(作成 平成7年1月)
1.課題の分類  総合農業 生産環境 病害虫 病害
          北海道 病理昆虫 農薬 畑作
2.研究課題名  寒冷紗ハウスを利用した種ばれいしょのジャガイモYウイルス(PVY-T)感染防止試験
3.予算区分  道費
4.研究期間  平成5〜6年
5.担当  北海道立中央農業試験場 病虫部
      北海道立中央農業試験場 畑作部
      農業改良課
6.協力・分担関係  空知北部地区農業改良普及センター

7.目的
 寒冷紗ハウス栽培による種ばれいしょ(原種)ジャガイモYウイルス感染防止効果の確認と栽培上の問題点を把握する。

8.試験研究方法
 1)実施場所:平成5年は深川市3か所、平成6年は同市2か所
 2)供試品種:いずれも「男爵いも」
 3)処理区分:寒冷紗ハウス(トンネル)栽培、慣行露地栽培
 4)区制面積:1区15㎡〜550㎡、反復なし
 5)植付月日:平成5年は5月9〜12日、平成6年は5月13日
 6)栽植密度:72×22cm〜75×30㎝
 7)ハウス設置期:平成5年は6月3〜14日(萌芽期から0〜12日後)
           平成6年は6月9〜10日(萌芽期から4〜6日後)
 8)ハウス撤去日:平成5年は8月23〜25日、平成6年は8月26日〜9月5日
 9)培土=ハウス設置日の平成5年は前日・直前・20日後、平成6年は19日後・前日
10)病害虫防除:ハウス内から慣行露地裁培同様の防除を行った。
11)寒冷紗はクレモナF1000(目合0.95mm、透光率82%)を使用。

9.結果の概要・要約
 1)平成5年は極端な低温年、平成6年は極端な高温年の2か年の結果である。
 2)寒冷紗ハウス内と露地の地表温度(平成6年)
  ①最高は0.3から1.9℃、最低は0〜2.4℃、平均は0〜1.5℃ハウスの方が高く、したがって、6月中旬から8月中
  旬までの積算地表温度も50℃高くなった。
  ②ハウス内の最高地表温度は40℃を越えることがあったが、収量等に影響は認められなかった。
 3)寒冷紗ハウス栽培と露地栽培の生育および主要病害虫の発生状況
  ①両年とも両者の間に、着蕾期、開花期の差は認められなかった。
  ②茎長は両年ともハウス栽培でやや長い傾向がみとめられた。その結果として、倒伏時期はハウス栽培で
  やや早くなった。
  ③疫病は両者の間に差は認められなかった。軟腐病でも一定の傾向は見いだせなかった。
  ④アブラムシ類は両年、両者とも寄生を確認できなかった。
 4)寒冷紗ハウス栽培と露地栽培の収量
  ①規格内いも重は、試験結果ではハウス区がやや高かったが、窒素を減じて、地上部生育量を露地区と同
  等にするとほとんど差がないものと考えられた。
  ②でん粉価はハウス区では、同一施肥量でやや低く、窒素量を減じた場合は若干高まる傾向がみられた。
 5)寒冷紗ハウス栽培と露地栽培のウイルス感染率両年のハウス栽培の頂葉検定、頂芽検定、平成5年の
  原種農家の頂芽検定及び栽培法を異にした種いもを植付けた場合の抜取り率の結果は、いずれも、極め
  て低い値で、ハウス栽培での高いウイルス感染防止効果を示した。

 

10.主要成果の具体的数字

表1  ハウス内と露地地表温度
区分 項目 6月 7月 8月 積算気温
 
ハウス
10時 24.1 24.2 23.1 24.9 31.7 35.4 29.7 1612.5
最高 30.4 28.9 27.8 29.0 39.3 40.2 31.2
最低 10.2 10.5 15.6 16.4 20.3 21.2 21.0
平均 20.3 19.7 21.5 22.8 29.7 30.7 26.1
 
慣行露地
10時 24.2 28.3 22.3 24.7 30.1 34.2 29.2 1562.5
最高 29.4 27.0 25.9 28.8 39.0 38.5 30.9
最低 9.6 9.5 14.5 14.0 20.3 20.9 21.3
平均 19.5 18.2 20.2 22.4 29.6 29.7 26.1

 

 

表2  ウイルス感染率・生育・収量・病害発生状況調査



区分 萌芽期
(月.日)
着蕾期
(月.日)
開花期
(月.日)
茎長
(㎝)
茎数
(本)







軟腐病
病茎率

いも重
kg/10a
規格内
いも重
kg/10a
株当り
いも数
でん
粉価
腐敗
いも率
(収穫時)
頂芽
検定
陽性
率%



A ハウス
減肥
6.3 6.23 6.30 40.4 2.0 0 5.0 2870 2468 - 14.2 0 5.0
露地 6.3 6.23 6.30 39.8 2.6 0 1.5 2580 2220 - 13.4 0 25.1
B ハウス 5.29 6.20 6.28 69.3 2.4 0 8.4 4289 3446 7.6 - 0 0
露地 5.29 6.21 6.29 62.9 2.7 0 2.7 5026 3948 8.3 13.7 0.004 10.0
C ハウス
減肥
6.4 6.25 7.1 42.3 3.1 0 8.1 2668 2231 6.5 15.3 0 3.0
露地 6.4 6.25 7.1 25.0 2.2 0 20.2 2428 1957 7.2 14.3 0.004 26.0

ハウス 6.2 6.23 6.30 50.7 2.5   0 87.2 3360 2798 6.9 14.8 0 2.7
露地 6.2 6.23 6.30 42.6 2.5   0 8.1 3680 3052 8.4 13.8 0.003 20.4



D ハウス 6.4 6.22 6.29 49.3 2.3 0 8.9 2493 2361 9.2 13.2 0 0
露地 6.4 6.22 6.29 47.3 2.3 0 16.9 2255 2046 9.0 13.5 0 28.0
E トンネル 6.5 6.24 6.30 43.5 2.2 0 0 2402 2279 5.9 - 0 0
露地 6.5 6.24 6.30 39.8 2.1 0 0 2502 1879 4.7 - 0 12.3

ハウス 6.5 6.23 6.30 46.4 2.3   0 4.5 2448 2320 7.6 13.2 0 0
露地 6.5 6.23 6.30 43.6 2.2   0 8.5 2154 1963 6.7 13.5 0 20.2
注:頂芽検定はエライザーにより、擬陽性も含む
注:「黄色枠」は実収値より算出
注:試験地C・露地は培土深が過度となった。試験地Eは小規模試験(2反復)

 

11.成果の活用面と留意点
 1)寒冷紗ハウス種いも栽培は慣行露地栽培にくらべ、ウイルス(PVY-T)の感染を極めて低くおさえ、
  生育、収量、品質、他の病害虫の発生等の面でも大きなな問題点もなく種いもの栽培法として有効である。
 2)ハウスの設置は萌芽前に行うことが望ましい。
 3)防除は慣行法と同様に行う。(その他、ウイルス病対策も従来同様に遵守する)
 4)ハウス栽培は生育が軟弱徒長気味となることがあるので、施肥窒素を慣行露地栽培より減肥することが
  望ましい。

12.残された問題点とその対応
 1)ハウス栽培での適正施肥窒素量の検討
 2)極早期培土の地域適合性の検討(ハウス管理作業)
 3)ハウス外面散布の防除効果の検討
 4)防除回数削減可否の検討