1.課題の分類  北海道 畑作 ばれいしょ
2.場所名  北海道立中央、上川、十勝、根釧、北見農業試験場、農林水産省北海道農業試験場
3.輸入品種名  ばれいしょ輸入品種「P921」

4.来歴および試験経過
1)来歴
  ばれいしょ輸入品種「P921」は、米国メーン大学生活科学農業試験場(the University of Maine Life
 Sciences and Agriculture Exp.Stn.)が「B6987−148」を母、「BR6864−8」を父として昭和45年に交配し、以降
 選抜を加え、昭和58年に「Yankee Chipper」の名で公開されたものである。
2)導入と試験経過
 ①昭和59年、カルピーポテト株式会社は米国農務省より「Yankee Chipper」の商業利用許可(permission for
  the "free" utilization)をうけた。
 ②昭和60年、同社は米国ノースダコタ州立大学よりカルピーアメリカを経て「Yankee Chipper」の種いもを輸入
  した。
 ③昭和60年、同社は検疫を終了した塊茎を使用し、同社の農場で試験用種いもの増殖を 開始した。
 ④昭和61年より同社で栽培試験および貯蔵試験を開始した。
 ⑤平成元年から平成3年まで、同社では同品種に「C6」の名を付し、輸入品種検定予備試験を行なった。
 ⑥平成4年から平成6年まで、同品種に「P921」の名を付し、北海道立中央、上川、 十勝、根釧、北見農業試
  験場において輸入品種等選定試験、並びに北海道農業試験場に おいて生産力検定試験を行なった。
 ⑦更に平成5年から平成6年まで、同品種を道内各地における現地試験に供試するととも に、中央農書におい
  てジャガイモシストセンチュウ抵抗性検定試験およびウイルス病抵 抗性検定試験、十勝農試にいて塊茎腐
  敗抵抗性検定試験および栽培特性検定試験、根釧 農試においてそうか病抵抗性検定試験(平成5年)、
  北見農試においてそうか病抵抗性検定試験(平成6年)、北海道農業試験場において疫病抵抗性検定試験
  および調理特性検定試験をそれぞれ実施した。

 

5.特性
1)形態的特性
  そう性はやや開張型で、茎長は「トヨシロ」よりやや短い。分枝数は少で、茎色は緑で赤紫の斑点を帯びる。
 葉色は淡緑で、小葉の大きさは大である。花色は青紫、花は大きく、花数は中、自然結果は認められない。
 塊茎は楕円形で、揃いは良い。皮色は白黄、表皮は滑で、目は少なく「トヨシロ」より浅く、観は良い。肉色は
 白である。
2)生態的特性
  萌芽期、開花期および枯凋期はほぼ「トヨシロ」並である。
  上いも重は「トヨシロ」よりやや少ない。「トヨシロ」に比べて上いも数はやや多く、上いも平重はやや小さい。
 中以上いも重は「トヨシロ」より少なく、てん粉価は「トヨシロ」並からやや低い。
  施肥量および栽植密度に対する反応は、「トヨシロ」に類似する。
  疫病抵抗性主動遺伝子を保有せず、無防除圃での病斑の進展は他の抵抗性主動遺伝子を持たない品種と
 同程度である。疫病菌による塊茎腐敗抵抗性は「トヨシロ」並である。
  ジャガイモYウイルスの汁液接種により、接種葉のみにえそ病斑を現わす。
  ジャガイモシストセンチュウ抵抗性遺伝子はH1を保有しており、寄生型Rolに対して抵抗性である。本品種の
 根ではシストを形成できないため、土壌中の線虫密度は減少する。
  そうか病には既存品種と同程度に罹病し、抵抗性は認められない。
  褐色心腐、中心空洞および二次生長の発生は「トヨシロ」と同程度に少ない。
3)加工適性および食味
  肉質はやや粘質で、煮くずれは少なめで、舌ざわりはやや粗である。調理後黒変はやや多く剥皮褐変は少
 ない。食味は中である。
  ポテトチップカラー(アクトロン値)は「トヨシロ」に比べて早掘り時から優り、リコンディショニング後のカラーの
 戻りも優れる。ポテトチップ品質は「トヨシロ」より優る。
  用途は、加工食品用(ポテトチップ用)である。

 

6.試験成績

①農業試験場における試験成績
試験場 品種名 枯凋期(月日) 上いも平均
一個重(g)
上いも重(kg/10a) 対標準比(%) でん粉価(%)
中央農試 P921 8.26 62 3,184 92 16.4
トヨシロ 9.1 78 3,467 100 16.0
農林1号 (9.21) 80 3,979 115 15.6
上川農試 P921 9.3 81 3,032 94 16.8
トヨシロ 9.2 85 3,231 100 17.0
農林1号 (9.29) 95 3,689 114 16.2
十勝農試 P921 9.2 82 3,542 93 16.3
トヨシロ 9.2 85 3,816 100 16.6
農林1号 9.27 97 4,557 119 16.2
根釧農試 P921 9.19 81 3,042 86 15.7
トヨシロ 9.18 108 3,539 100 16.5
農林1号 10.5 123 4,193 118 17.6
北見農試 P921 9.1 83 4,425 92 14.9
トヨシロ 9.7 92 4,820 100 16.0
農林1号 9.22 114 4,742 98 15.5
北海道農試 P921 9.11 99 3,981 92 15.0
トヨシロ 9.7 125 4,318 100 16.6
農林1号 不達 117 4,474 104 15.5
注1)平成4年〜6年の3か年平均である。
  2)枯凋期の括弧書きは不達の年次があることを。
  3)標準品種:「トヨシロ」(以下同様)。

 

②現地における試験成績
試験地 品種名 枯凋期(月日) 上いも平均
一個重(g)
上いも重(kg/10a) 対標準比(%) でん粉価(%)
富良野市 P921 9.15 100 4,197 102 15.1
トヨシロ (9.7) 108 4,115 100 16.4
旭川市 P921 9.1 64 4,394 89 16.5
トヨシロ 8.27 95 4,920 100 16.5
士幌町 P921 9.16 94 3,780 79 16.5
トヨシロ 9.16 103 4,762 100 16.5
更別村 P921 8.23 73 3,263 90 16.8
トヨシロ 8.27 89 3,647 100 16.3
浦幌町 P921 8.22 62 2,571 123 19.1
トヨシロ 8.2 67 2,094 100 17.4
北見市 P921 8.28 68 2,631 92 17.4
トヨシロ 8.22 64 2,871 100 16.1
常呂町 P921 9.8 85 3,743 85 15.4
トヨシロ 9.7 106 4,390 100 15.2
斜里町 P921 8.28 78 4,164 91 16.1
トヨシロ 8.29 83 4,573 100 18.3
美深町 P921 8.28 100 4,221 119 15.1
トヨシロ 8.17 106 3,549 100 16.5
注1)旭川市、浦幌町および北見市は平成5年、美深町および更別村は平成6年,
  他4か所は平成5年〜6年の平均値である。

 

③貯蔵前後のチツプカラー(アグトロン値)の推移(平成2〜5年産の平均値、芽室町C社増殖圃場産)
品種名 収穫直後 6℃貯蔵 リコンディショニング後
早掘り 枯凋後 12月 翌年2月 翌年4月 12月 翌年2月 翌年4月
P921 44 46 31 28 28 42 39 36
トヨシロ 38 41 29 29 24 35 28 30
農林1号 31 36 22 24 22 32 28 26
注1)早堀り:各年の8月10日
  2)調理方法:160g程度の大きさの塊茎をスライスし、油温185℃で90〜120秒揚げた。
  3)貯蔵開始:10月中旬
  4)リコンディショニング:6日間で18℃まで昇温後(1日2℃ずつ昇温)、1ヶ月放置した。
  5)測定方法:Magnuson社製(サンプル台M-30A)、フィルターはグリーン、粗砕せずに測定した。
  6)値が大きいほどチップカラーが優る(淡い)。

 

7.配布しうる種苗量
  200㎏(農林水産省種苗管理センター北海道中央農場)

8.普及対象地域およぴ普及見込み面積
  道央、道北およぴ網走地域100ha

9.栽培上の注意
  1)地上部の生育量が少ないと低収となりやすいので、適切な肥培管理により生育量を確保する。