1.課題の分類 総合農業 生産環境 土壌肥料 − 3-2-2 北海道 土肥・環 2.研究課題名 秋播小麦の窒素施肥改善による収量向上および子実タンパク質含有率制御 (道産小麦の品質向上試験) 3.予算区分 受託 4.研究期間 平成元年〜4年 5.担当 十勝農試 土壌肥料科 北見農試 土壌肥料科 中央農試 農産化学部 穀物利用科 6.協力・分担 なし |
7.目的
十勝、網走管内における秋播小麦の窒素施肥法、子実タンパク質含有率の変動を把握し、窒素施肥の合理化による収量向上および子実タンパク質含有率の制御法を検討する。
8.試験研究方法
1)現地実態調査
2)窒素施肥改善試験
(1)窒素の施肥量と施肥時期が子実収量と子実タンパク質含有率に及ぼす影響
(2)播種期と起生期の窒素施肥配分試験
3)低子実タンパク質含有率改善のための窒素施肥管理
(1)葉色値測定による子実タンパク質含有率の予測
(2)子実タンパク質含有率向上のための後期窒素追肥試験
9.結果の概要・要約
1)子実収量および子実タンパク質含有率の変動実態
(1)窒素施肥の実態はほぼ現行の施肥標準量と施肥配分に適合しており、播種期重点窒素施肥であった。
(2)子実収量、子実タンパク質含有率の変動はともに大きいが、土壌管理、栽培管理を良好にすることで変動を小さくする可能性が示唆された。
(3)子実タンパク質含有率は好適範囲(1O〜11%)に較ぺやや低かった。(表1)
(4)子実収量・子実タンパク質含有率ともに相関関係が強かったのは窒素吸収量であった。子実収量と子実タンパク質含有率との間に相関関係が認められないことから、窒素供給量をコントロールすることで子実収量の向上、子実タンパク含有率の制御を同時に達成することは可能と考えられた。
2〉窒素施肥改善による子実収量の向上
(1)起生期までの窒素施肥は子実収量と、止葉期以降の窒素施肥は千粒重および子実タンパク質含有率とより強い関係にあった。
(2〉播種期と起生期の窒素配分は、窒素利用効率を高める上から起生期の窒素施肥配分割合を高めた起生期重点施肥が効率的である(図1)。起生期重点施肥することでHⅠ(収穫指数)が高まり子実収量は向上し、子実タンパク質含有率もやや上昇する。さらに、穂数は減少傾向にあり、倒伏の危険性を軽減できる可能性が強い。(表2)
(3)起生期重点施肥は千粒重、容積重、子実タンパク質含有率など品質も向上させるが、成熟期の早い年次には成熟期が若干遅れる場合があった。
(4)十勝管内、網走管内の試験圃場でも、起生期重点施肥することで増収し、子実タンパク質含有率の変動幅が小さくなった。ただし、収量水準の高い圃場では、施肥配分処理間に明瞭な差異が認められない場合があった。
(5)起生期までの総窒素施肥量は当面現行施肥標準量程度とし、播種期施肥窒素はその3〜4割で、4㎏N/10a程度とする。
3〉低子実タンパク質含有率改善のための窒素施肥管理
(1)葉色診断による後期追肥(出穂期以降の追肥)の要否判定法が適用可能柱のは、起生期の窒素分施より後の時期に窒素追肥がなされていない圃場とする。
(2)葉色診断は、出稿揃期に第2葉(止葉直下葉)の中央部を測定する。
(3)葉緑素計の測定値が38〜40以下なら、年次、土壌に関係なく、高い確率で低子実タンパク質含有率になることが予想されるので後期追肥が必要であると判断できる。ただし、泥炭土のような後期窒素供給能が高い土壌は除外し、品種はチホクコムギに限定する。(図2)
(4)出穂期の窒素追肥は千粒重の増加による増収と、顕著な子実タンパク質含有率上昇効果が期待できる。(表3)
(5)尿素の葉面散布の適期は乳熟期まででありその効果は出穂期追肥と同様であった。(表4)
(6)後期窒素追肥量は、子実タンパク質含有率の上がりすぎや成熟期の遅れを考慮すると、多くても4kN/10aで生育が遅延している場合には2kgN/10aとする。
10.主要成果の具体的数字
表1 子実タンパク質含有率の分布割合(%)
地点 | 点数 | 子実タンパク質含有率 | ||||
〜9 | 9〜10 | 10〜11 | 11〜12 | 12〜 | ||
茅室町 | 157 | 22.3 | 29.3 | 23.6 | 19.1 | 5.7 |
十勝管内 | 313 | 8 | 27.5 | 42.2 | 19.5 | 2.9 |
網走管内 | 231 | 8.2 | 37.2 | 39.8 | 13.9 | 0.9 |
表2 起生期重点施肥による増収の要因と子実タンパク質含有率の変動
圃場 | 施肥N量 | 成熟期 | 子実重 (kg/10a) |
HI (%) |
桿長 (cm) |
穂数 (/㎡) |
一穂 粒数 (/穂) |
千粒重 (g) |
リットル 重 (g) |
子実 タンパク (%) |
地上部 N吸収量 (kg/10a) |
|
播 | 起 | |||||||||||
(kgN/10a) | ||||||||||||
十勝農試 | 0 | 12 | 7/23 | 493 | 41.2 | 83 | 540 | 24.6 | 37.9 | 764 | 10.3 | 10.8 |
4 | 8 | 7/20 | 494 | 38 | 83 | 590 | 22.5 | 37.7 | 756 | 9.5 | 9.8 | |
8 | 4 | 7/19 | 451 | 34.9 | 85 | 623 | 19.5 | 37.4 | 748 | 8.4 | 8.3 | |
12 | 0 | 7/19 | 397 | 32.2 | 86 | 584 | 18.5 | 37.1 | 745 | 8.2 | 7.2 | |
北見農試 | 0 | 12 | 7/28 | 640 | 42.8 | 87 | 603 | 24.9 | 42.7 | 782 | 10.8 | 14.9 |
4 | 8 | 7/27 | 628 | 40.9 | 90 | 643 | 23.4 | 42.1 | 787 | 10.6 | 14.7 | |
8 | 4 | 7/27 | 593 | 38.9 | 90 | 650 | 22.4 | 41.1 | 783 | 9.8 | 13.1 | |
12 | 0 | 7/27 | 580 | 38.2 | 91 | 659 | 22 | 40 | 779 | 9.3 | 12.3 |
図1 播種期,起生期のN施肥配分がN吸収量の推移に及ぼす影響(十勝農試.平2)
播種期-起生期(kgN/10a):□10-0 ▲7-3 △5-5 ●3-7 ○0-10
図2 葉色測定による子質タンパク質含有率の推定
表3 出穂期追肥の効果(十勝農試.平成1) 葉色測定値は36.3
施肥N量 | 成熟期 | 子実重 (kg/10a) |
穂数 (/㎡) |
一穂 粒数 (/穂) |
千粒重 (g) |
リットル 重 (g) |
子実 タンパク (%) |
N吸収量 (kg/10a) |
||
播 | 起 | 出 | ||||||||
(kgN/10a) | ||||||||||
4 | 8 | 0 | 7/17 | 638 | 729 | 24.2 | 36.2 | 740 | 9.1 | 12.2 |
4 | 8 | 4 | 7/20 | 656 | 695 | 24.1 | 39.2 | 778 | 10.5 | 14.4 |
4 | 8 | 8 | 7/20 | 653 | 712 | 23.6 | 38.9 | 773 | 12.1 | 16.8 |
表4 尿素浴液の葉面散布の効果(十勝農試.平成4)3%尿素液100l/10a 葉色測定値は41.6
施肥N量 | 葉面 散布 回数 |
成熟期 | 子実重 (kg/10a) |
穂数 (/㎡) |
一穂 粒数 (/穂) |
千粒重 (g) |
リットル 重 (g) |
子実 タンパク (%) |
N 吸収量 (kg/10a) |
検査 等級 |
粉色 | |||
播 | 起 | |||||||||||||
(kgN/10a) | L* | a* | b* | |||||||||||
4 | 8 | 0 | 8/01 | 435 | 617 | 19 | 37.1 | 757 | 8.6 | 9.4 | 等外 | 85.8 | 0.3 | 14.8 |
4 | 8 | 1 | 8/02 | 432 | 609 | 18.5 | 38.4 | 773 | 9.7 | 10.1 | 2下 | 86.4 | 0.6 | 14.8 |
4 | 8 | 2 | 8/03 | 448 | 610 | 19.2 | 38.3 | 774 | 10.8 | 11.5 | 2下 | 85.5 | 0.8 | 14.8 |
4 | 8 | 3 | 8/03 | 463 | 604 | 19.5 | 39.4 | 775 | 11.1 | 12.1 | 2下 | 86 | 0.7 | 14.5 |
11.成果の活用面と留意点
1)本試験はチホクコムギを対象とした。
2)本試験成績の適用対象地域は十勝管内、網走管内の全域とする。
3)窒素質肥料の施肥改善技術であるので、リン酸質肥料、カリ質肥料等は従来通り播種期に全量施用する。
4)倒伏を回避するために窒素減肥がなされている圃場では、本成績の窒素分施法を適用しない。
5)葉色測定による後期追肥の要否判定においては、泥炭土のような後期窒素の供給能が高い圃場は除外する。
6)適期播種および雪腐病の防除の実施を原則とする。
7)起生期重点施肥により成熟期は1〜3日遅れる場合がある。
8)試験年次は根雪期間が短く、かつ土壌凍結深度が浅く、雪腐病病の発生も少なかった。
12.残された課題と問題点
1)地帯別、土壌別に対応した播種期窒素施肥量診断基準の検討。
2)土壌診断、生育診断による起生期までの総窒素施肥量の検討。
3)有機物施用等を含めた、総合的な栽培技術改善対策の確立