1.課題の分類 総合農業 生産環境 土壌肥料 B−4 草地 飼料生産・利用 土壌肥料 3−3−1 北海道 化学 家草合同 2.研究課題名 根釧地域のチモシーを基幹とする火山灰草地における亜鉛及び銅の施肥反応 (火山性土草地における微量要素(Cu、Zn)の診断基準値の策定) 3.予算区分 補助(土壌保全) 4.研究期間 平成3〜5年 5.担当 根釧農業試験場研究部土壌肥料科 6.協力・分担関係 なし |
7.目的
根釧地域の火山性土に立地したチモシーを基幹とするマメ科草混播草地を対象に、土壌中の亜鉛および銅含量に基づく安全な施肥改善指針の対策を行う。
8.試験研究方法
1)根釧地域の草地における亜鉛および銅含量の実態
調査地点:未熟火山性土(別海町、標茶町、中標津町)
黒色火山性土(別海町・標茶町)
厚層黒色火山性土(標津町、浜中町、鶴居村)
灰色低地土(白糠町、厚岸町)
低位泥炭土(標津町、浜中町、釧路市)
調査対象:土壌および牧草
2)亜鉛および銅の施肥反応
供試土壌:未熟火山性土(中標津町養老牛、別海町西春別)
黒色火山性土(中標津町桜ケ丘、別海町中春別・別海)
厚層黒色火山性土(別海町中春別、標津町茶志骨・古多糠)
供試草地:チモシー単播草地、チモシー・シロクローバ混播草地、シロクローバ単播草地
試験処理:亜鉛施肥量0〜3.0㎏/10a5段階、銅施肥量0〜5.O㎏/10a8段階
3)堆厩肥の施用に伴う亜鉛および銅の供給量
供試土壌:黒色火山性土(根釧農業試験場内)
供試草地:チモシー・シロクローバ混播草地
試験処理:堆厩肥無施用、春または秋4t連用
9.結果の概要・要約
1)根釧地域の草地における亜鉛および銅含量の実態
亜鉛では土壌、牧草体いずれの含量にも明らかな土壌間は認められなかった、一方、土壌中の0.1N塩酸
可溶性銅含量は厚層黒色火山性土で他の火山性土よりも低い傾向が認められた。
2)亜鉛および銅の施肥反応
〝収量の向上を目的とした施肥対応〟
亜鉛、銅のいずれの要素でも施肥による増収効果が判然とせず、施肥を必要とする領域を設定できな
かった。
〝牧草体亜鉛含量の向上を目的とした施肥対応〟
(1)いずれの火山性土でも10a・0〜5㎝の体積の土壌中における0.1N塩酸可溶性亜鉛含量が同じで
あれば、牧草体亜鉛含量は同程度であり、土壌中の0.1N塩酸可溶性亜鉛含量から牧草体亜鉛含
量を推定できた(表1)。
(2)牧草体亜鉛含量は生育の進行に伴って減少した。0.1N塩酸可溶性亜鉛が0〜5㎝土層中に1.5
㎏/10a以上含有されると、生育初期のシロクローバにおける亜鉛含量は乳牛に対して過剰の懸念
される領域に近づいた(図1)。
(3)1㎏/10aの亜鉛施肥は、0.1N塩酸可溶性亜鉛を1㎏/10a・0〜5㎝以上に高める可能性があるので、
1回当たりの亜鉛施肥量は0.5㎏/10a以内とすることが適当と考えられた(図2)。
(4)以上により、草地に対する亜鉛の施肥対応を、乳牛からの要求量を考慮して表1のように設定した。すな
わち、牧草体亜鉛含量を向上させるためには早刈りや放牧を活用することを優先する。亜鉛の施肥は
土壌中の0.1N塩酸可溶性亜鉛含量が0.5㎏/10a・0〜5㎝未満の草地に限り、0.5㎏/10a・年
を上限とする(表1)。
〝牧草体銅含量の向上を目的とした施肥対応〟
(1)出穂期に収穫した牧草全体で乳牛の要求量とされる10ppmの銅含量を確保することは困難であった。
土壌中の0.1N塩酸可溶性銅含量が同程度でも、厚層黒色火山性土における牧草体銅含量は未熟火山
性土よりも高かったので、0.1N塩酸可溶性銅含量による牧草体銅含量の推定は火山性土ごとに
行った(表2)。
(2)牧草体銅含量の頭打ちが認められる領域まで土壌中の銅含量を高めるためには、未熟、黒色および
厚層黒色火山性土でそれぞれ0.5、1.0および1.5㎏/10aの銅施肥量を要した(図2)。
(3)牧草体銅含量は生育の進行に伴って明らかに低下した。銅を3㎏/10a施肥すると生育初期のチモシー
における銅含量は乳牛に対して過剰が懸念される領域に近づいた(図1)。
(4)以上により、草地に対する銅の施肥対応を乳牛からの要求量を考慮して表2のように設定した。牧草
体銅含量を向上させるためには早刈りや放牧を活用することを優先する、銅の施肥は土壌中の0.1N
塩酸可溶性銅含量が未熟火山性土では2ppm、黒色火山性土および厚層黒色火山性土では1ppm未満の
草地に限り未熟、黒色、厚層黒色火山性土の順に0.5、1.0および1.5㎏/10a・年を上限とする(表2)。
3)堆厩肥の施用に伴う亜鉛および銅の供給量
(1)根釧地域の堆厩肥現物1tには概ね亜鉛が30g、銅が7g程度含有されている実態があった。
(2)牧草による亜鉛および銅の収奪量はそれぞれ約50〜80および5g/10a・年であり、堆厩肥1〜2t/10a
に含有される量にほぼ等しいと考えられた。堆厩肥4t/10aを3年間連用することにより、土壌および牧草体
亜鉛含量の向上に効果が認められた。しかし、銅では堆厩肥に含まれる量が少なすぎるため、短期的な
改善対策としての堆厩肥の連用は現実的でないと考えられた。
表1 牧草体亜鉛含量の向上を目的とした亜鉛の施肥対応
土壌中の 亜鉛含量 区分 |
土壌中の0.1N塩酸可溶性Zn含量 kg/10a・0〜5㎝ |
牧草体亜鉛含量の 推定値*ppm |
亜鉛の施肥対応 | |||
1番草 | 2番草 | |||||
TY | WC | TY | WC | |||
A | 0.5未満** | 25 | 30 | 45 | 45 | 牧草体亜鉛含量の向上のためには、放牧、 早刈りなどの対応を優先する。亜鉛の施肥 は、区分Aの草地に限り、0.5kg/10a・年を 上限とする。 |
B | 0.5〜1.0 | 30 | 40 | 50 | 55 | |
C | 1.0〜1.5 | 35 | 60 | 55 | 65 |
表2 牧草体銅含量の向上を日的とした銅の施肥対応
土壌中の 銅含量区分 |
2番草刈取跡地土壌における 土壌中の0.1N塩酸可溶性Cu含量 ppm |
牧草体銅含量の 推定値*ppm |
銅の施肥対応 | |||
1番草 | 2番草 | |||||
TY | WC | TY | WC | |||
A | 未熟火山性土 2未満 黒色・厚層黒色火山性土 1未満 |
4 | 6 | 5 | 10 | 牧草体銅含量の向上のためには、放牧、 早刈りなどの対応を優先する。銅の施肥 は、区分Aの草地に限り、未熟、黒色、厚 層黒色火山性土の順にそれぞれ0.5、1.0、 1.5kg/10a・年を上限とする。 |
B | 未熟火山性土 2以上 黒色・厚層黒色火山性土 1以上 |
5 | 10 | 6 | 12 |
11.成果の活用面と留意点
(1)牧草体の亜鉛および銅含量の向上には、早刈りや放牧などの利用法による対策を優先する。また、マメ
科草の亜鉛および銅含量はチモシーよりも高いので、マメ科草を良好に維持することにも配慮する。
(2)草地に亜鉛または銅を施肥する場合には、土壌だけでなく牧草体含量も確認の上、均一に散布する。ま
た、施肥後にも土壌診断を行い、土壌中の含量を確認する。原則として連用は行わない。
(3)土壌のpHは土壌診断基準値内にあることを前提とする。
12.残された問題点とその対応
(1)牧草収量を規制する亜鉛および銅含量の把握
(2)施用された亜鉛および銅の拮抗作用等の動態解明