成績概要書(作成 平成7年1月)
1.課題の分類  総合農業 生産環境 病害虫
          北海道 病理昆虫 農薬水稲
2.研究課題名  水稲の地上液剤少量散布による病害虫の防除効果(新資材試験)
3.予算区分  道費
4.研究期間  平成6年
5.担当  北海道立中央農業試験場 稲作部 栽培第二科
      北海道立上川農業試験場 研究部 病虫科
6.協力・分担関係

7.目的
 新たに開発された地上液剤少量散布による病害虫の防除効果と薬害に付いて、従来の慣行散布と検討し、液剤少量散布の実用化に資する。

8.試験研究方法
(1)供試散布機
 中央農試は乗用田植機装着式ブームスプレーヤ,上川農試は少量散布用に製作された試験用ノズルを背負式動力噴霧機に装着して実施した。
(2)供試薬剤と使用濃度
 試験-1:エトフェンプロックス・カスガマイシン・フサライドゾル(10%+1.2%+15%)300倍,
 試験-2:MEP・カスガマイシン・フサライド水和剤(20%+0.6%+10%)150倍
 試験-3:エトフェンプロックス・トリシクラゾール水和剤F(6.2%+8%)120倍
 慣行散布区:エトフェンプロックス・カスガマイシン・フサライド水和剤(10%+1.2%+15%)1,000倍
(3)耕種概要・その他
項目 中央農試稲作部 上川農試
供試品種 「上育糯417号」,中苗マット 「きらら397」,「彩」
移植月日 5月26日 5月25日
区制面積 少量散布:950㎡,
反復なし慣行散布:950㎡,
反復なし無散布:140㎡,反復なし
「きらら397」:118.8㎡、
2反復r彩」:26.4㎡、
反復なし
散布量 少量散布:25L/10a
慣行散布:120L/10a
散布時期 ①7月29日②8月5日 ①7月28日②8月4日
調査方法 常法により実施した。

 

9.結果の概要・要約
(1)中央農試稲作部では乗用田植機装着式ブームスプレーヤを、上川農試では試験用ノズルを供試して、いも
 ち病、ヒメトビウンカ、アカヒゲホソミドリメクラガメおよび斑点米を対象に散布方法の違いによる防除効果の
 差異を検討した。
(2)いもち病に対するカスガマイシン・フサライド・エトフェンプロックスゾル(300倍、25L/10a以下同じ)の少量散
 布は、無散布に比較して発病が少なく、慣行散布(カスガマイシン・フサライド・エドフェンプロックス水和剤、
 1,000倍、120L/10a以下同じ)と同等からやや優る防除効果が認められた。
(3)ヒメトビウンカに対する少量散布は、多発生の中央農試では慣行散布に比較すると補正密度指数がやや
 高かったが、統計的に有意な差異は認められず、慣行散布とほぼ同等の防除効果と判断された。少発生の
 上川農試では少量散布は、慣行散布と同等の防除効果であった。
(4)中央農試ではアカヒゲホソミドリメクラガメの発生が極めて多く、近年にない好適な条件下での試験であっ
 た。少量散布は慣行散布に比較して成虫、幼虫数とも少なく、斑点米の混入率も同程度であることから、慣行
 散布と同等の防除効果があると判断された。上川農試ではカメムシ、斑点米とも少発生ではあったが、少量
 散布は慣行散布とほぼ同等の防除効果であった。

(5)少量散布によるイネ茎葉に対する薬害は認められなかった。また、出穂期以降の本田に乗り入れた防除作
 業によって、その他の病害虫の発生が助長されることはなかった。
(6)乗用田植機装着式ブームスプレーヤによる少量散布の実散布量は23.2〜25.5Lであった。設定散布量に対
 する実散布量の割合は平均で97.2%(92.8%〜102.0%)で、ほぼ目標どおりの散布が達成されていると判断さ
 れた。
(7)圃場内移動走行による第2回散布直後の回行部分の踏み倒し株数は19〜75株(平均44.8株)で、試験区の
 全株に対する割合は0.7〜0.9%であった。直進部分では車輪による巻き込みや踏み倒しは認められなかった。
(8)走行直後はイネ体が押されて、走行部分がはっきり判るが、翌日には走行部分が判別できない程度に回
 復した。
(9)水田内で薬液を補給する場合に、エンジン部分からの放熱により車体下部のイネの茎葉が焼けて白くなる
 症状が認められた。

 

10.成果の具体的成果

表1  乗用田植機装着ビームスプレーヤによる散布状況
試験場所 中央農業試験場稲作部圃場
試験区 試験-1 試験-2 試験-3
平均散布速度(m/s) 0.42 0.45 0.40
散布時ノズル高さ(㎝) -5〜10 -5〜10 -5〜10
耕盤下車輪沈下量 1.0〜10.0(3.3) 0.5〜3.0(1.3) 0.5〜2.5(1.4)
設定散布量(L/10a) 25.0 25.0 25.0
実散布量(L/10a) 25.5 23.2 24.2
同化(実散布量/設定%) 102.0 92.8 96.8
踏倒し株率(%) 0.7 0.8 0.9

 

表2  少量散布によるいもち病の防除効果と薬害
試験場所 処理区 葉いもち病 穂いもち病穂率(%) 節いもち
病節率(%)
薬害
病株率(%) 発病度 穂首 枝梗
中央農試 少量散布 2.7 0.7
(94.9)
0.07 0.26 0.33
(93.9)
0 -
慣行散布 18.7 4.7
(65.7)
0.07 0.91 0.98
(81.9)
0 -
無散布 54.7 13.7 2.86 2.54 5.40 0 -
上川農試 少量散布 92 23 0 3.7 3.7 1.8 -
慣行散布 80 20 0 1.5 1.5 0.2 -
無散布 100 25 2.9 14.5 17.4 3.6  
注)上川農試は「彩」での成績を示した。( )内は防除価。

 

11.成果の活用面と留意点
 1)水稲の地上液剤少量散布には、定量を均一に散布できる地上液剤少量散布装置を具備した機種を
  使用する。
 2)「水稲乗用機械化一貫作業体系」(昭和58年,普及奨励事項)で提示された留意事項を遵守する。

12.残された問題点とその対応
 1)地上液剤少量散布機の実用化と農薬の登録促進
 2)ブーム幅の拡張や搭載タンク容量の増大などによる作業能率の向上