成績概要書(作成平成7年1月)
1.課題の分類  総合農業 生産環境 土壌肥料 5−2 北海道 土肥・環
2.研究課題名  衛星リモートセンシングにより推定した冷害年の水稲収量区分図
          (リモートセンシング技術等による作物・環境情報の効率的把握と情報処理手法の高度化)
3.予算区分  補助(地域重要新技術)
4.研究期間  平成5年〜7年
5.担当  中央農試企画情報室情報課 環境化学部土壌資源科
6.協力・分担関係  宮城県、福井県、石川県、広島県

7.目的
 これまで、収量調査は多大の労力を要する手作業であり、市町村レベルより詳細な収量データの収集は困難であった。衛星リモートセンシングは、広域の面データを反復して取得することができ、かつ、解析結果がデジタルデータとして出力されるために、コンピュータ上で、気象や土壌情報との重ね合わせが容易におこなえるという利点をもっている。本試験では、衛星リモートセンシングによる水稲収量の推定手法を開発し、作物収量と栽培環境との関係解析に役立てることを目的とした。

8.試験研究方法
(1)対象地域・使用データ
 本道の主要な稲作地帯である石狩川下流域を対象とし、全道の水稲栽培面積の約50%をカバーした。衛星データとしては1984年、1986年および1992年のランドサットTMデータ、1993年のMOS-1/MESSRデータを用いた。いずれも撮影時期は9月である。水稲を識別するための補助データとして、春先の衛星データを併用した。収量の地上データとしては、農林水産統計の市町村別データを用いた。
(2)解析方法
 9月と春先の衛星データを用いて2時期の反射の違いから画像上で水稲を識別した。衛星データから得た、水稲の波長別の反射値を市町村別に集計した。市町村統計収量と波長別反射値の関係式を求め、式に基づいて収量推定図を作成した。収量推定図の応用事例として、収量分布とメッシュ気象データとの関係を検討した。

9.結果の概要・要約
(1)1984年、1986年、1992年の3カ年について、収量を目的変数、TM2、TM4の反射値および正規化植生指数NDVI:(TM4−TM3)/(TM4+TM3)を説明変数とした重回帰式をあてはめ、1984年および1992年について寄与率7割をこえる回帰式を得た。
(2)豊作年の1984年および1986年には、統計収量が550㎏/10a以上の市町村では推定収量が過少評価となることが認められた。
(3)1993年については、MESSR1(緑)およびMESSR2(赤)の反射値が収量と高い相関を示した。1993年のように不稔の発生により減収となる型の冷害年には、赤波長の反射値による収量の推定が有効であると考えられた。
(4)以上、9月の衛星データを用いた冷害年の水稲収量推定および収量区分図作成が可能であった。また、収量推定に有効な波長には、ある程度普遍的な組み合わせが存在した。
(5)メッシュ化した月平均気温と収量の相関は1992年には6月に、1993年は7月にもっとも高かった。美唄市以南に限ってみれば、6、7、8月のいずれの気温も両年次の収量と正の相関を示した。1993年には収量と7月下旬の気温の間にはきわめて高い正の相関がみられた。

10.主要成果の具体的数字

表1  市町村統計収量と各バンド反射値の相関
年次 市町村数 各バンド反射値と収量の相関係数
TM1(青) TM2(緑) TM3(赤) TM4(近赤外) NDVI(正規化植生指数)
1984年 21 -0.33 -0.44 0.22 -0.30 -0.32
1986年 30 0.37 0.39 0.40 0.51* -0.09
1992年 27 -0.79* -0.20 0.56* 0.34 -0.57*
  MESSR1(緑) MESSR2(赤) MESSR4(近赤外) NDVI
1993年 29   0.93* 0.93* 0.69* -0.81*
NDVI=(TM4-TM3)/(TM4+TM3)または(MESSR4-MESSR2)/(MESSR4+MESSR2)
*1%水準で有意なもの

 

表2  TM2,TM4,NDVIを用いた重回帰式による収量推定
年次 市町村数 収量推定式* 寄与率(R2) RMSエラー**(kg/10a)
1984年 14 Y=-46.6TM2+18.2TM4-2420NDVI+1500 0.79 9
1986年 20 Y=-18.3TM2+10.5TM4-1360NDVI+ 826 0.82 10
1992年 27 Y=-93.2TM2+18.5TM4-4110NDVI+3605 0.87 13
1984年、1986年は統計収量≦550kg/10aの市町村が対象、*Y:推定収量(kg/10a)
**推定残差の平方和をデータ数で除した値の平方根

 

 

11.成果の活用面と留意点
 (1)収量推定の単位を圃場単位にまで小さくすると、推定誤差が大きくなることが予想されるので、推定
  収量は500mメッシュに平均化したものを示した。
 (2)作成された収量区分図は、印刷物や画像データとして配布が可能である。

12.残された問題とその対応
 (1)収量が550kg/10aを越える領域での収量推定方法(次年度検討予定)。
 (2)刈り取り前の収量予測方法の検討。