【指導参考事項】
成績概要書            (作成6年1月)
1.課題の分類 家畜衛生 牛 生物工学 新得畜試
         北海道   畜産
2.研究課題名 ELISA法を用いた牛乳房炎の診断法と泌乳期治療
      (モノクローナル抗体を応用した家畜の疾病診断および防除技術の開発)
3.予算区分 道単
4.研究期間 平成元〜5年
5.担当 新得畜試 衛生科,酪農科
6.協力・分担関係 なし

7.目的
モノクローナル抗体を用いた簡便で迅速な乳汁内細菌検出法を開発する。また,その他の乳房炎の簡易診断法および泌乳期治療の有効性についても検討する。

8.試験研究方法
(1)モノクローナル抗体を用いた黄色ブドウ球菌の検出
(2)乳汁中特異抗体測定用キットによる黄色ブドウ球菌乳房内感染牛の診断
(3)乳房炎の早期診断に基づく泌乳期治療

9.結果の概要・要約
(1)一1)Staphylococcus aureus(以下Sta.aureus)Wood46を免疫したBALB/cマウスの脾細胞とマウスミエローマ(マウス骨髄腫)細胞をポリエチレングリコールを用いて融合し,Sta.aureus Wood46に対する抗体を産生するハイブリドーマを得た。
このハイブリドーマを限界希釈法によりモノクローン化した。この細胞を免疫抑制剤を投与したマウスの腹腔内に注射し,腹水からモノクローナル抗体を得た。
得られたモノクローナル抗体のなかからSta.aureus野外株とも反応するもの(IgM)を選択した(図1)。この抗体Sta.aureus以外の主な乳房炎起炎菌の標準株とは反応しなかった。
(1)一2)上記のモノクローナル抗体を用いたELISA法によりSta.aureus標準株および野外株24株いずれも108個/mL以上の濃度で検出が可能となった(図2)。乳房炎の乳汁中から検出されるSta.aureusの一般的な濃度は10〜104個/mLであるが,液体倍地にそれと同じ濃度のSta.aureusが存在すれば37℃,12時間の培養で108個/mL以上に増殖することが明らかになったことから,液体倍地に乳汁を加え同様の培養をしたものをサンプルとすることにより,ELISA法を用いてSta.aureusを検出することが可能であると考えられた。
(2)乳汁中の特異抗体測定用ELISAキットによるSta.aureus乳房内感染牛診断の有効性を乳汁培養法との比較により検討した。乳汁の採取は2牛群で1か月間隔で3回行った。Sta.aureusが検出された個体乳のうち抗体が陽性あるいは疑陽性と判定されたものの割合は3回とも約70%であった(表1)。1回目でSta.aureusが検出され,かっ抗体が陰性と判定された3例はその後の検査において陽転ないしは吸光度の上昇が認められたことから,本法による定期的な抗体検査はSta.aureus感染牛摘発のためのスクリーニング手法として有効であることが明らかとなった。
(3)分娩後3日以内,乳汁・乳房に異状の認められる場合,個体乳の体細胞数が10万個/mLを越える場合などに分房乳の細菌検査を行い,その結果を基に泌乳期に抗生物質の乳房内注入などによる治療を行うことにより,Sta.aureusをはじめとして細菌種を問わず高い治癒率を得ることができた。

10.成果の具体的数字


図1.Sta.aureus標準株および野外株とAnti
  Sta.aureus Wood46 MAbとの反応性


図2.MAbおよびPAbを用いたELISA法におけるSta.aureus野外株の検出
MAb:モノクローナル抗体
PAb:ポリクローナル抗体

表1 個体乳の細菌検査および抗体測定結果
細菌
検査
抗体 1回目 2回目 3回目
+ +or± 72.7(8/11) 75.O(9/12) 66.7(10/15)
- - 83.3(20/24) 75.0(15/20) 71.4(15/21)
注)数字は%(サンプル)を示す。

11.成果の活用面と留意点
(1)無菌的に摂取した乳汁を液体倍地に加え,37℃で12時間以上培養したものをサンプルとすることによりモノクローナル抗体を用いたELISA法によりSta.aureusを検出することが可能となった。
(2)個体乳中の特異抗体を定期的に測定することによりSta.aureus乳房内感染牛の診断が可能であることが明らかとなり,乳汁中の体細胞数を測定している施設等での使用が期待される。
(3)乳房炎の泌乳期治療の効果を上げるためには早期診断が不可欠であり,そのためには体細胞数などによるモニタリングに加え,細菌検査をもっと多く取り入れる必要があると考えられる。
特に分娩後数日以内の細菌検査は有効であり,これらのことを含めた乳房炎検査体制の見直し,また,泌乳期治療の再評価が必要と思われる。

12.残された間知とその対応
(1)生理活性物質を用いた乳牛の非特異的な感染防御機能増強法の検討。
(2)非特異的な感染防御機能増強による乳房炎予防法の検討。