1.課題の分類 北海道 畜産 豚 繁殖−滝川農試 2.研究課題名 常温環境下での豚胚移植ならびに胚の保存期間の延長 (豚胚の凍結保存技術の確立に関する試験) 3.予算区分 道費 4.研究期間 平3年〜5年 5.担当 滝川畜試衛生科・養豚科 6.協カ・分担関係 なし |
7.目的
豚胚移植は種豚の衛生的な導入法および優良豚の長期保存の方法として実用化が期待されている。滝川畜試では1989年、外科的手法を用いて豚胚移植技術を確立した。
しかし実用化には、なお改良すべき点も残されている。豚胚は低温での障害感受性が高いため凍結保存は難しく、液状保存により37℃で24時間まで可能とされ、また胚の操作には25℃以上の環境下での胚回収、検査および移植が行なわれている。そこで、従来25℃以上環境下での実施により高コスト、重労働であった胚移構について常温環境下での有用性について検討し、さらに胚の保存延長を目的とした液状保存法について試験を実資した。
8.試験研究方法
(1)常温環境下による胚移植の有用性の検討
(2)豚胚の液状短期保存法の検討
1)37℃、22℃および室温に保存した豚胚の試験管内成績
2)22℃および室温に保存した豚胚の移植成績
9.結果の概要・要約
(1)常温環境下での胚の回収および移植手術で、受胚豚15頭中9頭が受胎し、受胎した全頭が分娩した。産子数は平均6.8±3.6頭であり、種豚の生産に応用され得るものであった(表1)。
供胚農場に常在した豚マイコプラズマ性肺炎、豚萎縮性鼻炎、アクチノバチルス症およびへモフィルスパラスイス感染症の4疾病について、胚移植を実施から半年後に受胚農場の汚染を調査したところ、供胚農場からの疾病の伝播は認められなかった。
(2)−1)22℃および室温では37℃に比べ発育ステージの進行は軽度であり、96時間保存後の形態所見は良好であった。しかし、22℃および室温に72時間および96時間保存した胚を、それぞれ37℃に24時間培養しても発育ステージの進行は観察されなかった。なお、観察期間中の室温は17.4〜23.1℃であった。
(2)−2)胚を22℃に3時間、4時間、24時間および48時間、さらに室温に24および48時間保存し受胚豚に移植したところ、48時間保存の胚においても受胎し子豚を分娩した(表2)。このため啄胚は22℃および室温により48時間の生存性が確認され、従来より行われている37℃保存に比べ、胚の保存期間の延長が認められ長距離輸送時等への応用が示唆された。なお、観察期間中の室温は19.3〜22.0℃であった。
10.成果の具体的数字
表1 常温環境下での豚胚移植の成績
区分 | 頭数 | 移植胚数 (平均) |
産子数 (平均) |
子豚/ 移植胚数(%) |
受胎 | 9 | 148(16.4) | 61(6.8) | 41.2 |
不受胎 | 6 | 89(14.8) | 0(0.0) | 0.0 |
全体 | 15 | 237(15.8) | 61(4.1) | 25.7 |
参考 25℃以上環境下での移植成績
区分 | 頭数 | 移植胚数 (平均) |
産子数 (平均) |
子豚/ 移植胚数(%) |
受胎 | 6 | 87(14.5) | 42(7.0) | 48.3 |
不受胎 | 3 | 54(18.0) | 0(0.0) | 0.0 |
全体 | 9 | 141(15.7) | 42(4.6) | 29.8 |
表2 22℃および室温に保存した豚胚の移植成績
受胚豚 No. |
保存 期間 |
保存 温度 |
移植 胚数 |
良好 胚数 |
受胎* | 産子数 |
1 | 3 | 22 | 15 | 13 | + | 11 |
2 | 4 | 22 | 23 | 14 | + | 8 |
3 | 24 | 22 | 15 | 11 | + | 6 |
4 | 24 | 室温 | 20 | 13 | +(流産) | 0 |
5 | 24 | 22 | 20 | 12 | - | 0 |
6 | 48 | 22 | 20 | 14 | + | 3 |
7 | 48 | 室温 | 12 | 10 | + | 2 |
11.成果の活用面と留意点
(1)胚移植は海外からの豚の輸入、ならびに疾病の清浄水率の高い農場での血液更新を目的とした、疾病を持ち込むことのない種啄の導入技術として有用である。
(2)保存液の雑菌汚染は胚の死滅、疾病の伝播の可能性があるため無薗操作に留意する。
(3)室温で48時間の胚の生存性が確認されたが、保存中の温度変化が予測される場合は、
22℃前後の温度保存を行うべきである。
12.残された問題とその対応
(1)開腹手術によらない胚移植術の検討。
(2)胚の長期保存法の検討。