成績概要書(作成 平成7年1月23日)
1.課題の分類  総合農業 作業技術 小麦 北海道 農業作物 収穫・乾燥
2.研究課題名  小麦の穂収穫乾燥技術
3.予算区分  受託
4.研究実施年度・研究期間  完 平成6年度(平成4〜6年)
5.担当  道立十勝農試研究部農業機械科
6.協力・分担関係  道立北見農試研究部小麦科

7.目的
 小麦の穂発芽の発生や低アミロ化による品質低下を避けるには、成熟期の小麦(子実水分が、35〜45%)を、穂のまま刈取り乾燥する方法が、品質・形質・色沢の面から有効であることが判明した。そこで新たに高水分小麦を穂刈り収穫して、乾燥・調製を一貫して行う。省力機械化収穫乾燥体系を確立して、実用化技術体系に組み立てる。

8.試験研究方法
 (1)試験期日・場所:平成4年〜6年十勝農試圃場及び実験室、芽室町
 (2)供試品種:秋小麦「チホクコムギ」
 (3)穂収穫機:汎用軸流コンバイン刈幅2.6m(穂収穫用改造)
 (4)搬送・運搬:牽引式エレベータ(エンジン付き)、ダンプトラック(7m3
 (5)乾燥機:無加温 平型静置乾燥機(開孔率5%)
             平床用ダクト通風装置(図1)送風機:250m3/min(静圧50㎜Aq)
             (間口4.5m×奥行5.4m×高さ2.7m、容量:60m3=0.8〜1ha)場内設置
 (6)試料採取方法:成熟期(出穂期から推定)より経過日数毎
  ①乾燥方法 加温、無加温通風乾燥、対照区;子実収穫乾燥、雨避けはさ架乾燥
  ②調査項目 生育収量、収穫特性(収穫損失組成)、乾燥特性(乾燥速度、粒色、損傷)
           作業能率、発芽率、品質評価(アミロ値、粉色、CGV:北見農試)

9.結果の概要・要約
1)穂収穫法
  汎用軸流コンバインを供試して高刈し、排わら口から末脱穂を排出させ、牽引式エレベータで運搬車に積載
 する方法で収穫特性を検討した。機内での脱粒を防止するためフィーダコンベヤのスラット本数を減らし硬質
 ゴムを張り付け、シリンシダ入口開度を拡大する等の簡易な対応を行った結果(表1)未脱穂の回収率は83%
 以上となることが明かとなった。また、汎用コンバインでは刈取り部での脱粒損失は極めて少なく、落ち穂損
 失は、付着稈長が13.3㎝で7.1%、18.4㎝で2.3%であり、付着稈長が15㎝以上で圃場総損失は4%以下であ
 り、穂収穫が可能であることが明かとなった(表2)。
2)作業能率
  汎用コンバインでの穂刈り作業能率は運搬車(7m3)1台で0.33ha/hであった。運搬時の容積重は
 0.18t/m3であった(表3)。
3)穂乾燥法
  常温堆積乾燥装置(平型静置乾燥機:開孔率5%)を供試して無加温通風乾燥を行った結果、稈付
 穂の子実の乾燥速度は常温堆積通風で0.3〜0.4%/h(風量比2.5m3/s-t)であった。実用化を想定した風
 量比1.9m3/s-tの堆積乾燥装置(通風ダクト開孔率3%)に1.5m堆積し、穀層通過風速0.2〜0.3m/sで乾燥し
 た結果、稈と穂の水分は24hで20%以下に乾減し、子実水分は通風から100時間で25%前後となり、乾燥速
 度は0.15%/hであった。部位別の乾燥経過は概ね均一であることから、ダクト方式の無加温堆積乾燥法で
 は、風量比2m3/s-tが必要条件といえる。
4)品質特性
  穂収穫した小麦は同時期コンバイン収穫小麦に比較して、品質で上回ると判断された。外観品質では、穂収
 穫乾燥区の子実表面に白濁やしわが少なく「粒張り」程度で検査等級が上回った。アミロ粘度や発芽率につい
 ては各年次とも穂収穫乾燥区の方が高く、粉色では平成4年、5年が粉の明るさで穂収穫が優れた(表4)。
5)利用経費
  汎用コンバインを使用し小麦穂のみを乾燥する体系の時間当り利用経費は26,818円/hで、ha当り利用経
 費は83,641円/haと試算される。なお、年間3作物の乾燥に利用する場合は50,373円/haとなる。子実収穫乾
 燥体系に穂収穫乾燥法を導入することにより、10日前後の収穫期間の拡大が可能となる。

 

10.主要成果の具体的数字

表1  収穫作業条件
機械名 回転数及び調節 穂収穫用の関連対応
汎用コンパイン
(刈幅2.6m)
リール:15rpm フィーダスラット:1本毎取外し
フイードオーガ:177rpm フィーダスラット:硬質ゴム取付
スクリューオーガ:716rpm 減速用プーリ、Vペルト交換
チャフシープ:全閉 コンケープ:取り外し
クリーニングファン:標準 排わら口:集稈用の樋付
収納エレベータ コンベア速度:1.8m/s コンバイン後部:けん引装置

 

 

表2  収穫特性
試験区 汎用コンバイン
刈局さ(㎝) 62.5 65.2 69.1
速度(m/s) 0.8 0.9 1.0
刈取り総重(kg/10a) 15.0 10.6 9.6
総子実重(㎏/10m) 9.1(穂水分:42.7 w.b%)
未脱穂回収割合(%) 83.2 83.3 61.6
刈取部
損失
刈残し(%) 1.6 0.7 12.5
落ち穂(%) 2.3 0.0 7.1
落粒(%) 0.1 0.2 0.0
圃場総損失(%) 4.0 0.9 19.5
穂流量(t/h) 4.3 3.3 3.3
切断長(㎝) 24.3 21.5 19.0
付着稈長(㎝) 18.4 15.7 13.3
子実収量(kg/10a) 326(子実水分:41.2 w.b%)
注)損失は子実重量割合(%)

 

表3  作業能率
コンパイン
区分
作業速度
(m/s)
作業面積
(a)
総所要時間
(h)
作業内訳 作業能率
(ha/h)
備考
刈取り(%) 停止移動(%) 排出(%)
汎用軸流
2.6m
0.9
(0.7〜1.2)
30.0 0.91 39.8 15.3 44.9 0.33 運搬車1台
運搬距離50m

 

表4  小麦品質検査結果
試料区分 収穫日 脱穀日 刈取時水分% 発芽特性% アミロ粘度 粉色CGV 粉色 検査
等級
L* a* b*
H4 穂収穫 7/28 8/ 3 41.0 98.5 99.5 830 1.18 89.2 -1.1 15.0 1等
H4 子実収穫 7/28   41.0 81.0 85.0 365 3.85 87.6 -1.2 14.6 2等下
H5 穂収穫 8/ 3 8/24 41.2 92.0 94.5 120 2.40 88.6 -0.8 14.9 2等
H5 子実収穫 8/ 3   41.2 68.0 72.5 70 2.90 88.2 -1.0 15.9 規格外
H6 穂収穫 7/25 8/ 1 40.6 95.0 96.0 1000 0.09 90.1 -0.9 14.8 1等
H6 子実収穫 7/25   40.6 86.5 88.5 890 -0.06 90.1 -0.9 14.8 1等

 

11.普及上の留意事項
 大規模化には風量比を2m3/s・t以上として送風機を選択し、穀層通過風速が0.2m/s以上となる高さに堆積する。

12.今後に残された問題
 (1)普通型コンバインを利用する規模別実証試験
 (2)収穫適期(成熟期)の判定