成績概要書(平成7年1月)
1.課題の分類  総合農業 生産環境 土壌肥料 3-2-2 北海道 畑作 畑作総合
2.研究課題名  道央地帯における大豆の窒素供給法改善による多収栽培法確立
        (高収益・畑輪作−高品質大豆多収量栽培法の開発 特殊用途大豆の品質向上栽培技術の開発)
3.予算区分  補助(高収益・畑輪作)
4.研究期間  平成2年〜平成6年
5.担当  中央農試 環境化学部土壌資源科
      中央農試 畑作部畑作第一科
6.協力・分担  なし

7.目的
 北海道における大豆収量は、今だに220㎏/10a程度の低水準にあり低収益のため農家の生産意欲が削がれ作付け面積の減少が目立っている。したがって作付けの基本である輪作体系の維持にも困難をきたし、畑作物の収量や品質の低下を招く恐れがある。そこで、本課題では、道央地帯において400㎏/10a(生産者300㎏/10a)の多収技術について5年間に亘り検討した結果、ほぼ目標収量に達し得たので報告する。

8.試験研究方法
1)密植・N増肥試験
  試験地…農試(褐色低地土)、南幌(泥炭土)、岩見沢(泥炭土)京極(褐色低地土、褐色火山性土)
  主な処理(㎏/10a)…①標肥②N追肥5〜10③コーテングN5〜10×密度①標準植(8000株・2本立て)②密植
   (25000〜33000本1本立て)
  供試品種…極大粒白目種「ツルムスメ」、納豆用小粒種「スズマル」、中粒種「キタムスメ」(京極)
2)施肥位置改善試験
  試験地…農試(褐色低地土)
  主な処理…Nの条間施肥など

9.結果の概要・要約
1)密植・N増肥試験:各試験地の結果を収量指数でみると(表1〜3)、
  ①「ツルムスメ」の5年間12ケ所の平均では、標準植・標肥区を100とすると密植効果が112、N増肥効
   果が113、密植+N増肥効果が125(421㎏/10a)であった。
  ②土壌型別でみると、褐色低地土では密植効果が116、N増肥効果が118、密植+N増肥効果133
   (428㎏/10a)であった。また、泥炭土では密植効果、N増肥効果とも109で、密植+N増肥効果が119を示
   し、褐色低地土よりも何れの効果もやや低かった。
  ③「ススマル」の3年間5ケ所の平均では、密植効果が108、N増肥効果が110、密植十N増肥効果が
   115(332㎏/10a)を示し、「ツルムスメ」と同様な傾向が見られた。
  ④密植およびN増肥による増収した要因は、両品種とも主として莢数の増加によったが、密植により
   やや大粒化の傾向もみられた。
  ⑤「キタムスメ」については2年間(京極)結果であるが、密植効果は殆どなかったがNの増肥効果が118を
   示した。
2)施肥位置改善試験では、条間N増肥施肥法が比較的効果的であった。
3)大豆収量400㎏/10a生産するには、10a当たりのN集積量が30㎏程度とみられることから、根粒非着
 生種(TO-1-0)の利用から土壌由来Nと根粒固定N量を推定し、施肥N量の試算値を表5に示した。
 以上の結果から具体的な対応を下記に示した。

適用地域* 品種 目標収量〈㎏/10a) 栽植本数(本/10a) 土壌型 N増肥量**(㎏/10a)
石狩中・北部
空知
ツルムスメ 400 25,000〜
33,000
褐色低地土 10
スズマル 350 泥炭土 5〜10
羊蹄山麓 キタムスメ 370 16,000 褐色低地土 5〜10
*:及びこれらに準ずる地域
**:基肥は道標準量とし、硫安の場合は開花期頃に追肥する。
  また、コーテング肥料の場合は播種時に施用する。

 

10.成果の具体的数字

【1.密植・N増肥試験結果】

表1  ツルムスメ

H2(1990) H3(1991) H4(1992) H5(1993) H6(1994) 12





337.8*5
(100)
土壌型別平均値



















A



B
褐色
低地土
321.0
(100)
泥炭土
(無/泥含)
349.9
(100)


褐・低 低・泥 低・泥 褐・低 低・泥 褐・低 無/泥 褐・低 低・泥 褐・低 低・泥 無/泥



33.4*1 33.4 33.7 33.4 33.7 26.7 26.7 24.2 22.6 24.9 22.6 22.6      
382*2 374 350 459 433 325 310 290 434 408 376 391 377.7 372.8 381.1
116*3 102 113 131 101 118 121 104 116 109 109 107 112 116 109
N



N20*4 N10 N10 N20 N10 N10 N5 N10 N5 N10 N10 N10      
364 390 344 433 448 318 289 357 429 417 372 405 380.5 377.8 382.4
111 107 111 124 104 116 113 128 114 112 108 109 113 118 109



N


N10*4 N10 N10 N10 N10 N10 N5 N10 N5 N10 N10 N5      
423 388 360 527 478 389 347 357 451 443 430 457 420.8 427.8 415.9
129 106 117 151 111 141 136 122 120 119 125 123 125 133 119
*1:×1,000本/10a
*2:子実収量(kg/10a)
*3:子実収量比(標準値・標準比を100にした指数)
*4:kg/10a(硫安または緩効性窒素)
*5:標準値・標準肥の子実収量(100)
(  )内は指数
土壌型:褐・低−褐色低地土  無/泥−無機質/泥炭土  低・泥−低位泥炭土

 

表2  スズマル
年次 H4 H5 H6 5地点の
平均値
287.8
(100)
土壌型別平均値
試験地 農試 岩見沢A 岩見沢B 農試 農試 褐色低地土
312.0
(100)
泥炭土
251.5
(100)
土壌型 褐・低 低・泥 低・泥 褐・低 褐・低
密植効果 33.4 33.4 33.4 33.4 33.4      
313 256 274 298 420 312.2 343.7 265.0
109 103 108 110 112 108 110 105
N増肥効果 N10 N10 N10 N10 N10      
334 273 281 292 401 316.2 342.3 277.0
116 110 111 107 107 110 110 110
密植+
N増効果
N10 N10 N10 N10 N10      
354 284 308 292 420 331.6 355.3 296.0
123 114 121 107 112 115 114 118

 

表3  キタムスメ
年次 H5 H6 平均値
314.8
(100)
試験地 京極A 京極B 京極A 京極B
土壌型 褐・低 褐・火 褐・低 褐・低
密植効果 20.1 21.0 21.0 21.0  
206 202 380 446 308.5
92 103 92 105 95
N増肥効果 N5 N10 N10 N15  
282 228 480 490 370.0
125 116 116 116 118
密植+N増効果 N5 N10 N10 N10  
219 221 456 507 350.8
97 112 110 120 111

 

【2.施肥位置改善試験結果】

表4  Nの条間施肥効果(農試)
栽植密度 処理 H4 H6 平均 収量指数
茎長
(㎝)
根粒重
(g/㎡)
子実収量
(kg/10a)
茎長
(㎝)
根粒重
(g/㎡)
子実収量
(kg/10a)
茎長
(㎝)
根粒重
(g/㎡)
子実収量
(kg/10a)
60㎝×20㎝
2本立て
条施 52 21.7 275 42 7.4 318 47 14.4 297 100  
条施+条間N10 57 15.9 298 54 5.8 397 56 10.9 348 117  
〃  CN10 - - - 56 7.5 409 - - - -  
60㎝×6.7㎝
1本立て
条施 54 23.9 325 48 9.4 362 51 16.6 344 116 100
条施+条間N10 59 13.6 362 62 6.3 418 61 10.0 392 132 114
〃  CN10 - - - 66 9.2 406 - - - - -
N-硫安  CN-緩効性窒素(被覆)(kg/10a)

 

表5  大豆収量400kg/10a生産するためのN施肥量の試算値
土壌型\N 土壌-N*1
(kg/10a)
根粒-N*2
(N2固定量)
(kg/10a)
供給-N 400kg/10a得るための
N集積量(総吸収量)*5
(kg/10a)
堆肥*3
(1t/10a)
堆肥-N*4
(kg/10a)
褐色低地土 2 17 1 10 30
5 16 1 8 30
泥炭土 4 16 1 9 30
8 16 1 5 30
12 11 1 6 30
火山性土 3 13 1 13 30
7 12 1 10 30
*1:根粒非着生種の-N区N吸収量より
*2:標肥区(N1.5kg/10a)のN集積量-根粒非着生種のN集積量の差(基肥Nの分は利用率80%として標肥区集積量より差し引いた)
*3:化学肥料換算:現物1t当たりN1kgとした
*4:実際のN増肥分は硫安の追肥で80%利用率とすると、これより2割りとする
*5:落葉、根株は、回収しなかった

 

11.成果の活用面と留意点
 1)大豆の多収化によって、収益性が高まり輪作体系に導入されて、畑輪作の安定化がはかれる。
 2)密植効果は、気象条件や土壌条件によって変動が大きいので、過度の場合は不安定性が増大し減収す
  ることが考えられるので適正範囲を守る。
 3)Nの追肥(硫安)は、開花期よりも早く施用するとより茎葉の増大に働き、根粒着生を悪くする恐れがある。
 4)「スズマル」は、密植またはN増肥により大粒化することがある。
 5)作付けする圃場は、土壌診断基準値を遵守し、出芽の条件を整えておくことが前提となる。

12.残された問題点とその対応
 1)Nの最適施肥位置の改善とそれに対応する施肥播種機の開発
 2)強粘質土壌に対する出芽向上技術の実用化