1.課題の分類 生物資源 遺伝育種 遺伝解析 北海道 2.研究課題名 テンサイそう根病の系統とその遺伝子診断 (テンサイそう根病の系統識別と抵抗性品種の有効利用に関する試験) 3.予算区分 受託 4.研究期間 平成3〜5年 5.担当 中央農試生物工学部 遺伝子工学科 北見農試研究部 作物科 6.協力・分担関係 |
7.目的
バイオテクノロジー技術を用いて、テンサイそう根病ウイルスに存在する系統の特性を解析し、テンサイ品種に対する病原性、地域分布を調べ、その遺伝子診断法を開発する。
8.試験研究方法
(1)ウイルス遺伝子の解析 | :塩基配列の決定と接種による機能解析。 |
(2)遺伝子診断法 | :DNAプローブ法とPCR法。 |
(3)病原性検定 | :テンサイ品種に対する接種試験。 |
(4)発生分布調査 | :道内41圃場分離株の比較。 |
9.結果の概要・要約
(1)北海道に発生するテンサイそう根病ウイルスから新しい遺伝子を発見し、RNA-5と命名した。
(2)RNA-5を含む分離株をF型系統(RNA-1+2+3+4+5)、RNA-5を含まない正常の系統をN型系
統(RNA-1+2+3+4)と名付けた(図1)。
(3)RNA-5の全塩基配列(1,348塩基)を決定した。この遺伝子には、分子量19Kダルトンのタンパク質に相当する読み取り枠(0RF)が認められた。データベース検索の結果、既知の核酸、タンパク質との間に相同性はなく、全く新しい配列を持った遺伝子であることが明らかとなった(図2)。
(4)検定植物に対する病原性については、RNA-3はツルナに黄色病斑を示したのに対して、RNA-5は退緑斑を示した。テンサイに対してはRNA-3のようなそう根症状を示さなかった。B.macrocarpaに対する病徴からも、RNA-5の病原性はRNA-3より弱いと考えられた。
(5)シゴキシゲニン標識を用いたノーザンプロット・ハイブリダイゼーションにより、RNA-5は他のRNA種(RNA-1、-2、-3、-4)と区別することができた。
(6)RNA-5遺伝子の病原性を圃場で調べた結果、RNA-5を含む分離株はテンサイの根に帯状粗皮病に類似する症状がみられ、とくに抵抗性品種の「リゾール」に強い病原性を示した(表1)。
すなわち、根にそう根症状を起こすRNA-3とは、全く異なる病原性をもつことが明らかとなった。
(7)RNA-5を含むF型系統に地域差が認められ、網走(斜里)、胆振および後志管内に多く分布している傾向があった(図3)。
(8)N型系統とF型系統ウイルスのテンサイに対する症状を温室条件で比較したところ、両系統とも激しいそう根症状を示し、病徴に大きな差異は認められなかった。しかし、F型系統ウイルスを接種したテンサイに粗皮症状がみられた。
(9)PCR法によるRNA-5遺伝子の検出条件とその手法を開発した。
(10)F型系統ウイルスに存在するRNA-5を検出するために二つの遺伝子診断法、RNAプローブ法とPCR法のマニュアルを作成した(図4)。
10.成果の具体的数字(総括)
図1 ウイルスのRNA組成から分類したN型およびF型ウイルス系統
図2 RNA-3、RNA-4およびRNA-5の遺伝子地図
図3 N型ウイルス系統とF型ウイルス系統の分布図
表1 RNA-5遺伝子(No.24ウイルス)の発病と収量に及ぼす影響
品種 | ウイルス 系統 |
根の | 根重 | 根中糖分 | 糖量 | ||||
ソウ根 | 粗皮 | t/IOa | (比) | % | (比) | Kg/1Oa | (比) | ||
モノミドリ | 96 | +++ | - | 0.65 | (13) | 5.23 | (34) | 34 | (4) |
24 | - | ++ | 4.65 | (93) | 13.13 | (84) | 611 | (78) | |
4 | - | - | 5.02 | (100) | 15.27 | (98) | 765 | (98) | |
C | - | - | 5.00 | (100) | 15.56 | (100) | 780 | (100) | |
モノヒカリ | 96 | +++ | - | 1.78 | (32) | 10.86 | (67) | 193 | (22) |
24 | - | + | 5.33 | (96) | 14.93 | (92) | 796 | (89) | |
4 | - | - | 5.61 | (101) | 16.42 | (102) | 921 | (103) | |
C | - | - | 5.53 | (100) | 16.17 | (100) | 893 | (100) | |
エマ | 96 | +++ | - | 2.03 | (36) | 13.68 | (85) | 279 | (31) |
24 | - | + | 4.29 | (76) | 15.15 | (95) | 651 | (72) | |
4 | - | - | 5.50 | (98) | 16.15 | (101) | 889 | (99) | |
C | - | - | 5.62 | (100) | 16.01 | (100) | 899 | (100) | |
リゾール | 96 | + | - | 4.47 | (82) | 14.48 | (94) | 647 | (77) |
24 | - | ++ | 3.54 | (65) | 12.76 | (83) | 450 | (54) | |
4 | - | - | 5.52 | (101) | 15.34 | (99) | 846 | (101) | |
C | - | - | 5.44 | (100) | 15.44 | (100) | 841 | (100) |
図4 ウイルス系統の遺伝子診断法
11.成果の活用と留意点
(1)テンサイそう根病ウイルスには、遺伝子組成の異なる2つの系統が存在する(普通系統をN型、RNA-5遺伝子を含む系統をF型系統とする)。
(2)F型系統は網走管内斜里町と胆振後志管内に多く分布する。
(3)F型系統に含まれるRNA-5遺伝子はテンサイに帯状粗皮症状に類似した症状を示す。とくに、そう根病抵抗性品種「リゾール」に強い病原性を示す。
(4)F型系統は、遺伝子診断法(DNAプローブ法とPCR法)によって検出できる。
12.残された問題とその対応
(1)F型系統とN型系統のテンサイ品種に対する病原性。
(2)そう根症状と粗皮症状の病徴出現機作。
(3)F型系統の地理的分布とその由来。
(4)遺伝子診断法の実用化。