成績概要書(平成7年1月)
1.課題の分類
2.研究課題名  品種開発にむけた遺伝資源特性情報(水稲・麦類・大豆)
           (植物遺伝資源の特性調査−水稲の特性調査−)
           (植物遺伝資源の特性調査−自殖性作物の特性調査−)
3.予算区分  道費
4.研究期間  新規(昭和63年〜平成4年)
5.担当  植物遺伝資源センター 資源利用科・資源貯蔵科
6.協力・分担関係

7.目的
 現在北海道立農業試験場が保存している遺伝資源の総点数は平成6年3月末時点で25,203点でその数は常に増加している。これらの遺伝資源のうち、分類整理に必要な基本的な特性(一時評価項目)の把握が不十分であり、育種材料としての評価が遅れているものがあるため、植物遺伝資源センターでは保存遺伝資源について一次評価項目の特性調査を実施してきた。
 本成績は、平成6年3月に刊行した「植物遺伝資源の特性調査成績(水稲、麦類、大豆)」(植物遺伝資源センター資料1号)のうちから、特徴的な特性及び遺伝資源についての情報を示し、育成場その他での参考とするためにまとめたものである。

8.試験研究方法
《水稲》  試験実施年度及び調査点数  昭和63年〜平成4年計596点
 調査項目:出穂期、成熟期、稈長、穂長、穂数、倒伏、止葉直立程度、葉身の色、粒着密度、穎色、
       ふ先色、芒の有無多少、芒の長短、玄米形質、粒数歩合、千粒重、わら重、精籾重

《麦類》  試験実施年度及び調査点数  大麦:平成3〜4年計392点 小麦:平成2〜3年計922点
 調査項目:葉色、出穂期、成熟期、株の開閉、穂長、穂の抽出度、稈長、1リットル重、千粒重、葉茸の色、
        芒の長短、ふ色、穂型、粒着の粗密、
        大麦のみ  1穂小花着生穂軸節数、芒の粗滑
        小麦のみ  1穂小穂数、冬損程度、叢性、ふ毛の有無、葉鞘のワックスの多少、粒長、粒幅、粒形

《大豆》  試験実施年度及び調査点数  昭和63年〜平成4年計1253点
 調査項目:胚軸色、開花期、花色、葉形、成熟期、倒伏程度、毛茸色、主茎長、主茎節数、分枝数、
        莢数、百粒重、種皮色、臍色、粒の子葉色、粒形

 

9.結果の概要・要約
《水稲》
 水稲については、昭和63年から平成4年までに596点の調査を行い14項目の特性値の分布を示すとともに、平均値から離れた値の系統品種名を示した。
 海外原産では、ソ連産の7点について特性調査を実施した。これらは日本稲と比較して長粒で、粒大が大きく、脱粒性が高いなど、形態的に大きく異なっていた。しかし北海道の屋外で十分に生育可能であることから、当該地域より導入した未調査分も含めて新規遺伝資源として期待できると思われた。
《麦類》
 大麦(二条大麦)、春播小麦、秋播小麦について主として量的形質の変変異を調査するとともに、顕著な値を示した品種系統名を抜粋した。また、多収性母材選定の参考とすべく、穂の収量構成要素について特徴的な品種系統を抜粋した。(図1、2)
《大豆》
 葉形、花色、毛茸の色、伸育型、開花期、成熟期、登熟日数、主茎長、倒伏程度、主茎節数、分枝数、莢数、百粒重、莢数×百粒重、種皮色、臍色、子葉色について変異を調査し、特徴的な材料を抜粋した。また、成熟期と莢数×百粒重、成熟期と百粒重の関係について検討し、早生、大粒、多収品種育成の母材として利用可能と思われる材料を抜粋した(図3、4)。他に、黒豆、青豆の成熟期と莢数×百粒重の関係について検討し、育種母材として利用可能と思われる材料を抜粋した。

 

10.成果の具体的数字

表1  水稲供試材料の年度別変異
年度 S63 H1 H2 H3 H4
品種系統数 91 75 100 100 230
出穂期
(月日)
8.05 8.05 7.27 7.27 8.07
7.16〜8.18 7.31〜8.15 7.18〜8.05 7.11〜9.05 7.16〜8.25
稈長(㎝) 75 70 63 57 75
55〜106 54〜93 51〜75 37〜93 37〜91
穂長(㎝) 18.3 17.8 17.6 16.3 17.6
14.9〜24.0 14.0〜25.5 14.7〜20.6 12.4〜25.2 13.7〜24.6
割籾(%) 9.8 5.6 7.6 28.5 21.2
0〜48.0 0.2〜44.0 0〜42.1 1.0〜88.0 0〜84.3
腹白(%) 39.7 61.0 49.9 35.9 17.8
3〜93 15〜100 10.2〜87.1 0〜98.4 0〜91.5
玄米千粒重
(g)
20.6 21.8 21.8 21.2 20.3
15.9〜24.0 18.7〜24.9 19.7〜24.2 18.5〜27.3 15.2〜24.5
注)表中の数字は上段:平均値、下段:最低値〜最高値を示す

 

 

11.成果の活用面と留意点
(1)一次評価によって得られた特性データを交配母本選定の参考として利用する。
(2)交配母材探索のため、さらに二次評価を行うための材料選択の参考データとして利用とする。
(3)調査年次により生育等が若干異なるので、それを考慮した上で利用する。

12.残された問題点とその対応
(1)水稲、麦類、大豆をはじめ、小豆、菜豆、雑穀類、園芸作物等、一次評価項目の未調査の遺伝資源について
 引き続き調査を行う必要がある。
(2)二次評価項目の特性調査を順次行い、育種母材としての評価を進める必要がある。
注)一次評価…遺伝資源の調査のため共通的に実施する必要最低限度の特性調査
  二次評価…耐病・耐冷性、収量性など品種育成に先行して実施する特性調査