成績概要書(作成 平成7年1月)
1.課題の分類  総合農業 生産環境 土壌肥料 北海道
2.研究課題名  北海道の水田土壌における化学性の現状と地域別評価
          (北海道米の食味向上技術の開発試験)
3.予算区分  道単
4.研究期間  平成3年〜平成8年
5.担当  上川農試   土壌肥料科
      中央稲作部 栽培第一科
      道農政部   農産流通科
6.協力・分担関係

7.目的
 道内各地の水田作土を採取、分析することにより、化学性の現状と地域別特性を明らかにし、もって良食味米生産のための適切な土壌管理に資する。

8.試験研究方法
(1)供試試料(水田作土)
 採取年次…平成2年〜平成6年、採取地点…1578カ所、農協数…162農協
(2)分析項目
 PH(H20.KCl)、Y1、培養窒素、ブレイ2りん酸、交換性(加里、石灰、苦土)、培養けい酸、遊離酸化鉄、易還元性マンガンの化学分析を行った。なを分析法は「土壌及び作物栄養診断基準」によって実施した。

9.結果の概要・要約
 北海道の水田土壌における化学性の現状と地域別評価は良食味米の生産に必要な土壌改良、肥培管理技術を確立する基礎となる。このため全道水田1578ヶ所の作土を採取・分析し、これを基に化学性の現状と地域別評価を行った。その結果を以下に要約する。
(1)PH(H20)は4.5〜6.9の範囲に分布しており、平均値5.5、変異係数6.1%であった。交換酸性を示すY1は0.1
 〜61.3の範囲に分布しており、平均値5.5であった。PH(H20、KCl)、Y1はいずれも道診断基準値の下限を
 50%が下回る酸性土壌であることが明らかとなった。(表1)
(2)培養窒素は0.1〜29.3㎎/100gの範囲に分布しており、平均値9.9㎎/100gであった。(表1)
(3)ブレイ2りん酸の平均値は50㎎/100gで道診断基準の5倍となっており、肥沃であることが明らかとなっ
 た。(表1)
(4)交換性加里の平均値は23.1㎎/100gでありやや肥沃であると考えられた。交換性石灰の平均値は198.5
 ㎎/100gとかなり低い値であった。交換性苦土の平均値は57.4㎎/100gでありやや肥沃と判断された。
 また石灰・苦土比、苦土・加里比はそれぞれ2.49、5.81で診断基準を満たしていた。しかし、交換性苦土は地域
 地域により大きな偏りがあり、25mg/100g以下の所も多く認められた。(表1)
(5)培簑けい酸(湛水保温静置法)は3.4〜29mg/100gの範囲に分布し、平均10.3mg/100gであり、10mg/100g以
 下の割合が51%あった。これは水稲に対する有効態けい酸が大きく欠乏していることを示すものであっ
 た。(表1)
(6)水田土壌中の遊離酸化鉄は0.42〜10.62%の範囲に分布しており、平均値は1.86%であった。遊離酸化鉄は
 道診断基準の1.5%以下が45.5%あリ、きわめて低いと判断された。易還元性マンガンは15〜2272ppmの範囲
 に分布しており、平均値278.1ppm、変異係数73.3%であった。道診断基準の下限値100ppm以下は15.4%
 あった。(表1)
(7)水田土壌における化学性の地域別評価を行い、さらに全道3次メッシュ(1㎞四方)地図で示した。その結果、
 地域や土壌型によって水田土壌の化学性は大きな偏りが存在した。(表2,3)
(8)以上のことから、北海道の水田土壌はりん酸を除く養肥分の乏しい水田が多く、①特に、けい酸供給カは極
 めて低いと判断された。また、還元容量に関連する遊離酸化鉄及ぴ易還元性マンガンが低い水田が多く存在
 し、②この傾向は老朽化を示すものと判断された。
 従って、良食味米生産のためには①及ぴ②について今後重点的に改善すぺきと思われた。

 

10.成果の具体的数字

表1  道内水田土壌(作土)の化学性
項目 全点数
平均値
分布
(最低最高)
変異係数 基準値以下の割合
(%)
PH(H20) 5.53 4.5〜6.89 6.1 49.68
PH(KCL) 4.38 3.4〜5.53 6.92 67.68
Y1 5.45 0.1〜61.3 102.1 (29.89)
培養窒素(mg/100g) 9.86 0.1〜29.3 54.9 37.31
プレイ2リン酸(mg/100g) 49.99 0.4〜275 60.9 3.55
交換性加里(mg/100g) 23.09 5.9〜224.1 52.7 21.17
交換性石灰(mg/100g) 198.46 51〜540 35.8 26.00
交換性苦土(mg/100g) 57.37 8〜332 62.4 12.80
培養けい酸(mg/100g) 10.34 3.4〜29 32.5 51.02
培養酸化鉄(%) 1.86 42〜10.62 58.18 45.80
易還元性マンガン(ppm) 278.07 15〜2272 73.3 15.40
注) Y1の( )内は基準値以上の数値

 

表2  分析値の地帯区分別評価
地帯区分 地帯名 けい酸 酸化鉄
1 桧山地
2,3 北渡島他
4 日高他
5 後志他
6 留萌南部他
7 石狩他
8 空知北部他
9 上川中南部他
10 上川北部他
11 留萌北部他
13,14 北見他

 

表3  土壌区分別集計表(補完データを含むメッシュ平均値)
項目 火山性土系 台地土系 褐色低地土 灰色低地土 グライ土 泥炭土系
PH(H20) 5.75 5.57 5.55 5.56 5.56 5.55
PH(KCL) 4.54 4.35 4.38 4.31 4.36 4.40
Y1(交換酸度) 4.04 6.28 5.67 7.48 5.86 4.96
培養窒素(mg/100g) 8.1 11.9 9.9 10.6 13.2 11.3
プレイ2リン酸(mg/100g) 48.5 43.6 46.4 44.6 42.1 44.9
交換性加里(mg/100g) 18.3 23.6 23.2 23.5 24.5 24.4
交換性石灰(mg/100g) 234 207 202 220 216 251
交換性苦土(mg/100g) 49.5 51.8 45.4 61.6 64.8 76.3
培養けい酸(mg/100g) 12.0 8.9 9.8 10.4 10.2 11.9
遊離酸化鉄(%) 1.18 1.71 1.63 1.81 2.14 1.67
易還元性マンガン(ppm) 151 292 265 240 267 226

 

11.成果の活用面と留意事項
 (1)良食味米の生産には水田土壌の欠点を適確に捉え、これを改良することが重要であり、化学性の現
  状と地域別評価はこれを指導するのに参考となる。
 (2)本道の水田地帯はきわめて広範であるため多くの土壌が分布しており、また基鯉整備、肥培管理な
  どの前歴の異なるものが含まれるため個々の農家圃場に対しては土壌診断を実施し対応する。
 (3)土壌診断に用いる分析法は「土壌および作物栄養の診断基準」(1992年、道立中央農試、農業改良課)に
  よって実施するが、培養けい酸(温水静置法)は付表を参考とする。

12.残された間麗とその対応
 (1)土壌の化学性と食味特性の関係についての解明とそれに基づく診断基準値の見直し。
 (2)抽出率の高い養肥分3次メッシュ地図の作成と、これによる水田作土の実態評価。
 (3)本道水田土壌の化学性に対する合理的な改良対策の確立。