成績概要書(作成 平成7年1月23日)
1.課題の分類  総合農業 作業技術 収穫−畑作 北海道 農業物理 5-(4)
2.研究課題名  傾斜地対応馬鈴しょ収穫機の実用化
3.予算区分  受託
4.研究期間  平成6年
5.担当  道立十勝農業試験場 研究部 農業機械科
6.協力・分担関係  なし

7.目的
 美瑛町における加工用馬鈴しょの栽培面積は約1,500haであるが、その大部分は傾斜地圃場で、重心が高いポテトハーベスタの使用が難かしい。また、土質が重粘性で収穫時には馬鈴しょと同形の土塊が混入する。このため、コンパクトで小回りがきき安全構造で、かつ土塊粉砕装置を組み込んだ傾斜地対応のポテトハーベスタの開発が切望されている。馬鈴しょ収穫機の傾斜地対応構造として具備すべき条件調査を行うとともに、土塊粉砕装置を搭載した小型バガータイプ馬鈴しょ収穫機の傾斜地における収穫性能を明らかにする。

8.試験研究方法
1)試験期日・場所平成6年9〜10月上川管内美瑛町
2)供試機ポテトハーベスタ型式:FPH−S
3)供試品種「トヨシロ」、「農林1号」(以後「農1」)
4)調査項目及び具体的方法
 (1)作物条件:栽植様式、収量、茎葉水分、いも重量分布
 (2)圃場条件:土壌硬度、土塊径分布、畦形状、圃場傾斜度
 (3)作業精度:作業速度、平坦・登坂・降坂作業時
  ①掘取り損失
  ②損傷程度(貯蔵20日後調査)
  ③茎葉・土塊除去量
 (4)所要動力:牽引動力、速度別PT0軸動力
 (5)作業能率:作業速度、各工程別時間、作業人員

 

9.結果の概要・要約
1)構造及び特徴
  土塊粉砕装置を装備したトラクタけん引型のバガータイプ1畦用ポテトハーベスタである。掘り取り部は、花
 形円盤コールタと振動式3ポイントショベルからなり、第一コンベヤからカゴ型ローラまで移動する間に土砂が
 分離される。土塊は土塊粉砕装置で砕かれて茎葉とともに排出される。手選別された上いもは、
 1m3(500kg)のフレコンバッグに収納され、満充填になると油圧式の簡易クレーンによって荷降ろしされる
 (表1)。傾斜地対策として、土塊粉砕装置の傾斜度を圃場の傾斜に応じて調節可能とし、収穫機が等高線走
 行時に流れないよう油圧シリンダで機体保持輪に切れ角を付加させる。
2)作業精度
  収穫試験は「トヨシロ」が畦方向に平均3.9°畦と直角方向の傾斜が平均0.1°の起伏のある圃場で行い、
 「農1」は畦方向に最大8.0°畦と直角方向の傾斜が最大10.0°の圃場で行った。機上選別者3名で試験を実
 施した結果「トヨシロ」では作業速度0.3m/sで収穫損失は0.4%、損傷(大、中)が0.1%、皮むけ(大)は1.2%
 で、土砂・莢雑物混入率は0.1%であった。「農1」を作業速度0.3m/sで収穫した結果、収穫損失は0.1
 %で、損傷(大、中)が5.7%、皮むけ(大)は6.4%で、土砂・莢雑物混入率は0.0%であった(表2)。損傷発生
 箇所は選別コンベヤと横送りコンベヤとの受渡し部で、現在は皮むけ防止対策が施されている。
3)加工時の損傷調査
  20㎏試料を3週間常温貯蔵し、水洗後に傷調査を行い・ピラーで皮を剥いて打撲等の内部損傷を調査
 した結果、「トヨシロ」ではディガと同程度の損傷であり、「農1」ではディガよりも損傷が少なかった。
 何れの品種においてもFPH−Sの総揚傷はタンカータイプの藤見大型より若干少なかった(図2)。
4)土塊粉砕装置の効果
  砕土率で比較すると、土塊径10㎜以下の割合は収穫前76.1%、45.2%が、収穫後にそれぞれ82.7%、66.7
 %となり、土塊粉砕効果が確認された。
5)所要動力
  本機は油圧モータ駆動で、無負荷時で3.3PS作業時で4.3PSであった。けん引動力は、登坂時の作業速度
 0.35m/sで2.5PS、平坦地の作業速度0.34m/sで1.8PS、降板時の作業速度0.31m/sで0.8PSであった。適応ト
 ラクタは、所要動力値とヒッチ点荷重より50PS級の4輪駆動が適応する。
6)作業能率
  傾斜度4°前後の「トヨシロ」圃場における圃場作業能率は、作業速度0.42m/sで7.67a/h、傾斜度4°
 横傾斜度8°前後の「農1」圃場における圃場作業能率は作業速度0.30m/sで4.52a/hであった。何れも
 荷降ろし作業が全作業の20%を占めていた(表3)。

 

10.成果の具体的数字

表1  供試機の仕様
機体寸法 全長(㎜)
全幅(㎜)
全高(㎜)
4,960
2,520
2,700
第1コンベヤ形式
リフトコンベヤ方式
寸法(㎜)
ベルトロッド、コンベヤ幅:650㎜
ロータリバケット方式
内径1400×幅400×深さ180
機体重量(kg) 2,040 畦合せ装置 油圧シリンダ可変(±100㎜)
トラクタヘの装着法
ヒッチの形状・種類
3点リンク半直装
アーチ型3点リンクドローバー
選別コンベヤ形式 ベルトロッド(第1〜3)
コンベヤ幅:600㎜
走行部 車輪
輪距(㎜)
ステアリング装置
9.00-15 8PR
2,100㎜(固定)
片側油圧シリンダ調節
土塊粉砕装置
屑いもタンク(m3)
上いも収納法
傾斜角度(-3.3°〜9.3°)
0.35
フレコンバッグ(400〜600kg)
掘取部条数(条)
堀取刃(㎜)
1(3ポイントショベル)
長さ240mm、幅553mm
掘取深調節法
適応トラクタ(PS)
トラクタポジション
50以上

 

表2  収穫作業精度        (測定区間10m:手選別あり)
項目 試験区分 「トヨシロ」 農1
機体姿勢 登板 平坦 降板 平均 登板 降板 平均
収穫損失割合(%) 0.4 0.2 0.5 0.4 0.0 0.2 0.1
掘残し(%) 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0
埋もれ(%) 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0
拾残し(%) 0.4 0.2 0.5 0.4 0.0 0.2 0.1
損傷発生割合①+②(%) 0.1 0.2 0.0 0.1 7.9 3.5 5.7
①+②+③(%) 1.3 1.5 0.4 1.0 32.6 12.4 22.5
①大(%) 0.1 0.2 0.0 0.1 3.4 1.6 2.5
②中(%) 0.0 0.0 0.0 0.0 4.5 1.9 3.2
③小(%) 1.2 1.3 0.4 1.0 24.7 8.9 16.8
皮むけの程度④(%) 0.0 2.6 0.9 1.2 7.1 5.8 6.4
④+⑤(%) 9.7 23.4 17.1 16.7 12.3 9.4 10.8
④大(%) 0.0 2.6 0.9 1.2 7.1 5.8 6.4
⑤小(%) 9.7 20.8 16.2 15.6 5.2 3.6 4.4
土砂・夾雑物混入率(%) 0.0 0.1 0.1 0.1 0.0 0.0 0.0
注)①損傷大;直径1㎝以上の切傷・打傷②損傷中;直径1㎝以下の内皮に達する擦傷
  ③損傷小;内皮に達しない擦傷(貯蔵・加工上で問題とはならない損傷)
  ④皮むけ大;直径1㎝以上
  ⑤皮むけ小;直径1㎝以下(貯蔵・加工上で問題とはならない皮むけ)

 

 

表3  作業能率
品種 作業幅
(m)
作業速度
m/s
全作業時間
(min)
作業の内訳
(%)
作業能率
a/h
作業効率
(%)
作業面積
(㎡)
実作業 旋回 荷降し 停止調整
トヨシロ 0.76 0.42 60.7 67.4 10.5 19.0 3.1 7.67 66.8 776.1
農1 0.72 0.30 242.2 61.5 8.0 20.6 9.9 4.52 58.2 1826.5

 

11.成果の活用面と留意事項
 圃場の傾斜度は10°以内とする。
 適応トラクタは50ps以上。

12.残された問題点とその対応