成績概要書(平成7年1月)
1.課題の分類
2.研究課題名  道内の農耕地から発生する温室効果ガス ①畑における亜酸化窒素(N2O)の発生実態
          "クリーン農業実現のための環境保全機能の把握と活用
                           −農耕地におけるガス発生実態と抑制技術確立−"
3.予算区分  補助(土壌保全)
4.研究期間  平成3年〜6年
5.担当  中央農試環境化学部環境保全科
      道南農試研究部土壌肥料科
6.協力・分担  なし

7.目的
 道央・道南地帯の畑におけるN2Oの発生実態を明らかにするため。各地の標準栽培圃場でN2Oの定点観測を実施し、さらに窒素肥料との関連も検討した。

8.試験研究方法
1)試験内容
 (1)培養試験…瓶培養法で土壌タイプ・pH・温度・水分および窒素施与量の影響を検討した。
 (2)定点観測…標準栽培圃場7地点(栗山町、長沼町、千歳市、函館市、大野町)で生育期間中の発生
         量を測定。
 (3)窒素施肥試験…ハクサイ、タマネギ、馬鈴薯畑で、数種の緩効性窒素肥料を中心に窒素処理が発生に
            及ぼす影響を検討した。
2)調査法:チャンバー法でガスを採取し、ECD付ガスクロマトグラフでN2Oをその日のうちに分析した。

9.結果の概要・要約
【培養試験】
1)N2Oの発生量は土壌タイプ、pH、温度、水分および窒素施与で異なっていたが、とくに窒素施与量の影
 響は著しく大きかった(図1)。いずれの試験でもN2Oは主に硝酸化成の過程から発生していたと考えら
 れた。
2)土壌pH5〜6.5の範囲内ではN2Oの発生量に大差がなかった(図1)。また。N2Oの発生量は積算温度の
 関数で表示され、2次曲線上にほぼプロットされた(図1)。
【定点観測】
3)標準栽培圃場におけるN2Oフラックスは数個のピークを伴う季節的変動を示したが、このパターンは各
 観測地点および年次で異なっていた(図2)。また、フラックスと土壌環境要因との対応関係は必ずしも明確で
 はなかった。しかし、平均値でみると、N2Oの発生は窒素施肥量や土壌中の無機態窒素含量と有意な
 正の相関が認められた(図3)。
4)調査期間中のN2Oの積算発生量および平均フラックスは、道央地帯では10a当たりそれぞれ74〜1,072
 gN、18〜396㎎Nhr-1で、同じく道南地帯の29〜393gN、26〜86㎎Nhr-1よりも大きかった(表1)。両地帯
 のN2O発生量は本州と比べて少なくはなかった。
【窒素施肥試験】
5)N2Oの発生は窒素施肥量が少ないと減少した。さらに。緩効性窒素肥料のN2O発生に対する抑制
 的効果は認められたが、その効果はいつも発現されるとは限らず、また緩効性窒素肥料の種類によっても
 異なっていた(図4、表2)。
6)N2Oの抑制は減肥や適切な緩効性窒素肥料の利用などの窒素管理で可能であると考えられたが、技
 術化のためには、事例数を増やし、抑制効果の発現する条件を明らかにしていくことが必要である。また、
 肥効や圃場からの窒素流出も含めて考えることの重要性も指摘した。

 以上のように、道央・道南地帯の畑におけるN2Oは季節および年次変動を示しながら発生しているが、その調査期間中の積算発生量は10a当たり29〜1,072gN、同じく平均フラックスは18〜396㎎Nhr-1の範囲内であったことを明らかにした。また。N2Oの発生は窒素施肥の影響を大きく受けていたため、窒素管理はN2O抑制の有効な対策の一つであると考えられた。

 

10.成果の具体的数字

 

表1  標準栽培圃場からのN2Oの発生量(定点観測)
  道 央 地 帯 4) 道 南 地 帯 5)
放未熟(千歳) 黒色火(長沼) 褐色低
(長沼)
灰色低(栗山) 褐色低
(大野)
褐色低
(大野)
厚黒火
(函館)
1992 1993 1994 1992 1993 1994 1992 1993 1992 1993 1994 1993 1994 1993 1994 1993 1994
窒素施肥量1) 8 7 18 12 8 3 22 15 22 22 22 10 10 8 8 11 11
積算発生量2) 122 84 470 816 182 74 756 144 1,072 683 506 29 67 290 236 373 393
平均フラックス3) 40 18 113 131 50 22 396 42 193 176 119 34 26 71 53 86 61
1)‥kgN10a-1
2)‥gN10a-1
3)‥mgN10a-1hr-1
4)‥放未熟:火山放出物未熟土,黒色火:黒色火山性土,褐色低:褐色低地土,灰色低:灰色低地土
5)‥厚黒火:厚層黒色火山性土

 

表2  緩効性窒素肥料施与畑からのN2Oの発生量
  タマネギ(22kgN10a-1施肥,栗山町) 馬鈴薯(8㎏N10a-1施肥,大野町)
1992 1993 1994 1994
標準 硝化抑3) 標準 被覆4) 標準 被覆 標準 硝化抑 化合性5)
積算発生量1) 1,072 280 683 730 506 749 236 235 221
平均フラックス2) 193 64 176 157 120 170 53 51 49
1)‥gN10a-1
2)‥mgN10a-1hr-1
3)‥硝化抑制材入り肥料
4)‥被覆肥料
5)‥化学合成緩効性肥料

 

11.成果の活用面と留意点
 本成績はN2Oの抑制技術を確立するための基礎資料である。

12.残された問題点とその対応
 ①N2Oを抑制する窒素施肥法の開発
 ②水田、草地からの発生量把握
 ③発生予測式の開発
 ④全道のN2O発生マップの作成
 なお、抑制技術確立の際には肥効や圃場からの窒素流出も考慮する必要がある。