1.課題の分類 総合農業 営農 経営 3-3-4 北海道 経営 2.研究課題名 畑作経営における借地型規模拡大の展開条件 3.予算区分 道費 4.研究期間 平成2年〜5年 5.担当 北海道立十勝農業試験場 研究部経営科 坂本洋一 6.協力・分担開係 なし |
7.目的
畑作地帯で拡大する農地賃貸借の存立構造を明らかにし、畑作経営が借地によって規模拡大する上での経済性と経営を展開させていくための条件を提示する。
8.試験研究方法
(1)畑作地帯における農地移動の実態を把握する。
(2)農地供給者の性格と農地供給形態およびその経済的背景を明らかにする。
(3)畑作経営における借地利用の実態を明らかにする。
(4)借地の距離および単収水準の低位性に着目し、借地の経済性を検討する。
9.結果の概要・要約
(1)畑作地帯では経営規模の拡大が進み、農地拡大手段として、有償による権利移動は減
少し、貸借権の設定による借地が増加する傾向にある。法手続きを踏まないものを考慮
すると、借地が農地移動の過半を占めるようになった。
(2)農地供給者は、負債整理による離農者の比率が減り、高齢者農家、及び早めの負債整
理によって転職する農家が多くなった。後2者は、農地を一時にすべて売却する必要性
が小さい。特に後継者のいない高齢者農家は今後も増加傾向にあるため、借地の供給基盤は拡大する方向にあり、借地は農地の売買にいたる過渡的な形態として存続するとみられる。
(3)しかし、貸し出される農地には、次の2つの問題が認められた。
第一は、単収の低い地区の農地供給量が高単収の地区より多く、この地域的な需給の不均衛が通い作を生じさせ、借地の距離の問題を発生させている。
第二は、借入当初から借地の単収水準が低いという問題である。これは第一の問題=地区間の単収差に起因するばかりでなく、同一地区においても高齢者農家の提供する貸し地の単収水準が多くの場合、低いことからも生じている。これらに対して、土地改良の実施や堆肥の増投といった地力増進策が取られるのは、長期の賃貸条件にあるものに限られる。(4)借地の距離によって生ずる移動時間およびコストを算出した結果、食・加工用馬鈴し
ょが両者ともに最大であった(表1)。畑作4品の輪作を前提にすると、5haの借地では距離1㎞当たり約6,950円、10㎞離れた借地では1,390円/10aのコスト高であった。
(5)35ha,45haの2つの経営規模によって、借地の地代負担力を計測した(表2)。その結果、地代負担力を高めるには、規模の小さい経営に対する優先的な借地のあっせん、規模拡大にともなう労働力の調達、単収水準の高い借地の確保が必要になる。これらから、借地で所有地並みの所得を畑作経営が上げていくには、①貸し地が予定される農地=高齢者農家が所有する農地に対する事前の土地改良、②長期の賃貸契約、③地代水準の下方見直し、④労働力利用の改革、といった経営の外部条件の整備が不可欠である。
10.成果の具体的数字(総括)
表1 離れ地への作物別移動時間とコスト
通いの 日数 |
のぺ 人日数 |
往復回数 | 移動時間 | 所要費用 | |||
トラクタ | トラック | 乗用 | |||||
小麦 | 日 | 人日 | 回 | 回 | 回 | 分 | 円 |
19 | 37 | 17 | 19 | - | 2,100 | 41,650 | |
てん菜 | 29 | 60 | 21 | 16 | 14 | 3,340 | 63,982 |
ばれいしょ | |||||||
食・加工 | 46 | 126 | 21 | 26 | 20 | 5,640 | 105,869 |
でん原用 | 34 | 58 | 19 | 24 | 4 | 2,760 | 54,866 |
小豆 | 29 | 61 | 16 | 13 | 9 | 3,640 | 66,909 |
菜豆 | 28 | 57 | 15 | 13 | 8 | 3,600 | 66,149 |
スィートコーン | 8 | 12 | 9 | 3 | - | 660 | 12,502 |
縁肥 | 9 | 14 | 9 | 5 | - | 740 | 14,407 |
表2 10a当たり限界土地純収益
〈5haの借地〉 (単位:円/10a)
利用 する 労働力 |
35ha→40ha | 45ha→50ha | ||||
単収水準 | 単収水準 | |||||
標準 | 10%減 | 20%減 | 標準 | 10%減 | 20%減 | |
3人 | 21,240 | 14,900 | 8,560 | 7,320 | 3,260 | 380 |
4人 | 22,380 | 16,080 | 10,400 | 23,180 | 16,860 | 10,540 |
5人 | 30,500 | 22,660 | 15,200 | 20,780 | 14,500 | 8,940 |
利用 する 労動力 |
35ha→45ha | 45ha→55ha | ||||
単収水準 | 単収水準 | |||||
標準 | 10%減 | 20%減 | 標準 | 10%減 | 20%減 | |
3人 | 14,880 | 10,410 | 5,370 | 7,870 | 3,140 | 360 |
4人 | 23,190 | 16,820 | 10,770 | 20,710 | 14,630 | 8,470 |
5人 | 29,280 | 21,500 | 14,210 | 22,380 | 16,020 | 10,160 |
11.成果の活用面と留意点
借地の経済性については畑作の限界地を対象に分析したため、野菜が導入されている地域では数値の絶対値は異なる。
12.残された問題とその対応
畑作の限界地でみられる冷害の経営的影響の解明、およびそれを考慮した土地改良投資の効果