1.課題の分類 総合農業 生産環境 土壌肥料 3-2-2 北海道 土肥・環 2.研究課題名 畑作物の減農薬・減化学肥料栽培の実態解析 (クリーン農業の評価と実証、畑作物の減農薬栽培技術の確立、減除草剤による雑草管理技術の確立) 3.予算区分 道費 4.研究期間 平成3年〜5年 5.担当 十勝農試 土壌肥料科 病虫科 経営科 作物科 農業機械科 6.協力・分担 十勝管内6農業改良普及所 |
7.目的
十勝管内で各種の有機農法および減農薬や減化学肥料に努めている畑作農家を対象とし、当該圃場における農法の特徴、技術体系、生産性などを調査し、減農薬・減化学肥料栽培の実態を明らかにするとともに、今後のクリーン農業推進方向のする。
8.試験研究方法
1)畑作物の減農薬・減化学肥料栽培の実態調査(平成3年)
十勝管内の各普及所に減農薬・減化学肥料をなんらかの形で実施している農家40戸の推薦を受け、このうち特徴的な17戸を選定し開き取りを主体に調査
2)機械除草による栽培の事例調査(平成4年)
更別村の機械除草による無除草剤栽培農家について聞き取りおよび現地調査
3)十勝管内における減農薬・減化学肥料栽培の実態(平成5年)
管内6普及所の畑作担当農業改良普及員がクリーン農業の実態について理解を深めるため
に聞き取り調査した資料26戸を取りまとめた。
9.結果の概要・要約
1.畑作物の減農薬・減化学肥料栽培の実態調査
1)調査農家17戸でクリーン農法適用作物は、豆類が16例、ばれいしょが10例と多く、小麦は3例に留まり、てん菜は1例にすぎなかった。
2)調査農家のうち、減化学肥料栽培の割合は4割と少ないが、除草剤を全く使用しない農家は8割強と多く、減殺菌・殺虫剤に努めている農家は8割弱と多い。
3)減化学肥料農家の養分供給対策は堆きゅう肥、緑肥などにたよっており一部には骨粉や貝殻の施用も認められ、市販の各種有機質肥料が用いられている。また、微量要素のバランス改善を行なっている農家もあった。
4)無あるいは減殺菌・殺虫剤農家の防除対策は、木酢の使用が主流で、玄米酢やリン酸などを用いている例もあった。また、スプレヤの改良により農薬の減量散布に努めている事例があった。
5)無除草剤農家の除草対策ま中耕と手取り除草が主体であり、更別地区ではスプリングハロー(めくら除草)、除草クリーナ、カルチベータなどの組合せによる機械除草が積極的に導入されていた。一方、雑草繁茂のはげしい圃場もあった。
6)自然農法採用農家の収量性は町村平均と比べ、ぱれいしょで特に低く、豆類でも低かった一方、無除草剤採用農家の収量性は概して良好であった。
7)クリーン農法生産物の販売は、栽培方法を指定する特定の業者、消費者組織への直売が多く、販売価格は通常の20〜l00%高であった。
2.機械除草による栽培の事例調査
1)経年的な意欲的な雑草対策による発生密度の低下があって、機械除草による省力無除草剤除草が可能となる。
2)ハロー、カルチベータ、クリーナなどを組み合わせることにより機械除草による無除草剤栽培は、可能であるが、排水良好な平坦な圃場、周到な整地作業(除草作業の精度向上)、圃場観察(作物、雑草、土壌水分)がその前提となる。
3.十勝管内における減農薬・減化学肥料栽培の実態
1)クリーン度が相対的に高いと推定されるクリーン農法適用作物を差別化商品として販売している農家は約50%でその作物はばれいしょが最も多く、次いでかぽちゃ、豆類、にんじんなどで、畑作物と園芸作物の両方にクリーン農法を適用している場合が多い。
2)畑作4品を主体にクリーン農法の対象としている農家は、無除草剤や土壌診断にもとづく減化学肥料、適期防除や農薬の減量散布により減農薬栽培を実施しており、生産物は差別化せず通常の農協ルートで販売している。
3)クリーン農業を実践する意識として、生産物を差別化して販売している農家の多くは安全・健康指向が強く、生活のうるおいやゆとりにも強い関心を持っている。差別化していない農家の多くは安全や健康を前提として減農薬・減肥料による低コスト生産に強い関心を持っている
10.主要成果の具体的数字
表1 クリーン農法実施農家の栽培技術の特徴
農家 番号 |
町村 | クリーン度 | クリーン圃場 面積率 (%) |
対象 作物 |
病害虫対策 | 備考 | ||
化学 肥料 |
殺菌・ 殺虫剤 |
除草剤 | ||||||
1 | 豊頃 | Ⅳ | Ⅳ | Ⅳ | 12 | P,SB,AB | 木酢 | 自然農法(MOA) |
2 | 音更 | Ⅳ | Ⅳ | Ⅳ | 4 | P,W,DC | 木酢 | 自然農法 |
3 | 清水 | Ⅱ | Ⅱ | Ⅳ | 4 | P,SB,AB | 木酢 | 土壌診断、輪作 |
4 | 帯広 | Ⅰ | Ⅰ | Ⅳ | 44 | P,W | 低濃度散布 | 土壌診断 |
5 | 幕別 | Ⅰ | Ⅱ | Ⅳ | 2 | P | ||
6 | 茅室 | Ⅱ | Ⅱ | Ⅳ | 5 | P | 木酢、米酢 | |
7 | 茅室 | Ⅱ | Ⅱ | Ⅲ | 5 | P | 土壌診断、ゲルマ酵素 | |
8 | 芽室 | Ⅱ | Ⅰ | Ⅰ | 3 | P | ||
9 | 上士幌 | Ⅳ | Ⅳ | Ⅳ | 7 | P,SB | 木酢(Pのみ) | |
10 | 本別 | Ⅰ | Ⅱ | Ⅳ | 4 | FB,SB | 微量要素(生科研) | |
11 | 本別 | Ⅰ | Ⅳ | Ⅰ | 45 | W,AB | 木酢、リン酸液 | 微量要素(生科研) |
12 | 本別 | Ⅰ | Ⅱ | Ⅰ | 16 | FB,AB | 微量要素(生科研) | |
13 | 更別 | Ⅰ | Ⅱ | Ⅳ | 22 | B,SB,AB | ||
14 | 更別 | Ⅰ | Ⅰ | Ⅳ | 16 | FB | 部分散布 | |
15 | 更別 | Ⅰ | Ⅱ | Ⅳ | 15 | FB,P | 土壌診断 | |
16 | 更別 | Ⅰ | Ⅱ | Ⅳ | 4 | FB | 微量要素 | |
17 | 更別 | Ⅰ | Ⅱ | Ⅳ | 3 | FB | 微量要素 |
表2 クリーン農法栽培における畑作物の収量性
作物 | 事例 数 |
クリーン度 | 収量 指数の 平均 |
||
化学 肥料 |
殺菌・ 殺虫剤 |
除草剤 | |||
馬鈴しょ | 2 | Ⅳ | Ⅲ〜Ⅳ | Ⅳ | 65 |
2 | Ⅱ | Ⅱ | Ⅳ | 74 | |
3 | Ⅰ | Ⅱ | Ⅳ | 99 | |
大豆 | 2 | Ⅲ〜Ⅳ | Ⅳ | Ⅳ | 69 |
小豆 | 1 | Ⅳ | Ⅳ | Ⅳ | 82 |
1 | Ⅰ | Ⅱ | Ⅰ | 103 | |
菜豆 | 5 | Ⅰ | Ⅰ〜Ⅱ | Ⅳ | 109 |
表3 機械除草事例における中耕作業の回数
作物 | 平成3年 | |||
5月 | 6月 | 7月 | 計 | |
てん菜 | 4 | 2 | 6 | |
ばれいしょ | 2 | 3 | 5 | |
菜豆 | 4 | 2 | 6 | |
小豆 | 1 | 4 | 2 | 7 |
大豆 | 1 | 4 | 2 | 7 |
平成4年 | ||||
5月 | 6月 | 7月 | 計 | |
てん菜 | 5 | 3 | 1 | 9 |
ばれいしょ | 3 | 3 | 6 | |
菜豆 | 4 | 1 | 5 | |
小豆 | 3 | 1 | 4 |
表4 生産物の販売方法を異にするクリーン農業実施農家の意識
目的・ねらい | 生産物の販売方法 | 苦労している事項 | 生産物の販売方法 | ||||
差別化 | 農協 | 計 | 差別化 | 農協 | 計 | ||
食品の安全、健康 | 7 | 2 | 9 | 除草の多労、労力確保 | 8 | 2 | 10 |
ゆとり、うるおいなど | 5 | 1 | 6 | 防除要否の判断 | 1 | 4 | 5 |
低コスト生産 | 0 | 8 | 8 | 販路の確保 | 4 | 0 | 4 |
所得の確保・向上 | 3 | 1 | 4 | 多労が評価されない | 1 | 1 | 2 |
良品質農産物の生産 | 3 | 2 | 5 | 減収する | 2 | 0 | 2 |
販売の喜び | 2 | 0 | 2 | 適期作業の実施 | 0 | 2 | 2 |
消費者との交流 | 2 | 1 | 3 | 堆肥生産 | 0 | 1 | 1 |
信仰・信条 | 1 | 0 | 1 | 基本技術の実行 | 0 | 1 | 1 |
11.成果の活用面と留意点
1)機械除草による無除草剤を試みる場合は、砕土性と排水性が良好な土壌条件で、かつ雑草発生量の少ない圃場が望ましい。
2)クリーン農業推進の参考とする
12.残された課題と問題点
1)機械除草を確立するため収穫後、作付前の機械的除草方法の確立と覆土深、土壌水分などと殺草効果の関係の明確化
2)木酢など天然物の農薬的効果の評価
3)主要病害虫の要防除水準の明確化と被害予測技術の確立
4)農産廃棄物、家畜ふん尿などの処理とクリーン農業との関連付けの検討