成績概要書(平成7年1月)
1.課題の分類
2.研究課題名  北海道における各種酸性硫酸塩土壌の区分、分布および性状
3.予算区分  土地改良事業費
4.研究期間  昭和63年度〜平成5年度
5.担当  開発土木研究所土壌保全研究室
6.協力・分担関係  なし

7.目的
 酸性硫酸塩土壌はa)イオウ化合物により強酸性を呈するか、酸化すると強酸性を呈するようになる土壌である。そして一般にb)海沿いの低平地あるいは干拓地など現世に生成した土壌である。しかし、近年a)の条件を満たすが、b)の条件を満たさない酸性硫酸塩土壌が北海道の各地で見出され、時には農業上の被害が発生している。このため、成因などによって、酸性硫酸塩土壌を区分し、その分布と性状を明らかにする必要がある。

8.試験研究方法
 道内の農業基盤整備事業などの大規模な土地改変施工地や客土の土取場などの露頭や切土法面で、原則として断面調査を行い、各層位毎に試料を採取し分析した。なお、新鮮試料の水によるpH、あるいは過酸化水素水処理後のpHが3.5以下の試料を酸性硫酸塩土壌とした。

9.結果の概要・要約
《Ⅰ.成因および生成年代による区分》…表-1
 道内で見い出される酸性硫酸塩土壌はイオウの起源により海成層のものと火山性のものに大別される。
前者はその生成した地質年代により、後者は火山活動の種類により、それぞれ、2つに細分される。
(1)海成酸性硫酸塩土壌:海水(汽水)に由来するイオウ化合物を含む酸性硫酸塩土壌
 ①現世海成酸性硫酸塩土壌→海沿いの低平地などに存在し、、現世に生成したもの。
 ②化石的海成酸性硫酸塩土壌→洪積層および第三紀層に存在し、これはそれぞれの地質年代において、
  海沿いの低平地などで生成し、その後の陸化により化石のように地中に保存され、切土などにより
  出現するもの。
(2)火山性酸性硫酸塩土壌:火山活動に由来するイオウ化合物を含む酸性硫酸塩土壌
 ①火山砕屑物酸性硫酸塩土壌→イオウ化合物を含有する火山砕屑物を母材とするもの。
 ②熱水変質酸性硫酸塩土壌→イオウ化合物を含む熱水により変質して生じたもの。

《Ⅱ.各種酸性硫酸塩土壌の分布》…図-1
(1)海成酸性硫酸塩土壌
 ①現世海成酸性硫酸塩土壌は共和町の沖積層(地点№1)で見いだされている。
 ②化石的海成酸性硫酸塩土壌は道内の各地の洪積層および第3紀層から見いだされており、その分布域
  は石狩低地帯から日本海北部沿岸にかけての地域(R1)、十勝平野から根釧台地にかけての地域(R2)、
  オホーツク海沿岸の台地(R3)および渡島半島のいくつかの地域(R4)であり、新生代の海成層に
  広く分布する。
(2)火山性酸性硫酸塩土壌
 ①火山砕屑物酸性硫酸塩土壌は大正15年に発生した十勝岳泥流(地点№31)として見いだされている。
 ②熱水変質酸性硫酸塩土壌は小樽市の変朽安山岩(地点№33)および蘭越町の賀老山安山岩溶岩(地点
  №32)であり、いずれも安山岩を母岩とするもののみ見いだされている。

《Ⅲ.各種酸性硫酸塩土壌の性状》…表-2;3
(1)生物が関与して生成した化石的海成酸性硫酸塩土壌の炭素含量は1%前後で、無機的に生成した熱水
 変質酸性硫酸塩土壌の0.1%以下よりも高い。
(2)熱水変質酸性硫酸塩土壌の全−S含量と過酸化水素水に可溶なS含量は化石的海成酸性硫酸塩土壌に
 比べ高いものが多い。このため、週酸化水素水処理後のpHも低いものが多く、その被害も甚大になる
 可能性が大きい。
(3)化石的海成酸性硫酸塩土壌の粒径粗成は細粒質なものだけでなく、粗粒質なものも存在する。
(4)化石的海成酸性硫酸塩土壌の土色は還元状態に特有の色を呈するが、この土色を呈する土層の全てが
 酸性硫酸塩土壌に該当するということではない。したがって、酸性硫酸塩土壌の判定には過酸化水素水
 による酸化後のpHを測定する必要がある。
(5)化石的海成酸性硫酸塩土壌の同一地層内での分布はかなり不均一である。

10.成果の具体的数字

表1  酸性硫酸塩土壌の区分
イオウの起源 大区分 細区分 分布地
海水(汽水) 海成酸性硫酸塩土壌 現世海成酸性硫酸塩土壌 現世の海成層
化石的海成酸性硫酸塩土壌 洪積世、第三紀の海成層
火山活動 火山性酸性硫酸塩土壌 火山砕屑物酸性硫酸塩土壌 火山砕屑物
熱水変質酸性硫酸塩土壌 熱水変質物

 

 

表2  2種類の酸性硫酸塩土壌の性状(上段:平均、下段:範囲)
種類 試料数 全-S(%)*1 H2O2-S(%)*2 C(%) pH(H2O2)*3 土性
化石的海成酸性硫酸塩土壌 19 1.16
0.28〜4.47
0.65
0.11〜1.52
1.0
0.4〜1.6
2.69
1.84〜3.71
 
HC,LiC,CL,SL,L
熱水変質酸性硫酸塩土壌 11 4.61
0.30〜8.47
2.04
0.14〜4.33
0.0
0.0〜0.1
1.99
1.45〜2.68
 
*1:逆王水可溶イオウ、*2:過酸化水素水処理により溶出するイオウ、*3:過酸化水素水処理後のpH

 

表3  化石的酸性硫酸塩土壌と同様な色を呈する試料の性状
露頭 調査対象 特定の色を呈する試料
深度(m) 試料数 試料数 全-S(%) pH(H2O2)
A 1〜40 8 4(1) 0.01〜0.42 3.13〜6.39
B 1〜41 3 3(2) 0.02〜0.58 3.01〜6.51
C 1〜26 8 5(3) 0.02〜0.75 2.55〜6.51
D 1〜27 8 1(0) 0.02 6.44
( )内は酸性硫酸塩土壌に該当する試料数

 

11.成果の活用面と留意点
 (1)地形や地層の異なる各地で酸性硫酸塩土壌が見いだされてきたが、本成果はそれらを成因などによ
  り包括的に分類するものであり、各区分毎に分布地域も規定される。また、酸性硫酸塩土壌は独特な
  土色を呈する。このような概念(分類法)の導入や土色判定から、酸性硫酸塩土壌の存否の予測も容易
  になる。このため、この成果は農業基盤整備において、本土壌による被害の未然防止に有効である。
 (2)同一地層内でも酸性硫酸塩土壌の分布は不均一であるため、酸性硫酸塩土壌の最終判定には、過酸
  化水素水による酸化後のpHを測定する必要がある。
 (3)感潮河川・湖沼域の底泥は現世海成酸性硫酸塩土壌に該当する場合が多いので、これらの客土材な
  どとしての浚渫・利用に際しては事前に調査を必要とする。

12.残された問題点とその対応
 (1)酸性硫酸塩土壌の分布地は今後の調査などにより、さらに増加すると考えられるが、それらを面的
  な広がりを有する地図情報として表現することが望まれる。
 (2)将来、上記の区分に該当しない酸性硫酸塩土壌(火山噴気酸性硫酸塩土壌、硫酸含有水かんがい酸
  性硫酸塩土壌)が見いだされる可能性がある。