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1.課題の分類 総合農業 生産環境 病害虫 病害 北海道 病理昆虫 病害 ユリ 2.研究課題名 食用ユリの葉枯れ症の発生実態とその病因 (モノクローナル抗体の作出、利用によるウイルス病の簡易診断法開発試験 -ユリウイルス病の簡易検定技術) 3.予算区分 道費 4.研究期問 平成3〜6年 5.担当 中央農試病虫部病理科 十勝農試研究部病虫科 6.協力・分担関係 |
7.目的
食用ユリ(品種:白銀)に発生した葉枯れ症の発生実態を把握するとともに、その病因を明らかにし、当面の防除対策を確立する。
8.試験研究方法
| 1)発生実態調査: | 1991年(1市)3圃場、1992年(11市町村)29圃場、1994年(10市町村)30圃場の 各一般圃及び1992年(8市町)13圃場の採種圃について調査 |
| 2)葉枯れ症の原因究明: | 汁液及びりん茎伝染の可否、接種による病徴の再現、発病株から病原ウイ ルスおよびFusarium菌の検出 |
| 3)病原ウイルスの同定: | ウイルス粒子の形状、寄主範囲、物理的諸生質、血清試験、ウイルス外被 たんぱく質の分子量 |
| 4)葉枯れ症の伝染経路: | 多発圃場(恵庭市)において、ウイルスフリー種球、寒冷紗及ぴ土壌消毒 を組合わせた8処理について発病株率を調査 |
9.結果の概要・要約
1)発生実態調査
(1)食用ユリ(品種:白銀)の葉枯れ症は道内各地の主要栽培地帯に広範囲に発生しており、一般圃における発病株率は調査全体としては30%程度であったが、中にはほぼ全株発病の激発圃場も見られた。また、採種圃においても調査全体で約2%の発生が認められた。
2)葉枯れ症の原因究明
(1)葉枯れ症の病葉を健全食用ユリ(品種:白銀)に汁液接種した結果、供試7検体中6検体が発病したことから、葉枯れ症が汁液伝染することが明らかになった。
(2)圃場に発生した葉枯れ症株から採取したりん茎を鉢植えし、発病の有無を観察した結果、供試した2株はいずれも植え付け50〜60日頃から葉枯れ症状を呈した。このことから、葉枯れ症がりん茎により次代に伝染することが明かになった。
(3)葉枯れ症株から病原ウイルスの検出を行った結果、供試46検体の全てからチューリップモザイクウイルス(TBV)とひも状ウイルスが検出された。
(4)TBVとひも状ウイルスを健全食用ユリ(品種:白銀)にそれぞれ、単独及び混合接種した結果両者が重複感染した場合にのみ葉枯れ症が生じた。このことから、葉枯れ症がTBVとひも状ウイルスの重複感染によって生じることが明らかになった。
(5)道内11市町村から採集した葉枯れ症113株中病原ウイルスの検出率が約76%、Fusarium菌の分離率が約17%であった。このことから、現地圃場における葉枯れ症の主因はウイルスと考えた。
3)病原ウイルスの同定
(1)ひも状ウイルスの粒子の長さは470〜500nmであった。
(2)本ウイルスを10科43種の植物に接種した結果、Chenopodiumamaranticolor、C.quinoa、C.mura-le、センニチコウ、ツルナ、ホウレンソウ、フダンソウに局部感染し、レタス、シュンギク、食用ユリ(品種:白銀)、シンテッポウユリに無病徴全身感染した。
(3)本ウイルスの不活化温度が55〜60℃(1O分)、希釈限界が10-5〜10-6、保存限界が15日(20℃)であった。
(4)本ウイルスの外被たんぱく質の分子量は、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(17.5%ゲル)の結果、約24,000〜25,000と推定された。
(5)本ウイルスは、LilyvirusX抗血清(オランダより分譲)とELlSA法により反応が認められた。
(6)以上のことから、本ウイルスは我国で未報告のLily virusXと同定した。
4)葉枯れ症の伝染経路
(1)ウイルスフリー種球を使用した場合、寒冷紗被覆栽培すると葉枯れ症は全く発生しなかった。しかしながら、露地栽培では生育後半に若干発生が認められた。
(2)在来種球を使用した場合、発病株率は約52〜68%で、土壌消毒及び寒冷紗被覆の有無による処理間の差は認められなかった。
10.主要成果の具体的数字
表1.一般圃における食用ユリ葉枯れ症
の発生状況(1992年)
| 場所 | 調査株数 | 発病株数(率) | |
| 乙部町 | A | 400 | 164(41.0) |
| B | 400 | 277(69.3) | |
| C | 400 | 118(29.5) | |
| 恵庭市 | A | 200 | 38(19.0) |
| B | 200 | 111(55.5) | |
| C | 400 | 294(73.5) | |
| D | 400 | 39(9.8) | |
| 真狩村 | A | 400 | 46(11.5) |
| B | 400 | 76(19.0) | |
| C | 400 | 128(32.0) | |
| 喜茂別町 | A | 400 | 98(24.5) |
| B | 400 | 267(66.8) | |
| 和寒町 | A | 400 | 143(35.8) |
| B | 400 | 1(0.3) | |
| C | 400 | 144(36.0) | |
| 剣淵町 | A | 400 | 118(29.5) |
| B | 400 | 247(61.8) | |
| C | 400 | 195(48.8) | |
| 風連町 | A | 400 | 13(3.3) |
| B | 400 | 23(5.8) | |
| C | 400 | 124(31.0) | |
| 名寄市 | 400 | 63(15.8) | |
| 美瑛町 | A | 400 | 44(11.0) |
| B | 400 | 0(0) | |
| C | 400 | 1(0.3) | |
| D | 400 | 26(6.5) | |
| 中富良野町 | A | 400 | 397(99.3) |
| B | 400 | 87(20.5) | |
| 富良野市 | 400 | 12(3.0) | |
| 総計 | 11,200 | 3,287(29.3) | |
表2.食用ユリ葉枯れ症から病原ウイルス
およびFusarium菌の検出
| 病徴 | 場所 | 検定数 | 検出数(率) | |
| ウイルス | Fusarium | |||
| 葉枯れ | 剣淵 | 8 | 8 | 1 |
| 美瑛 | 21 | 20 | 4 | |
| 中富良野 | 22 | 21 | 7 | |
| 富良野 | 4 | 4 | 0 | |
| 恵庭 | 19 | 10 | 3 | |
| 喜茂別 | 7 | 5 | 1 | |
| 真狩 | 13 | 8 | 0 | |
| 乙部 | 19 | 10 | 3 | |
| 計 | 113 | 86(76.1) | 19(16.8) | |
| モザイク | 美瑛 | 3 | 0 | 2 |
| 富良野 | 3 | 0 | 1 | |
| 喜茂別 | 2 | 0 | 1 | |
| 計 | 8 | 0(0) | 4(50.0) | |
| 無病徴 | 美瑛 | 9 | 0 | 3 |
| 中富良野 | 7 | 1 | 2 | |
| 富良野 | 2 | 0 | 0 | |
| 恵庭 | 2 | 0 | 0 | |
| 喜茂別 | 2 | 0 | 1 | |
| 乙部 | 3 | 0 | 1 | |
| 計 | 25 | 1(4.0) | 7(28.0) | |
表3.食用ユリ葉枯れ症の伝染経路
| 処理区 No. |
調査 株数 |
発株株率(%) | ||
| 6月17日 | 7月13日 | 8月18日 | ||
| 1 | 113 | 0 | 0 | 0 |
| 2 | 101 | 0 | 0 | 1 |
| 3 | 116 | 0 | 0 | 0 |
| 4 | 114 | 0 | 0 | 8.8 |
| 5 | 103 | 45.6 | 70.9 | 68.8 |
| 6 | 103 | 48.5 | 59.2 | 51.5 |
| 7 | 98 | 26.5 | 61.2 | 64.3 |
| 8 | 102 | 36.3 | 55.9 | 58.8 |
11.成果の活用面と留意点
(1)食用ユリ(品種:白銀)の葉枯れ症は、道内の主要栽培地帯に広く発生が認められた。
(2)本症は、チューリップモザイクウイルス(TBV)とユリXウイルス(LVX)の重複感染によ
って生じる食用ユリの新病害である。
(3)当面の防除対策として、以下の基本技術を励行する。
①採種圃においては、ウイルスフリー種球を使用し、寒冷紗による被覆栽培を行う。
②TBVはアブラムシ類により媒介されるので、その防除を行う。
12.残された問題とその対応
(1)ユリXウイルスの伝染源、伝染経路、伝染方法の解明
(2)食用ユリ及び花ユリ各品種に対する病原性
(3)本症とFusarium菌による立枯れ症の関係とその判別
(4)病原ウイルス検出のためのモノクローナル抗体の作出