成績概要書【指導参考事項】(作成平成6年1月)
1.課題の分類 総合農業 作業技術   防除4
         北海道   物理
2.研究課題名 大区画圃場における水稲栽培省力化技術
         Ⅱ 省力防除技術
         (大区画圃場における低コスト機械化体系の確立)
         ( 3)防除技術の効率化)
3.予算区分 補助(地域水田農業)
4.研究期間 平成3〜5年
5.担当 中央農試農業機械部機械科
経営部経営科
6.協力・分担関係 なし

7.目 的
水田区画の大型化に適応した省力的防除作業技術として期待されている片竿ブームスプレーヤ及び無人ヘリコプタによる防除作業の技術内容を明かにするとともに、経営的評価 を行い、普及・指導上の参考に供する。

8.試験研究方法
1)片竿フームスプレーヤによる防除技術
(1)実施場所、供試トラクタ、供試作業機
実施場所 トラクタ タイヤサイズ スプレーヤ 装着方式 タンク容量 散布方法 散布幅
平取町 79.5PS 8.3-44 A機 後部装着 800L 16m+15m
栗山町 98PS 9.5-44 B機 前部装着 1300L 16m+15m
妹背牛町 79.5PS 8.3-44 C機 前部装着 920L 16m+15m
16m+2.6m

(2)実施期日 平取町 平成3年 7月19目、8月2日 栗山町 平成3年7月16日
        妹背牛町 平成4年 6月18日、8月17日、平成5年7月28日、8月16日
(3)調査項目 気象条件、走路条件、沈下量、散布能率、損失株率、減収率
2)無人ヘリコプタによる防除技術
(1)実施場所・面積 南幌町 平成3年
(2)実施期日 平成3年7月26日、8月9日、平成4年
(3)調査項目 気象条件、散布能率
3)防除技術の経営的評価

9.結果の概要・要約
1)片竿ブームスプレーヤによる防除技術
(1)80PS〜100PS級の4輪駆動トラクタに狭幅タイヤを装着しブームスプレーヤは片竿タイプとし、その先端に畦畔散布用ノズルを取付け、散布帽を延長した。
(2)ブームノズルによる薬液付着面積割合は約90%以上で精度は良かった。先端ノズルは風の影響を受けて薬液到達距離に差を生し、付着面積割合はぱらついた。
(3)暗渠埋設跡で、極端に地耐力の劣る地点で走行不能となったが、これを除くと、安定 した走行が可能で、耕盤硬度が8㎏/c㎡以上では沈下量は5㎝程度にとどまった。
(4)散布方式Ⅰの作業能率は2.5〜3.2ha/hであり、区画・形状が不整な圃場では、散布幅 一致しないため0.8〜2.1ha/hと低下し。散布方式Ⅱでは実作業幅18.6mで2.3〜2.5ha/hであった。
(5)前進のみで散布作業を行う場合、旋回方法は△字旋回よりもL字旋回が防除通路1本あたりの踏み込み株数を若干少なくできる。
(6)水田内走行による減収率は、散布方式Ⅰでは0.8〜0.9%であり、散布方式Ⅱでは1.4%であった。移植方向と直角に散布方式nで散布すると減収率は3.3%であった。
2)無人ヘリコプタによる防除技術
(1)無人ヘリコプタの散布作業能率は、圃場間の移動にトラックを使う場合は3.2〜4.0ha /h、圃場の配置が集中している場合には5.7ha/hであった。
3)防除技術の経営的評価
慣行防除技術の機械利用費と省力防除技術の機械利用費の比較を行ったところ、ほぼ同等の機械利用費用であることが明らかになった(表4)。経営規模の拡大、兼業化の進展集約的な作物の導入による稲作軽視などによってこれまで一般的であった共同防除が崩壊しつつある現状や水田区画の大型化に伴う共同防除実施の困難化などを考慮すると組作業を必要としない省力防除技術が急速に普及すみものと判断された。

10.主要成果の具体的数字


         図1 散布精度(薬液付着面積割合)


                図2 耕盤硬度と沈下量

表1 防除作業能率
試験
場所
実施
年月日
圃場
面積
ha
実作
業幅
m/s
作業
速度
m/s
作業
時間
min
作業内訳(%) 作業
能率
ha/h
散布

L/10a
散布 移動 給水 ブーム
操作
薬剤
補給
田内 農道
平 取 3,7,19 1 25 0.47 74 25.7 15 19.8 16.9 13 9.5 0.82 110
3,8, 2     0.58 75 31.7 11.9 22.4 14.8 10.3 8.9 0.81 102
栗 山 3,7,16 1.8 27 0.68 52 50.1 4 11.6 19.4 5.2 9.7 2.1 80
妹背牛 4,6,18 3.1 31 0.67 58 42.2 3 17.7 31 3 0 3.17 76
妹背牛 4,8,17 3.1 31 0.57 76 38.9 5.8 15.7 27.6 8.3 3.7 2.45 95
妹背牛 5,7,28 3.7 18.6 0.66 88 56.8 4.9 13.3 23.7 1.3 0 2.5 88
妹背牛 5,8,16 3.7 18.6 0.65 96 53.3 8.4 14.2 24.1 0 0 2.3 87

表2-1 片竿ブームスプレーヤ
の水田内走行による稲株損失
調査
箇所
旋回
方法
損失
株数
損失率
(%)
旋回部 △字 255 0.03
直進部   974 0.13
合計     0.18
旋回部 L字1 209 0.03
L字2 209 0.03
直進部   8652 1.16
合計     1.25
注) 圃場全体に対する損失率
H4、移植方向と並行。H5、直交

表2-2 片竿ブームスプレーヤの水田内走行による減収率
年次
場所
区分 刈幅
m
精籾重
kg/10a
精玄米重
kg/10a
減収率
%
備考
H3
平取
通路 2.31 349 266 3.3 4条またぎ1条踏込み
対照   685 531  
H3
栗山
通路 2.64 412 *** 0.8 5条またぎ踏込みなし
対照   542 ***  
H4
妹背牛
通路 2.31 480 360 0.9 4条またぎ1条踏込み
対照   698 518 (1.4)
H5
妹背牛
通路 2.31 190 120 3.3 移植方向と直交
対照   633 420  
注) ( )内はブームノズルを主体に使用した場合の試算地−

表3 無人ヘリコプタによる散布作業能率
試験
場所
実施
年月日
圃場
面積
ha
実作
業幅
m
作業
速度
m/s
作業
時間
min
作業内訳(%) 作業
能率
ha/h
作業
効率
%
散布
旋回
薬剤燃料
補給
移動
積卸し
南幌 H3 7/26 5.29 5.5 6.1 81.4 39.9 29.2 30.9 3.9 32.2
南幌 H3 8/ 9 5.29 5.3 5.9 76.5 46.8 25.4 27.8 4.15 36.9
南幌 H4 8/21 4 5.1 6.1 41.2 68.2 31.8 0 5.83 52.1

表4 慣行防除技術と省力防除技術の機械利用費の比較
  慣行防除技術
(動力噴霧機)
片竿ブーム
スプレーヤ
無人ヘリコプタ
所有形態 共同所有 共同所有 受託組織の所有
利用方法 共同作業 個別作業 作業委託
防除回数(回) 3 3 3
1回当たり防除日数(日) 2 3 3
1日当たり作業時間(時間) 8 8 8
作業能率(ha/h) 3.37 2.1 4.1
作業実施面積計(ha) 161.5 151.2 295.2
1回・10a当たり機械利用費(円) 719 871 833

11.成果の活用面と留意点
1)先端の畦畔ノズルを併用する際は風向きを考慮し、散布むらの起こらないよう留意すること。
2)防除通路は、できるだけ移植方向に並列するように設定すること。
3)片竿ブームスプレーヤの利用にあたっては、共同所有が望ましい。無人ヘリコプタの利用にあたっては、防除組織による受託作業が前提となる。

12.残された問題とその対応