成績概要書(平成7年1月)
1.課題の分類  総合農業 作物生産 冬作物 小麦Ⅱ−4 北海道 土肥・環 麦 畑作
2.研究課題名  小麦の低アミロ耐性の要因解析
          (高品質小麦の緊急開発低アミロ小麦の品質・生理特性)
3.予算区分  道費
4.研究期間  昭和63〜平成6年
5.担当  北海道立中央農業試験場 農産化学部 穀物利用科
      北海道立十勝農業試験場 研究部 作物科
      北海道立北見農業試験場 研究部 小麦科
6.協力・分担関係

7.目的
 低アミロ化しにくい品種(低アミロ耐性品種)の育成を目的に、成熟期前後のα−アミラーゼ活性の推移および穂発芽耐性の品種間差を把握し、今後求められる耐性程度を明らかにするとともにそのための効率的な検定法を検討する。

8.試験研究方法
1)成熟期前後のα−アミラーゼ活性の推移調査
  (1)α−アミラーゼ活性推移の類型化
  (2)アイソザイムと粒内分布、粘度への影響
2)成熟期のα−アミラーゼ活性調査
  (1)平成4〜6年十勝農試における活性
  (2)気象条件の影響
  (3)穂発芽耐性との関係
  (4)成熱期の早晩性の影響
3)成熟期以降の穂発芽耐性の検討
  (1)降雨処理
  (2)晩刈り

9.結果の概要・要約
1)成熟期前後のα−アミラーゼ活性の推移は気象条件に大きく影響され、同一品種・系統でも年次・場所に
 より推移は異なったが、およそ3つに類型化された。(表1)
  パターンⅠ…成熟期前は粒の尾部でグリーンα−アミラーゼの活性が高いが、成熟期にはほぼ低下し、
          その後も低く維持される。
  パターンⅡ…成熟期以降に降雨に遭うと水分が上昇し、穂発芽が発生するとともに、主として粒の頭部に
          モルトα−アミラーゼが活性化する。
  パターンⅢ…成熟期前後に尾部のグリーンα−アミラーゼが比較的高く維持され、さらに成熟期以降にモル
          トα−アミラーゼが活性化されるため、常に活性が高く維持される。

2)十勝農試の成熟期試料から、成熟期以前の低温・多湿が成熟期の高α−アミラーゼ活性に影響している
 と推測された。また、成熟期のα−アミラーゼ活性と成熱期以降の穂発芽小穂率との相関が低かったことか
 ら、両者は異なる形質と考えられる(図1)。したがって、今後は成熟期以降の穂発芽耐性とともに、
 成熟期付近のα−アミラーゼ活性についても検定する必要があると考えられる。

3)降雨処理の結果から、成熟期以降の穂発芽耐性に品種・系統間差が認められ、北見66号はチホクコムギ
 よりも1ランク耐性が強かった。また、現状の品種・系統で最も耐性の強いのは北系1354と考えられたこ
 とから、当面は北系1354並を目標とし、さらに強い品種の育成が必要である。

4)晩刈り試料調査から、穂発芽粒率が低い割に活性が高い品種・系統が認められた。また、穂発芽粒率と最
 高粘度の相関は低く、発生率の低い領域では両者の関係は判然としなかった(図2)

5)今後求められる低アミロ耐性として、①成熟期付近におけるα−アミラーゼ活性は2未満を維持する。②成
 熱期以降2〜3週間後に4日間の降雨でも穂発芽せず、α−アミラーゼ活性2未満が望ましい。

6)低アミロ耐性品種育成のための検定法として(表2)
 (1)成熟期におけるα−アミラーゼ活性
  ①十勝圃場の成熟期試料:登熟期の気象条件の厳しい十勝におけるα−アミラーゼ活性の測定。
  ②ポット試料の人工気象処理:登熟後半から人工気象室で低温・多湿処理を行う。
 (2)成熟期以降の穂発芽耐性
  ①成熟期後の降雨処理:成熟期の2〜3週間後に約4日間の処理(処理温度15〜20℃)が適当。
  ②晩刈り:年次・地帯間差が大きいために複数年の検討が必要である。
  ③評価法:いずれの方法においても、耐性の正確な評価のためには穂発芽だけでなく、α−アミラーゼ
   活性の測定が望ましい。

 

10.成果の具体的数字

表1  各パターンの成熟期前後のα-アミラーゼ推移
パターン 要因 以前 成熟期 以後
アイソザイム
存在部位
G
-
-
-
-
アイソザイム
存在部位
G
-
-
M(発芽)
アイソザイム
存在部位
G
G
(M)

(頭)
G(高維持)
M

注)G:グリーン、M:モルト、尾:粒の尾部、頭:粒の頭部、-:低活性を示す。

 

 

表2  低アミロ耐性の評価と検定法
要因 成熟期のα-アミラーゼ活性 成熟期後の穂発芽耐性
主要品種・
系統の評価
Lancer、Lewis:高
チホクコムギ:中〜高
北系1354:低
チホクコムギ、Lewis:弱
北見66号、ポロシリコムギ:中
Lancer:やや強
北系1354、Satanta:強
求められる耐性  登熟期が低温・多湿条件でも
2未満を維持
 成熟期の2〜3週間、4日程度の
連続降雨でも発芽せず、α-アミ
ラーゼ活性も2未満
検定法 ①十勝の成熟期試料
 
 
②ポット試料の人工気象処理
 成熟期前に低温多湿処理
 処理条件の確立
①成熟期の2〜3週間後に4日程
度の降雨処理(処理温度15〜20℃)
品種間差が大きくなるように運用
②晩刈り(成熟期の2〜3週間後)
③穂発芽とともにα-アミラーゼ活
性の測定が望ましい。

 

11.成果の活用面と留意点
 (1)本試験の結果は今後の低アミロ耐性品種の育成に活用できる。

12.残された問題点とその対応
 (1)α-アミラーゼの生化学的解析。
 (2)人工気象室を用いた成熟期のα-アミラーゼ活性検定法の確立。
 (3)主要品種、系統、母材の低アミロ耐性評価。
 (4)北系1354を上回る低アミロ耐性品種の育成。