の資源量は、低利用の稲わら39万tと既に積極的に
 利用されている麦わら35万tであるが(表1)、稲わらの高度利用のためには機械化稲わら収集システム
 の確立が必要であり、麦わらの飼料利用は将来的には敷料利用との競合も予想される。
②新アンモニア処理システムの畑作地帯の肉用牛経営における経営的効果は繁殖牛を導入した畑内
 経営では、処理わらが繁殖牛の飼料となり、低コスト肉用牛生産(表2,3)や集約作物の導入等に効果を
 発揮し、また乳用種一貫生産を行う農協営肥育センターでは処理わらが肥育牛の飼料となり、堆肥と
 麦わらの交換等を媒介に、地域の畑作農業の生産力向上に寄与していることが明らかになった。
③同じく畑作地帯の酪農経営においては、処理わらが育成・乾乳牛の飼料となり、新アンモニア処理シス
 テムの導入が、購入乾草を代替し、不安定な牧草生産を補完し、また繊維量の確保を通じて自給粗飼
 料の高品質化(牧草の早刈等)や育成牛飼養頭散の増加に結びついていることが明らかになった。
④新アンモニア処理システムの展開のために検討されるべき条件として、麦わらの密封方式と稲わらの
 収集システムがある。麦わらの密封方式の選択は、処理わらの費用構造の分析から処理規模に規定
 されることが明らかになった。稲わらの機械化収集のための機械(自走式ロールベーラ)は既に開発され、
 その収集システムは堆肥用稲わら収集集団で実用化されている。
⑤北海道における地域別肉用牛生産方式は、道南・道央・道北では田肉型の肉用種繁殖が多く、中でも
 空知・上川では肥育・一貫生産の増加がみられる。道東の網走・十勝では畑肉型の肉用種繁殖が多く、
 更に網走では酪肉型の肉用種繁殖、十勝では肉専型で多様な飼養形態が増加している。釧路・根室
 では酪肉型の肉用種繁殖の増加がみられ、従来からの乳用種哺育育成は大幅に減少した。処理わら
 に依存した肉用牛生産方式のモデルとして、田肉型の肉用種繁殖畑肉型の肉用種繁殖(畑面積規模
 の大小に基づき2方式)、畑作地帯の肉専型の乳用種一貫の4方式を提示した(表4)。

10.主要成果の具体的数字
表1  わらの賦存量(1990)
  水稲 麦類
北海道 都府県 北海道 都府県
作付面積(万ha) 15 191 13 21
単収(kg/10a) 540 507 411 329
殻実収穫量(万t) 79 967 52 69
茎葉賦存量(万t) 93 950 69 72
低度利用量(万t) 39 458 17 -
高度利用量(万t) 29 488 35 -
注)麦類:小麦・大麦・えん麦の計
 低度利用:焼却・鋤込み
 高度利用:堆肥・飼料・敷料

表2  アンモニア処理麦わらのコストa)
わら 60万円
アンモニア 40
ビニール 10
わら収集 26.31
機械燃料労働 8.92.4714.94
費用合計 145.31


原物1kg当たり費用
( 〃 わら代無し)
TDN1kg当たり費用
( 〃 わら代無し)
:21円b)
:11
:55
:30
a)ロールベール(300kg)230ロールのスタック方式(1989年)を実施した経営の事例。
b)同程度の流通乾草40円/kg

表3  子牛コスト(1989)a)
購入飼料 210万円
種付け 80
診療・衛生 40
登録 20
肥料 27
修理 10
水動光熱 28.5
市場手数料 70
共済 45
アンモニア 40
ビニール 10
減価焼却 303.4
┏機械
┃建物
┗家畜
74.03
68.37
161.0
労働 149.5
共済受取 ▲22.5
費用合計 994.9
┏子牛1頭当たり費用
┃(同全国平均費用合計
┗子牛1頭当たり販売価格
:21.2万円
:40.0)
:43.4
a)表2と同じ経営について、繁殖牛52頭、分娩間隔12.1ヶ月、事故子牛5頭、育成子牛47頭として試算

表4  低・未利用資源を活用した肉用牛生産方式モデル(1992)
地帯 経営形態 経営土地面積 飼養形態 飼養頭数 飼養方式(主な粗飼料)
水田 田肉 水田5ha
(稲、野菜)
肉用種・繁殖
(+肥育)
繁殖牛5頭 夏山冬里
┏夏:放牧=公共草地
┗冬:処理稲わら
畑作 畑肉 畑10ha
(野菜、馬鈴薯)
肉用種・繁殖
(+肥育)
繁殖牛10頭 夏山冬里
┏夏:放牧=公共草地
┗冬:処理麦わら
畑肉 畑20〜30ha
(普通畑作物、飼料作物)
肉用種・繁殖
(+肥育)
繁殖牛
  10〜20頭
夏山冬里
┏夏:放牧=公共草地
┗冬:飼料作、処理稲わら
肉専 (草地15ha) 乳用種・一貫 肥育牛300頭 通年舎飼
 :処理麦わら(乾草)
注)ここでは、低・未利用資源としてわら類を利用するモデルを想定した。農地や家畜頭数の規模は、各生産方式の実態値に基づく。

11.成果の活用面と留意点
 アンモニア処理は、わらの飼料としての品質を高める技術であり、その経営的効果は経済性の向上と生産力の増大として集約されるが、この技術を導入する経営行動の論理は「地域や経営の資源を活かし生産力を高める」ことにある成果の活用に当たっては、ここで分析した経営的効果を画一的なものとして把えるのではなく、この技術のもつ経営行動論理に即して、多様な経営構造にふさわしい技術導入のあり方が検討されるべきである。

12.残された問題とその対応
 稲わらを対案にした場合の分析とアンモニア注入の実施主体に関する検討等の残された問題については、「営農合理化」課題で引き続き検討する。