1.課題の分類 総合農業 生産環境 病害虫 ウイルス 北海道 生産環境 病害虫 水稲 2.研究課題名 イネ黒すじ萎縮病の発生実態と感染・発病時期 (イネ黒すじ萎縮病の発生生態と感染・発病時期) 3.予算区分 道費 4.研究期間 平成5年 5.担当 北海道立上川農業試験場 研究部病虫科 6.協力・分担関係 北海道立中央農業試験場 病虫部 病理科 北海道大学 農学部 |
7.目的
北海道におけるイネ黒すじ縮病の発生実態と感染,発病時期について検討し,イネ縞葉枯病に対して確立されている現行の防除体系を活用できるかどうかを明らかにする。
8.試験方法
(1)実態調査:上川管内の12市町村,16圃場を選定し,発病が確認しやすい8月上旬以降に発病状況を随時調査した。調査は畦畔沿い4畦について発病の有無を調査した。多発置場における発病程度を明らかにするため,収穫期に600株〜800株を系統抽出して発病状況を調査した。
(2)本田における発病調査:前年度発生した圃場で(品種:きらら397),6月〜9月にかけて発病推移をほぼ定期的に調査した。同時にヒメトビウンカの寄生消長も調査した。
(3)接種試験:品種「きらら397」を供試し,葉期別に保毒ヒメトビウンカ5齢幼虫を株当た
り5頭〜20頭放飼し,約5日間任意に吸汁させた。春播コムギ,二条大麦,エンパクの2葉期に保毒5齢幼虫を株当たり5頭,7日間接種した。その後発病経過を観察した。
9.結果の概要・要約
1)発生実態調査(第1表)
(1)イネ黒すじ萎縮病は旭川市を中心とした周辺市町村に広く分布しているが,発生程度は低かった。発生地はイネ縞葉枯病発生地と重なるので,従来のヒメトビウンカ防除対策とは別個に特別な防除対策を講じる必要はないと考えられる。
(2)上川北部の地域でもわずかに発生が認められたので,さらに広範囲な分布調査が必要である。
(3)本病原ウイルスによるトウモロコシのすじ萎縮病の発生か確認された。
2)発病消長
(1)黒すじ萎縮病の発病経過はイネ縞葉枯病のそれと酷似していることから,病原ウイルスの伝搬にはヒメトビウンカの越冬世代成虫と第1世代幼虫が関与していると推秦された。
3)接種による感染・発病(第2表)
(1)主稈の葉期別に保毒虫を放飼して発病の有無を調査した結果,主稈11葉期まで感染し,発病することが認められた。発病株は草丈が低く,茎数の増加が認められたが,この傾向は7-8葉期までに感染したイネで顕著であった。これ以降の感染では出穂はするが,不稔歩合が高かった。
(2)春播コムギ,オオムギ,エンパクの2葉期に接種した結果,イネと同様に感染し,草丈が短く萎縮症状を呈し,分げつ数が多くなり,葉身は寸詰まりのようになり,葉身にクサビを打ち込んだような切れ込み症状がみられた。
10.成果の具体的数字
第1表 上川管内におけるイネ黒すじ萎縮病の発生状況(1993)
市町村名 | 調査 地点数 |
イネ黒すじ萎縮病 | イネ縞葉枯病 | ||||
未発生 地点数 |
発生 地点数 |
発生 地点率 |
未発生 地点数 |
発生 地点数 |
発生 地点率 |
||
旭川市 | 66 | 44 | 22 | 33.3 | 6 | 49 | 75.4 |
美瑛町 | 11 | 8 | 3 | 27.3 | 2 | 9 | 81.8 |
鷹栖町 | 1 | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 |
東神楽町 | 18 | 18 | 0 | 0 | 5 | 13 | 72.2 |
東川町 | 12 | 9 | 3 | 25 | 3 | 9 | 75 |
当麻町 | 6 | 5 | 1 | 16.7 | 2 | 4 | 66.7 |
比布町 | 14 | 14 | 0 | 0 | 2 | 12 | 85.7 |
愛別町 | 10 | 10 | 0 | 0 | 6 | 4 | 40 |
和寒町 | 7 | 7 | 0 | 0 | 7 | 0 | 0 |
剣淵町 | 7 | 7 | 0 | 0 | 7 | 0 | 0 |
士別市 | 7 | 6 | 1 | 14.3 | 7 | 0 | 0 |
風連町 | 5 | 5 | 0 | 0 | 5 | 0 | 0 |
総計 | 164 | 134 | 30 | 18.3 | 53 | 100 | 63.7 |
第2表 イネ生育時期別の接種による発病
接種時 の葉数 |
接種時期 | 接種 頭数 |
発病 株率 |
主稈の 発病率 |
収種期調査(株当たり) | ||||
草丈 | 茎数 | 穂数 | 総籾数 | 稔実歩合 | |||||
4.1 | 6.07-6.12 | 5 | 100% | 100% | 30.6 | 41.2 | 4.9 | 113.2 | 0.4% |
5.1 | 6.12-6.17 | 5 | 100 | 100 | 26.6 | 51.2 | 4.9 | 29.8 | 0 |
6.1 | 6.22-6.27 | 5 | 100 | 100 | 39.8 | 43.5 | 16.2 | 268 | 0.2 |
7.1 | 6.30-7.05 | 5 | 80.0 | 80.0 | 51.1 | 40.2 | 26.6 | 593.8 | 1.9 |
8.0 | 7.08-7.14 | 10 | 100 | 62.5 | 60.9 | 31.6 | 20.3 | 544.1 | 2.5 |
9.1 | 7.14-7.19 | 20 | 100 | 25.0 | 69.5 | 22.5 | 16.7 | 601.5 | 6.0 |
10.2 | 7.17-7.22 | 20 | 100 | 25.0 | 69.2 | 25.2 | 21.7 | 772.2 | 1.2 |
11.0 | 7.26-8.02 | 20 | 33.3 | 0 | 65.3 | 25.5 | 22.6 | 664.5 | 4.7 |
無接種 | - | - | - | - | 68.5 | 25.1 | 21.5 | 604.1 | 23.4 |
11.成果の活用面と留意点
(1)イネ黒すじ萎縮病は旭川市を中心とした周辺市町村に広く分布しているが,当面は現行のイネ縞葉枯病対策で発病を抑制することができる。
(2)発生地域ではムギ類やトウモロコシでの発生にも注意を払う必要がある。
12.残された問題点とその対応
(1)水稲および畑作地帯における発生の分布
(2)ウイルス伝染環の解明
(3)感染作物における被害解析