成績概要書(平成7年1月)
1.課題の分類
2.場所名  北海道農業試験場 北海道立中央農業試験場 北海道立北見農業試験場
3.新品種候補名 タマネギ「H−136A(スーパー北もみじ)」(たまねぎ品種試験)

4.来歴
 株式会社七宝において、高い貯蔵性と多収性を備え、更に耐病性、耐抽台性及び球品質にも優れることを目標として育成された。米国で育成された乾腐病抵抗性品種と「そらち黄」より選抜きれた乾腐病抵抗性の自殖系統との交雑後代から育成した細胞質雄性不稔系統を種子親とし、「北見黄」の自殖後代から育成した球肥大性に優れた系統を花粉親とする単交配一代雑種である。ホクレン農業協同組合連合会の委託を受けて、平成4〜6年の3年間、試験機関3カ所及び現地3カ所において、北海道の春播き露地移植栽培に対する適応性の検定を実施してきた。

 

5.特性の概要(標準品種「ツキヒカリ」、対照品種「北もみじ」及び「北もみじ86」との比較)
(1)種子特性及び苗生育
  種子千粒重は「北もみじ86」と同様に「ツキヒカリ」、「北もみじ」よりやや軽い傾向にあるが、発芽勢、発芽率
 や苗生育量(草丈、葉数)はこれら3品種とほぼ同程度である。
(2)葉部生育
  7月の葉部生育最盛期における生育量(草丈、葉数)は「ツキヒカリ」、「北もみじ」及び「北もみじ86」
 とほぼ同程度からやや優る。草姿は、やや直立し葉折れも少なく、これら3品種とほぼ同様であり、葉色は
 同程度からやや濃い。
(3)早晩性
  肥大期は「ツキヒカリ」、「北もみじ」及び「北もみじ86」とほぼ同時期である。倒伏期は中生の「北もみじ」より
 遅く、やや晩生の「ツキヒカリ」、「北もみじ86」とほぼ同時期であるが、北見地方などでは「ツキヒカリ」、
 「北もみじ86」より更に遅れることがある。
(4)耐病虫性
  乾腐病に対しては抵抗性品種である「ツキヒカリ」「北もみじ」及び「北もみじ86」と同程度の抵抗性を有する、
 その他の病虫害の発生程度にもこれら3品種と明らかな差はなかったが、生育遅延や多雨条件下で灰色
 腐敗病やりん片腐敗病、「肌腐れ」あるいは軟腐病による腐敗球の発生が増加する事例が認められた。
 また、白斑葉枯病等葉枯れ性の病害の発生については明確な判定ができなかったが、発生のやや多い事例
 も認められた。
(5)耐抽台性
  不時抽台の発生をみた試験事例が少なく明確な判定はできなかったが、「ツキヒカリ」・「北もみじ」及び
 「北もみじ86」に比較して概ね抽台率は低かった。しかし、「改良オホーツク1号」とは異なり不時抽台の
 発生皆無ではなかった。
(6)収量性
  平均一球重は「ツキヒカリ」、「北もみじ」より大きく、総じて「北もみじ86」とほぼ同程度である。規格内率は
 総じて「北もみじ」とほぼ同程度で、「ツキヒカリ」、「北もみじ86」より高い。「ツキヒカリ」、「北もみじ86」
 で多発することのある長球や「こま型」変形球の発生が少なく規格内率は安定していると言えるが、年次、場所
 により「芯ずれ球」や「だき球」型の変形球が多発する事例が認められた。規格内収量は「ツキヒカリ」、
 「北もみじ」より高く、総じて「北もみじ86」と同程度からやや高い。
(7)球品質
  球の締り、外皮色の濃さ及び皮張りの程度は「北もみじ」より優り、「ツキヒカリ」、「北もみじ86」と同程度であ
 る。球形の揃いは「ツキヒカリ」、「北もみじ86」より優り、「北もみじ」と同程度である。また。固形分含量、糖含
 量、辛味成分指標値としてのピルビン酸生成量。りん片の厚さ及び硬度等の内部品質は高貯蔵性で硬く、
 辛みの強い「ツキヒカリ」、「北もみじ」及び「北もみじ86」とほぼ同程度ある。
(8)貯蔵性
  萌芽、発根及び茎盤の突出が遅いため、貯蔵後健全率は「ツキヒカリ」、「北もみじ」より高く、「北もみじ86」
 に比較してもやや高い。

6.試験成績概要
場所名 品種および
系統名
規格内収量(㎏/a) 同左比(%) 平均
一球重
(g)
規格
内率
(%)
倒伏期
(月日)
貯蔵前
腐敗率
(%)
貯蔵後
健全率
(%)
4 5 6 平均 4 5 6 平均
北農試 H-136A 564 801 604 656 158 118 135 133 231 92 8.9 4.7 74
ツキヒカリ 357 677 447 494 100 100 100 100 184 84 8.6 2.3 54
北もみじ 477 756 492 575 134 112 110 116 197 92 8.3 3.1 59
北もみじ86 563 740 611 638 158 109 137 129 232 87 8.9 2.1 68
中央農試 H-136A 183 543 377 368 114 102 140 115 180 78 8.20 15.1 58
ツキヒカリ 161 533 269 321 100 100 100 100 155 76 8.21 11.9 35
北もみじ 220 607 303 377 137 114 113 117 152 84 8.17 8.7 38
北もみじ86 179 638 373 397 111 120 139 124 182 77 8.19 14.6 44
北見農試 H-136A 751 732 384 622 138 160 96 133 236 91 8.21 8.0 18
ツキヒカリ 545 458 399 467 100 100 100 100 195 85 8.17 6.2 2
北もみじ 624 565 387 525 114 123 97 112 198 90 8.13 4.7 0
北もみじ86 755 590 480 608 139 129 120 130 245 86 8.17 5.5 10
岩見沢市 H-136A 628 440 422 497 140 100 102 114 177 95 8.2 1.7 72
ツキヒカリ 449 439 415 434 100 100 100 100 166 89 8.1 3.4 44
北もみじ 548 417 450 472 122 95 108 109 160 95 7.31 1.4 33
北もみじ86 531 392 498 474 118 89 120 109 181 85 8.2 1.2 59
富良野市 H-136A (740) 635 656 646 (115) 127 110 118 220 99 8.5 2.0 69
ツキヒカリ (645) 500 598 549 (100) 100 100 100 210 91 8.9 1.1 40
北もみじ (554) 535 575 555 (86) 107 96 101 195 98 8.6 2.0 56
北もみじ86 (−) 600 652 626 (−) 120 109 114 232 94 8.11 0.9 81
北見市 H-136A 613 750 556 640 117 102 111 109 266 83 8.18 4.2 77
ツキヒカリ 523 732 501 585 100 100 100 100 238 87 8.19 4.3 33
北もみじ 566 692 536 598 108 95 107 102 229 89 8.14 2.5 27
北もみじ86 597 677 556 610 114 92 111 104 259 82 8.18 5.7 68
平 均 H-136A 548 650 500 567 135 117 114 120 218 89 8.13 6.0 61
ツキヒカリ 407 557 438 471 100 100 100 100 190 85 8.12 4.9 34
北もみじ 487 595 457 515 120 107 104 109 188 91 8.9 3.7 34
北もみじ86 525 606 528 555 129 109 121 118 221 85 8.13 5.0 53
注)平均一球重・規格内率・倒伏期・貯蔵前腐敗率は平成4〜6年の3カ年平均値、貯蔵後健全率は
 平成4・5年産についての2カ年平均値。ただし、富良野市の平成4年データは「北もみじ86」
 を欠くため各平均値より除いた(富良野市の貯蔵後健全率は平成5年産についての単年度値)。

 

7.用途及ぴ適応地域
 多収性、高貯蔵性及び乾腐病抵抗性を備えており球の外観品質にも優れることから、本道の
タマネギ生産における基幹品種として、全道のタマネギ栽培地帯への導入が可能である。

8.保有種子量  5000kg

9.栽培上の留意点
(1)やや晩生であり、生育の遅れがちな北見地方などへの導入にあたっては、圃場の選定及び
 適切な肥培管理や根切り処理の実施などに特に留意する。
(2)白斑葉枯病等葉枯れ性の病害や倒伏の遅延により灰色腐敗病などによる腐敗球が多発する
 ことがあるので、これらに対する適切な防除の実施に努める。