試験研究成績【指導参考事項】 (作成平成6年1月)
1.課題の分類 総合農業 作業技術 8.農業施設
        北海道 農業物理 野菜
2..研究課題名 温室冷暖房ヒートポンプシステムの実用化
3.予算区分 道費(受託)
4.研究期間 平5
5.担当 中央農試農業機械部,経営部 道南農試園芸科
6..協カ・分担関係

7.研究目的

 ハウス園芸においては作期拡大と出荷時期の調整が課題で、現境調節は重要であり,ヒートポンプを利用した場合の冷暖房における性能特性、作物栽培および経済性について検討する。

8.試験研究方法

 1)供試システム:CHX-40型、定格出力124,000kcal/h、熱源;地下水、水−水方式

   設胆利用場所;遺南農試、利用条件:ハウス面積270㎡×2棟

   温度条件;冬;室温A,B棟、昼間(8〜15時)20℃以上、夜間A棟10℃、B棟15℃夏:室温

   A棟昼夜共非冷房、B棟昼間25℃、夜間:19℃、地温冷却:昼夜14℃区と昼間22℃夜14℃区

 2)試験請査項目

  (1)性能・特性 暖房性能、冷房性能,各部温度、流量、日射量

  (2)作物栽培に対する効果 冬期:キュウリ、夏期:スフレーカーネーション、アルストロメリア

  (3)経済性 アルストロメリア、慣行との比較

9.成果の概要・要約

1.性能・特性

1)冬期は気温が日平均で1.7℃〜5.9℃で経過したのに対して、ほぼ設定を満足する暖房がなされた。日平均生産熱量は12月が最大で、1,573Mcalであり、消費電力は559Whであった。ヒートポンプ単体の成績係数は最高4.2であり、最高毎時生産熱量は133Mca1/hと定格を満たす能力を発揮した。

2)夏期の冷房では、気温が日平均で14.6℃〜19.2℃で経過した。1棟のみの室内冷房(25℃)では、ほほ設定を満足する結果が得られたが、地温冷却に比べ大きな負荷であった。日平均冷却熱量は8月が最大で、764Mcalを示し、消費電力は595kWhであった。最高毎時冷却熱量は1111Mcalで定格を満たし、ヒートポンプ単体の成積係数は最高4.1であった。

2.作物生育効果

1)冬期間暖房で栽培したキュウリでは、収量から苗質は接ぎ木苗が適し、夜温は15℃を目安にするのが良いと考えられた。

2)スフレーカーネーションでは、採花数、切り花品質の面から、室温及び地温の冷却による効果が認められた。

3)アルストロメリアでは、室温及び地温の冷劫効果に品種間差がみられたが、3品種ともに9月以降の採花数は増加した。

3.経済性

1)アルストロメリアの冬期暖房・夏期地中冷房を行うヒートポンプ(CHX-40)1台を単位とする可能負荷面積は1,458㎡であり、購入価格は33,476千円である。10a当り減価償却費は1,787千円である。

2)室温8℃、地中温度15℃に設定したハウス10a当たりの電気料金は暖房が922千円、地中冷房が708千円である。消費電力量が多い時期は暖房の12月〜2月と冷房では外気温が19.2℃となった8月である。

3)夏期地中冷房栽培を行うアマンダの10a当たり販売収入は慣行栽培よりも採花数及び9月以降の採花比率も増加するため慣行栽培を3,528千円上回る。費用は光熱費と減価償却費の増加により3,405千円増加する。10a当り所得は夏期地中冷房は1,261千円、慣行栽培のアルストロメリアは1,138千円である。

4)しかし、資本利子と減価消却費とから構成される資本費用を回収した後の10a当り労働所得は慣行栽培は860千円、地中冷房栽培は263千円である。したがって資本費用の回収を考意した場合の収益性は慣行栽培の方が高い。地中冷房栽培の労働所得か慣行栽培を上回るのは、東京市場出荷を前提とすると,10a当り販売収入が11,428千円以上(坪当り販売収入37.7千円以上)の場合であり,83円/本以上の販売価格が形成されることである(表2)。

 

10.主要成果の具体的数字


図1.冬期における温度経過(日平均温度)


図2.夏期における温度経過(日平均温度)


図3.苗,夜温別のキュウリ収穫量(平4)
N:無処理,C:冷却,M:ワラマルチ


図4.温度処理によるa当り採取花数(平5)


図5.品種,温度処理における採花数

表1.供試ヒートポンプシステムの運用性能
  生産熱量
Mcal
消費電力量kWh 吸水
温℃
成績
係数
ヒート
ポンプ
含補機
冬期暖房 12月 48.774 13.601 17.336 46.1 4.2
1.573 439 559
1月 37.923 13.022 15.723 45.8 3.4
1.223 420 508
2月 35.443 10.28 12,404 45.5 4.0
1.266 367 443
3月 33.267 10.165 10.633 45.7 3.8
1.073 328 394
4月 23.112 7.209 8.662 4.6 3.7
770 240 288
夏期冷房 6月 18.721 6.125 9.147 7.5 3.6
624 204 305
7月 12.834 4,530 7.575 8.8 3.3
494 146 244
8月 23.689 6.741 10.868 8.3 4.1
764 218 595
9月 15.575 4,456 7.292 8.8 4.1
519 149 243
注1:生産熱量と消費電力量の欄の上は月間合計、下は日平均
 2:毎時最高生産熱量:133Mcal/h、最高冷却熱カ111Mcal/h

表2.地中冷房栽培の10a当り労働所得(試算、単位:千円)
区分 慣行裁培 夏期地中冷房
施設投資額 4,029 25,403
収入 販売単価 66.9 78.3 83.4
出荷本数 107,640 137.03 137.03
販売収入 7,021 10,729 11,428
費用 種苗費 1,076 1,170 1,170
肥料・農薬費 121 121 121
光熱動力費 1,107 1,685 1,685
他生産資材費 355 611 611
流通費用 2,832 3,808 3,899
流動費計 5,492 7,395 7,486
流動資本利子 66 90 90
施設地地代 45 45 45
回収資本費用 738 2,937 2,937
費用合計 6,341 10,467 10,558
労騎所得 860 263 871
注1)回収資本費用は以下の式から求めた。
  回収費本費用=設備投資額×i(1+i)n÷((1+i)n-1)
注2)i=4.5%

11.成果の活用面と留意点

1)夏期間日射の強い時は遮光カーテンを使用する。

12.残された問題とその対応